初勤務①
日が昇りユリアと共に出勤した。
勤務するところは、心臓に病気を抱えている方が治療する場であった。
「今日は先輩一人につき一人のマンツーマンで指導を行っていく。ユリアはサロイへ、リンはヅッタへつくように。」
ザーリロフ教育担当に言われ、ユリアと離れてヅッタに挨拶へ行く。
「おはようございます。ヅッタ先輩。今日からお世話になります。リンと言います。宜しくお願いします。」
ヅッタは背の高い男性であった。
「宜しく。俺は今年で5年目になる。まず、夜勤からの引き継ぎを受け、それから検温に回る。心臓の病気は直接、目に見えない臓器だが身体への異変は現れやすい。それを見逃すことのないように。いいか、わからないと思ったら直ぐに聞け。己の知識や技術不足が原因で命を危険に晒すなどあってはならない。」
そう言いながら本日担当する患者の病歴や内服等の情報収集を開始している。
「はい。わかりました。」
リンは返事をして、ヅッタの横に着席し、一緒に情報収集を始めた。
しかし、名前、性別、年齢、病歴、手術歴、渡航歴、内服歴、禁止薬、家族構成など一人の患者だけでも情報が多すぎて覚え切れるないし、書ききれない。
リンがもたもたしていると、
「いいか、まずは現病歴だ。『なぜ今治療しているか』そこが重要だ。そこから、派生して今、必要な情報とそうでない情報を分ける。」
ヅッタ先輩はある一名の患者の情報を指差して、
「まず、この患者の情報収集をしてみろ。きちんと出来ているか後でみるから。」
と言い何十人もある情報用紙に素早く目を通して行く。
「はい、ありがとうございます。」
リンは一名の患者でも何十分もかかる。
ヅッタから指定された患者の情報収集も、『現病歴から』と言われたがどれも重要に見えてしまう。
薬の名前もあれだけ学んだのにピンと来ないものばかりだ。
メモして行くノートがどんどん字で埋め尽くされていく。
「出来たか?」
「…すみません。出来ましたが情報を絞り切れませんでした。」
「どれ。うん、書きすぎたな。ほら、俺のと見比べてみろ。」
ヅッタのノートと見比べると、リンが15行かけて書いた情報が簡潔的にわかりやすく、3行でまとめられていた。
「これくらいにまとめられるとベストだ。慣れていけば出来るようになる。毎日、人数を増やしてやっていこう。他の先輩方がどのようにまとめているのか見るのも勉強になる。暇を見て見せてもらえ。」
リンはヅッタのアドバイスを聞きながら、自身がまとめた情報の下にヅッタが3行でまとめた情報を書く。
「次は引き継ぎだ。今、集めた情報に追加してまとめる。ほら、行くぞ。」
「はい。お願いします。」
もうすでに頭がパンクしそうだが、食らいついていかなければ。
リンが1名の情報収集をしていた間にヅッタは12名の情報収集をし、後輩であるリンへのケアも忘れない。
先輩の背中は果てしなく遠いように思えた。
「夜勤お疲れ様です。今日担当の12名分の引き継ぎをお願いします。」
ヅッタが夜勤担当だった衛生師に声をかける。
「こちら、今日から配属のリンです。」
「あ、宜しくお願いします。リンです。お世話になります。」
「そうか、宜しく。引き継ぐぞ。」
「はい。リンは先程収集した1名の患者の情報を主によく聞け。後はどういう風にまとめているか学ぶんだ。いいな?」
リンが「はい」と急いで言うとすぐに引き継ぎが始まる。
ヅッタは夜間で起こったこと、医師の意向、家族の意向など情報用紙にはなかった情報や新たな情報をまとめていく。
時間の表記も「朝の4時」「夕方の4時」とは書かない。24時間表記に統一している。
「4時」は明け方の4時で、「16時」が夕方の4時だ。
そんな細かなことにも感心が隠せない。
そして、リンが主に情報収集した1名の引き継ぎの時が来た。
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