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24-4 エビナー邸でBBQ

「それでは、盛大に食べてくれ!

 明日は休日、遠慮は要らん!!」


 その夜のエビナー邸は、大騒ぎだった。

 侯爵様その人が主催してのバーベキューパーティが、庭で開かれたからだ。


「さあ、遠慮はいらんぞ。

 ランベル伯爵、いや、フェイ殿。

 肉と野菜、どちらが良い?」

 そうエプロンを着けてトングを持った侯爵様に聞かれて、フェイ様は困ったように目線を動かすと。

「えーと、せっかくなので、どちらもいただけますか?」

 そう答えたら、侯爵様は破顔して肉と野菜の串を3串づつフェイ様のお皿に乗せられた。

 フェイ様のお皿は、あっという間に山盛りだ。


「さあ、レンガ嬢。

 君はいくつ食べる?」

 今度は私の番らしい。

「わ、私もお肉と野菜を、2つづつで」

 とりあえずフェイ様を見習った上で、反面教師にさせていただいて数の削減を図る。

「食べ終わったら、また来なさい!」

 けれど、笑顔でそう言われれば、私のおかわりは確定だ。


「クォーツ。新しい肉を運べ。

 この前狩ったミノタウロスのハラミはだしたか?」

「あちらに積み上げてあります」

「コカトリスの毒抜きは?」

「問題ありません」

「よし、それではどんどん運び込め!」


 侯爵様の声に執事のクォーツさんが応え、逞しい男性たちが何人もで食材を庭に運び込む。

 食材はメイドさんたちによって調理され、特にお眼鏡に適った厳選素材だけ侯爵様が選び出して、手ずから焼かれるのだ。


「いつものように、お前たちも交代で食べるんだぞ?」

「「「わかりました!」」」

 侯爵様がそう大声で指示を出せば、会場の全員が唱和するように返事を返す。


「レンガ様、あまり進んでいないようだけれど、お昼の疲れでも残っているのかしら?」

 メリーダ様が私の隣に来て、そう声をかけてくださった。

 手に持った皿には10本の串、しかもそのうち5本は既に食べられて串だけだ。

 あれ?メリーダ様って、けっこう少食だったような?大丈夫なんでしょうか?

「いえ、大丈夫です」

「そう。

 じゃ、お口に合わないのかしら?」

 どことなくさみしげにそう言われてしまえば、もう食べるしかない。

 むしゃ、むしゃ、むしゃ。

 私が豪快に肉串を頬張ると、メリーダ様はそれは素敵な笑顔になって。

「そうよね。

 美味しいものを口いっぱい頬張るのは、幸せなことだわ!」

 そういってから。そのまま、私の口元に耳を寄せ、囁いた。

「うふふ。

 私達2人の、祝勝会ね!」

 そしてまた、串を口に運び、歯をたてる。

 メリーダ様、こんなワイルドな食べ方もなさるんですね。

 私は、少し感心してしまった。


「メリーダ嬢ちゃん、あとのことも考えて食べるのじゃぞ?」

 そこにやってこられたのが、魔術師長のジャロ師。

 皿には2本の串を乗せ、もう1本を手に持って食べながらのご登場だ。

「あとが怖くて、バーベキューはできませんわ!

 今この時を、謳歌するのです!」

 拳をぐっと握り、力説するメリーダ様。

 握り込んだ串に、一層の説得力を感じる気がします。

「やれやれ。

 ま、また後で診てやるのじゃ」

 どうしようもないと諦めたように首を振ったジャロ師は、私に向き直ると。

「レンガ殿は、まだ調子が出ていないようじゃな?」

 そして串をひとくち齧り、今度は私の腕に手を伸ばして。


「ふむ。炎の魔力が肌に名残っておる。『ヤキトリ』の力を使ったな?」

 え?

 私にはわかりませんでした。

 適当なことをいう方には思えませんし、自分では気づきにくいのもあるのでしょうけれど、よほど魔力に鋭い感覚をお持ちなのかも知れません。

「して、力を使った成果はあったかな?」

「はい。

 厄介な相手を撃退することができました」

「なるほど、それはひとまず何よりじゃな。

 しかし、今回そなたが相手をしている連中は、1人ではない。

 しかも、付け焼き刃ではなく、研鑽を積んだ組織じゃ。

 心せよ?」


 なるほど。

 たしかにクラスの皆さんの力を借りて、あの戦いの様子は漏れていないはず。

 はずなのですけれど。

 楽観や希望的観測は謹んで、最悪に備える心づもりをしたほうが良いかも知れません。

 リンザ様が帰らないことに対し、次は何を仕掛けてくるか。

 休みが明けたらすぐにでも、メリーダ様とアジィ様にご相談しましょう。

 ……先にどちらかにお話してしまうと、なんだか怖いことになりそうな予感がするので。


「いや、ここのお肉は美味しいですね。

 最初はこんなに食べれるかと心配したのですけれど、いつの間にかお腹に入ってしまいます」

 ジャロ師が屋敷のみなさんの方に歩いていくと、今度はフェイ様がやってこられた。

「ほんとうに。

 コカトリスなんて、食べられるのですね。驚きです」

「あちらにいる、エビナー候の兵の方に聞いたのですが。

 なんでも毒抜きに秘訣があるのだとか。

 市井の狩人が食べているのを見かけて、侯爵様がその秘密を買い取ったそうですよ」

「いろんな知恵があるんですね」

 私が感心して言うと。

「冒険者をしていた頃は、パーティを組んだ仲間が教えてくれる料理に、舌鼓をうったものです。

 たまには、ちょっと口にしたくないようなものもありましたけれどね」

 フェイ様が笑いながら、楽しそうに仰った。

「あのころは、今思えば気楽で楽しかった。

『廃公』、いやシリル閣下をレクトから追い出して貴族にしていただいてからは、たしかに前よりも良い生活だったかも知れないけれど、むしろ冒険者のときより落ち着かない日々が続いたような気がします。

 でも、貴族でもこのような気持ちの良い食事ができることを、今日エビナー候様に教えていただいたような気がして。

 私、ここでもっと多くのことを学んでみたいと思うようになりました」

 そう言いながら夜空を見上げたフェイ様の眼は、どこか明るく輝いているように見えた。


 賑やかなバーベキューパーティは夜更けまで続き。

 私はあまり遅くまで起きているのも良くないと、部屋に案内された。

 ちなみに、メリーダ様の姿はいつの間にか消えており、フェイ様はお屋敷の方とお酒を飲んでいらっしゃった。

 各部屋に備え付けられたシャワーを使って、ベッドへ。

 いっぱいになったお腹を擦りながら、微睡みに落ちていく。


 パパ、ママ、今日はとってもたくさんの方に良くしてもらいました。

 そのご厚情に応えるためにも、私、明日からもがんばります!

 やくそく、しますから……

 おや、すみ、なさい……

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