疲れ知らず
今日も先生方は時間一杯まで知識を学生に詰め込もうと何ページも教科書をめくっていく。それに必死に食らいつき、『人体の解剖と機能』の授業と『衛生師の倫理』についての授業を2時間ずつ受け、ノートをまとめ帰ろうとすると、
「帰ろうとしてるところ、ごめんなさい。ちょっといいかしら?」
同じ授業を受けていた黒髪の女の子と焦げ茶色の髪の男の子が席の前に立っていた。
「ええ、大丈夫よ。乗り合いの馬車はまだ本数があるし。」
「あぁ、本当によかった。私達、同じ住み込みの所から来てるの。私がユリアで、こっちがテオ。それでね、今日の『人体の解剖と機能』の授業の心臓と肺の血管についてのところがわからなくて。」
ユリアがノートを指差し見せる。
「夜も遅いし、帰りたいと思うんだけど、教えてもらいたくて。本当にごめんな。俺もユリアもちゃんと聞いてたつもりなんだけど、何故か同じところで躓いちゃってさ。」
テオと紹介された男の子も申し訳なさそうにノートを開いている。
「私はリンっていうの。よろしくね。私で良ければ構わないけれど。」
300人はいる同級生の中で本当に自分で良いのかと思いながらリンが答えると、
「よかった!一年次は沢山いるけれど、実は私達、1年間の落第組なの。落第組は毎年6割強くらい出るから、知ってる顔に聞けばいいんだけど…。」
ユリアがテオを見ると、テオが参ったような表情を作り、
「落第組って言っても、1年や2年じゃない人もいるわけ。何年通っても理解出来てないやつに聞いてもわからないだろ?」
声を潜めてリンに伝える。
「そんなにいるの!?」
つい大きな声が出てしまい、口に手をやる。
「しーっ。そうなんだ。知ってると思うけど、3ヶ月毎の試験でその度に60%と正答しないと、再試験。再試験は1科目3000Gの支払いで、それで正答率60%ないと落第だろ?1科目でも欠けたら、二年次に上がれないってなりゃ、いてもおかしくないさ。実際、俺達も『人体の解剖と機能』と『薬学』の単位落として上がれなかったんだ。」
「テオとユリアは去年1回だけでしょ?何回も試験受けていたら通るものなんじゃないの?」
リンが2人に聞くと、
「過去の試験問題なんて意味ないのよ。先生方も落第者が多いの知ってるから全く同じ問題なんて出さないの。過去の試験問題するのは今の実力で何点取れるかの腕試しみたいなものなの。」
「そうなの!全然知らなかった。私、今年の入学だからわからないことだらけなの。」
ユリアが少し悪戯っ子のように微笑み、
「知ってる!だから、リンに声をかけたんだもの!」
と言いノートをずいっと出してわからないところを見せて来た。
「動脈と静脈、動脈血と静脈血がごっちゃ混ぜになってるわ。この血管は動脈血が流れているんだけど、肺静脈って言うのよ。逆に肺動脈は静脈血が流れているの。確かに酸素が取り込まれたものを動脈と言っているように聞こえるけれど、それは動脈血で動脈は違うの。だから、酸素がまだ取り込まれていないけれど肺に入って行くから肺動脈で、これは静脈血が流れていて、今度は肺からでて行くから肺静脈だけれど新しい酸素を取り込んでいるから、動脈血が流れているの。」
とリンが説明すると、テオが渋そうな顔をして、
「ごめん、もう一回言って!」
と言うので、今度は簡単な図を書いて説明する。
「〇〇動脈っていうのは、動脈血って意味ではなくて血管の名前なの。他の〇〇動脈と動脈血は殆ど一致するから、混同しやすいけれど、肺は別。だって、肺で空気を取り込むから。肺に入っていくから、肺動脈。肺からでて行くから肺静脈。でも、肺を通る前は新しい酸素を含んでいない静脈血が流れているし、肺から出て行く時は新しい酸素を含んでいる動脈血が流れているの。」
2人はうんうんと頷きながら聞いている。
「そうだ!色分けして見るとわかりやすいかも!」
「そうね、えぇっと。青と赤で、赤が新しい酸素を含んだ動脈血で…」
ユリアが簡単に書いた図に色を塗って行く。
「なるほど!理解出来た!俺もノートに同じもの書きたいから写させてよ。」
「いいわよ!リン、ありがとう!やっとわかった!」
2人とも嬉しそうである。
「ううん、私もわからなくなったら2人に聞いてもいい?」
「もちろんよ!ねぇ、テオ!」
ノートを写していたテオも顔を上げて、「もちろん!」と言ってくれた。
それから、少し雑談をして「また明日!」と別れ、お互いに帰路へ急ぐ。
住み込みの食堂に着き、軽くシャワーを浴びて、復習をする。
いつもより一本遅い乗り合い馬車での帰宅になったが、知らなかった情報と友達と呼べそうな知り合いもできたため、さほど疲れは感じなかった。
明日も頑張ろう。夢に向かって。
毎日、22時に更新しようと思います。
ブックマークや評価、励みになります。
ありがとうございます。




