24-3 リンザ様との決着
授業が終わったあとに、運動着でリンザ様と待ち合わせ。
私は内心の緊張を抑えて、平静を心がけてリンザ様と向き合う。
「ここが、剣術修練場ぴょんね!
貸し切って2人っきりなんて、まるで夢の逢い引きぴょん♪
それじゃ、お突き合いをお願いするぴょん?」
対して、ニコニコとそんな風にいうリンザ様だっただけれど、私が修練場のなかに入ろうとすると。
「あ、その手に持っている荷物は邪魔になるといけないから、場外に置いておいて欲しいぴょん!」
さっそく、宝具を奪われた。
これで、
遠距離の攻撃に対する絶対的ともいえる防御は期待できないし、
宝具から魔力を撃って攻撃することもできないし、
宝具に魔力をまとわせて殴ることもできない。
既に、だいぶ不利ですね。
「それでは、よろしくおねがいします、ぴょん!」
リンザ様は舌なめずりをしながら言ったと思ったら、「ぴょん」の言葉と同時にいきなり私の胸元に飛び込んでくる。
速い!
後ろに跳んでも、追いつかれる!
私はリンザ様と交差するように前に跳ぶと、すれ違いざまに手に持った剣を振り下ろした。
「ふぅ、ん?
手応えはあったけれど、切れたのは服だけ、か。
聖王国自慢の防御系魔道具で小細工かな?
でも、いつまでもつのか、楽しみになった、ぴょん!」
今度は、私の周囲を翻弄するように跳躍するリンザ様。
私の周りを目まぐるしく移動する姿はまるで竜巻に飲まれたようで、そしてそこから時折伸びてくる刃が私の急所を的確に裂いていく。
サラサラ、と。
私の足元に、魔石の粉が散る。
これは、アジィ様が貸してくださった魔道具。
所持者の受けた傷は、魔道具の中に収められた魔石を削って、直ちに癒やされる。
この魔道具の中に魔石がある限り、私の身体が傷つくことはない。
でも。このままでは、いつか終わりが来る。
その前にリンザ様をなんとかしないとならないのだけれど。
リンザ様は、私の力をはかるように。魔導具の性能を確認するように。
じわじわと、でも休みなく、私に刃を走らせる。
私は待ち、堪え、隙を探す。
ここだ!
リンザ様の動きが乱れる。
誘いかもしれないと思いつつ、アジィ様の魔導具に身を任せて、攻めに転じてみる。
だけれど。
案の定、リンザ様は私の攻めを待っていたようにいなすと、カウンターの攻撃が迫った。
あぶない!
鋭い痛みと共に、なんとか距離をとる。
いや、リンザ様が仕切り直してくれたのだろう。
私の行動は、すっかりリンザ様に支配されていた。
よほどうまく攻めないと、逆に狩られる!
リンザ様に攻めさせて、必勝のタイミングで反撃しないと。
剣を正面に構え、勝機を待って守りの姿勢をとった私の足元に、トスンと。
先程の攻撃でいっきに欠けたとおもわれる魔石の欠片が落ちた。
「なかなか長持ちね。
でも、私はもっと動けるよ?
この前私の知り合いが、速さであなたに負けたとか言っていたけれど。
貴女の速さじゃ、『兎』の私は捉えられない。
もしかして、根比べをするつもり?」
そう言ったリンザ様の耳が、頭上に長く伸びる。
この耳の死角を利用できないかなっ!?
私は攻撃する方向を次第に固めて罠を張り、耳が揺れたタイミングを見計らって見えないはずの方向から強打する。
これが当たれば!
そう思ったのだけれど。
リンザ様は、まるで見えているかのようにスルリと躱されて。
「残念ね。
この耳で隠れるところがありそうだった?
いつも使う体で、対応できないわけがないでしょう?
それに、いっそ貴女の動きなんて見えなくても、剣が風を切る声に足が地を蹴る響きや衣擦れの音、この耳なら簡単に聞き取れちゃうのよ。
それじゃ、まだまだ私が攻める番ね!」
そして、速さを増した、一方的なリンザ様の攻撃が続く。
私の剣は全く届く気配がなく、逆にリンザ様の攻撃は次第に波に乗り、いつしか跳ねながら舞うような動きになった。
その剣はあざ笑うように私を嬲り、既に服はボロボロだ。
「観客がいれば、もっと面白かったかしら。
でもそのぶん、私がかわいがってあげるわよ?
