表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

外勤は危険④


 窓からユリアを背負って脱出する。

時は夕方で空には夕焼けが広がっていた。

周囲を見渡すが森が広がるだけでどちらに行ったら良いのか全く検討がつかない。


窓ガラスを破り出たログハウスのような家は山小屋だったのだろう。


ーー暗くなる前に騎士達に見つけて貰うか、街に出て保護を頼まなければーー


もう一度広がる夕焼けを見て、どちらが北でどちらが南なのか考えるが全くわからない。

空で判断するのを辞めて下を見るとタイヤの跡があった。


犯人達と遭遇するリスクがあるが、タイヤ痕を辿り街に出る方法が一番迷わない方法だとリンは結論づけ、周囲の音に警戒しながらユリアを背負って歩き始める。



ーー大丈夫。必ず助かるーー


暫くタイヤ痕に沿って歩いていると、警戒していたエンジン音が遠くの方で聞こえた。


焦らずタイヤ痕から離れ生い茂った草や木の近くにユリアを背負ったまましゃがみこむ。



ブロロロ ガタッガッ



恐ろしい音を立てながら、車が近くを通り過ぎて行く。草の間から目を凝らして見ていたが、はっきりしない。ただ、乗せられた時に聞いた振動音とエンジン音によく似ている。犯人の男らの車だろう。


帰って来たのだ。


緊張と恐怖で時間感覚を失念していたが、辺りはすっかり暗くなり始めている。


どれくらい歩いたかわからないが、あの山小屋にリン達がいないと気づいてここまで探しに来るまでどのくらいかかるのだろうか。


もうタイヤ跡のすぐそばを歩くのはやめた方がいいだろうと判断して、兎に角下ることを意識しながら生い茂った森の中を歩く。


ーーあと少し、あともう少し


そうやって自身を鼓舞して一歩一歩進めるが段々身体に力が入らなくなって来ている。

ユリアを背負い歩いていることの疲労か、切った腕や手からの出血が響いているからか、マスクの上からごく少量嗅がされた毒が今になって影響しているのかと色々な可能性を考えたがその全てが該当すると思った。そして、遂には地に膝をついてしまう。


ーー大丈夫。まだ、歩ける。大丈夫。ーー


弱気になりそうな心に必死に言い聞かせるが、外は薄暗く陽が沈みギリギリ視界が保てるほどでそれがさらに恐怖を呼ぶ。


「ユリア。」


驚くほどか細い声が自分から出た。

ユリアは呼びかけに応じて一度頷き、



「先に、山を降りて、助けを、呼んで。」


と途切れ途切れに息を吐き小さな声で自身を置いて行くように言うではないか。


「やめて。こんなどこかもわからない場所にユリアを置いて行けるわけないじゃない。」


その声に目頭が熱くなり、さらに辛くなる。

しかし、泣いて状況が好転するはずがないと思い、歯を食いしばって涙を堪え、膝に力を入れてもう一度立ち上がり、


「大丈夫。大丈夫だよ、ユリア。きっと、もうすぐ助けが来るわ。」


と声に出す。

脚の筋肉が痙攣するように震えて中々一歩が出ない。

休憩を取った方がいいのか、でも、後ろから男達が追って来ている気がして、その決断が出来ない。


立ち上がったまま一歩も脚が前に出ない。



ガクガクと身体から力が抜け、再び膝をついてしまった。


上を見ても雲が月や星を覆っているのか、光が見えない。このまま完全に暗闇に包まれれば動くことは不可能だ。

震える手で胸ポケットからペンライトを取り光をつける。


ペンライトは元々瞳孔の開きを見るために作られた道具なので光は細く弱く辺りを完全に照らし切ることなできない。


ペンライトの光が膝をついたリンの足元の一点を僅かに照らす。

そこには青い花が一輪咲いていた。

ロザリーとの思い出が沢山詰まった青色の花。



ーーーロザリー、お願い。助けて。もう足に力が入らないのーー



堪えきれず頬を涙が濡らす。


ロザリーに助けを頼んでもどうしようもないとわかっていても、縋ってしまう。



ーー『リンがロザリーを覚えている限り、ロザリーはリンの中でリンを応援できるのだから』ーー



母が手紙に書いてくれた。今もロザリーは応援してくれているだろうか。

こんな不甲斐ない自分を。



ーー『リンの中にいるロザリーはあの頃と同じように優しいままでしょう』ーー



ーー本当に?本当にこんな弱い自分をでも?ううん、ロザリーは弱いからと言って見捨てるようなことはしないーー





「ロザリーっ、助けて。」





青い花に涙ながらに声にして頼んだ。

ロザリーはいつだって、優しくてリンが泣くと泣き止むまで側にいてくれたのだから、今だってきっと側にいる。



「ロザリーっ、お願い。」



リンが懇願するように声を絞るとロザリーが『大丈夫よ』と頷くかのように風が吹き青い花が微かに揺れた。




それを皮切りに、

サァーサァーと風が吹き始める。


真っ暗だった周りがほんの少しずつ明るくなって行く。空を見上げると雲で覆われていたであろう月や星々が優しく輝いている。



ーー『月の精霊は目指す道に月の光と共に導き、勇気をくれる』ーー



学年時代にユリアとテオに教えてもらった月の妖精をロザリーが呼んでくれたのだろうか。


酷く小さな声でしかしはっきりと呟く。




「トゥール ユヌ ユノー」




ーー『俺達は辛い時にいつもこの言葉を紡いで来たんだ。その結果が今なんだから、悪くないだろ?』ーー




ーーそうだ、脚に力よ入れ。



「トゥール ユヌ ユノー」



ーー助かる道はどっちだ、導いて。




どれほど時間が経過したのだろうか。

もう一度、時間をかけて脚に力を入れて立ち上がる。相変わらず、痙攣するように震えているが一歩踏み出すことができた。


「ユリア。楽勝だわ。見てて、まだ歩けるわ。」


リンが敢えて強気な発言をすると、背中でユリアが笑った気がした。


よたよたとしかし着実に前に進み数十分ほど経っただろうか。


辺りに風と違ったガサガサという音がし始めた。ライトの光が遠くの方で2つ見える。



ーー2つ?ーー


あの男達ではと、ユリアを抱え直し、何があっても逃げ切ってやると地を踏みしめ後退りすると、ライトの光が2つから3つ、4つと無数に増えた。



「列を乱すな。犯人達は近い。」


静かながら力強い声が聞こえる。


騎士達だ。


リンはペンライトを光に向かって振った。

騎士の制服が見える、間違いない。


助かったのだ。


毎日、22時更新予定です。


ブックマークや評価ありがとうございます。

励みになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