ほら、可愛いところを、もっと見せて!」
リンザ様の眼に、加虐の炎が浮かぶのが見える。
気付けば、アジィ様の魔道具も随分と軽くなっていた。
私の肌から血が舞った瞬間だった。
「魔導具の性能はこのくらい、か。
それにしても、レンガ様の踊りは単調ね。
リズムが、手足のステップが、丸わかり。
だから、ほら!」
リンザ様の跳ねる速度がさらに上がり。
まるで1度に全方位から切られたのかと感じるほどに、切っ先が一気に私の身体を襲う。
身を守る間もなく、あっというまに手足の腱を切られて、無様にその場に倒れる私。
いたい!
激痛をこらえようとしてもこらえきれず、自分で上げたうめき声が聞こえ、顔が歪むのがわかった。
「ふふ、動けないでしょう?
さあ、色々と助けてくれたお友達にサヨナラを言うのね。
でも、折角だし。貴女の身体を調べ尽くして、せめて快楽のなかで、逝かせてあげる!」
リンザ様は制服を千々に切り裂かれて倒れた私にのしかかり、その両腕が体中を舐め回すように蠢いた。
今まで他人に与えられたことのない感触に、羞恥が押さえきれない。
「ぴょん!
ほら。
今少し、声が出たんじゃない?」
そんなところ、はじくなっ!
「ふふ、かわいい声。
もっと、自分の感覚に素直になって?」
こんどは私の肌の上を、リンザ様の指が跳ね、生暖かな舌が這う。
そして密着していく、リンザ様と私の肌。
でも……ここです!
「それじゃ、いまから貴女はどんな感覚になるんでしょうね?
『ヤキトリ』!」
傷だらけの私の身体が、炎を上げる。
不死鳥の力は、傷から流れ出た血を炎と変えて、私の怪我を癒やし。
傷の癒えた私の両手が、首から下へと向かっていたリンザ様の肩を抱きしめたら。
こんどは私から、リンザ様の体に足を絡ませ。
あとはそのまま、リンザ様と炎に巻かれるのに、身を任せるだけ。
「『火鼠』の力も得た、私の身体が焼けていく!?
これは、サラマンダー?
いえ、もっと大物ね!
貴女の動きはイマイチでも、その力は強い、か。
……うふふ、油断しちゃった、ぴょん♪
逃げられないならせめて、最期の役目だけでも、済ませようかしら。
私の肌で貴女の全てを、感じ尽くしてあげる。
それじゃ、役得を味わうと……」
「いやですよ」
言葉と共に一層激しく燃え上がった『ヤキトリ』の炎は、加速しながら私を癒やすと同時に、瞬きほどの時間でリンザ様だけを焼いた。
焼かれながらも私の体を這うリンザ様の手や舌は恐ろしさを感じたけれど。
ええ。恐ろしさだけ、感じたけれど。
ほかには何も、感じてなんかいませんけれど!
結局、私達は。
私の持つ最高の力、『不死鳥の力』を利用することにした。
そして、使うからには、確実に相手を捕らえ、決して逃れられないように。
それから、この力を使う私が、決して誰にも見られないように。
『不死鳥』の力のことはお話することができなかったけれど。
私には、隠しているとっておきの力があることをお伝えして。
力を貸してくださった皆様は、今はあちらこちらで、この時間この場所を訪れる誰かがないように、様々な方法で取り計らってくださっている。
アジィ様の魔道具を囮に。その力が尽きれば、もう為す術がないのだと思わせるために。
最後の休み時間に、『ヤキトリ』の力を身体に纏って、試す。
私の傷が癒え、周りのものが焼けるのを確かめて。
アジィ様とメリーダ様が見張っていてくれた物陰とはいえ、屋外で裸になるのはちょっと抵抗ありましたけれど。
屋内は、基本的に火気厳禁ですしね。
一気に手足を切られて動けなくされた時は焦りました。
でも、そのままとどめを刺されずに、私の身体を調べてくれたのが助かりましたね。
それでなんとか、リンザ様は、炎と消えた……
ただ2人私達の戦いをこっそり見守ってくれた、アジィ様とメリーダ様だけが。
戦いが終わるのを見届けてから、私の前にやってきた。
「レンガ様、お見事でした。
神々しいほどの力だったわ」
「レンガ様の体から血が舞ったときは、身体が震えました」
「もちろん、怒りでね」
「でも、やっぱり服はダメでしたね。
それじゃ、おいてある制服を取りに行きましょう」
そして。
「では、エメラルド様、お願いします」
「では、アメジスト様、お願いします」
同時に仰ったあと、お互いをじっとご覧になるお2人。
「今、レンガ様はエビナー家にご滞在なのよね?」
「……わかりました。私が取りに行きましょう」
私にはよくわかりませんけれど、メリーダ様が服を取りに行ってくださって。
私は替えの服を着ると、メリーダ様の馬車で学院をあとにしたのだった。
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