24-1 メリーダ様に『ヤキトリ』の相談
「……」
朝。燦々と朝日が差し込む食堂で。
侯爵様は既に屋敷を出てお仕事、フェイ様は早々に食事を終えられて。
私はメリーダ様と2人で朝食をとっていた。
ただラピスさんが粛々と給仕をする音と、メリーダ様と私が食事をする音だけが聞こえる。
なんとなく、声を出すべきではないとかんじて。
時折メリーダ様の様子を窺いつつ、黙々と口を動かしていると。
「それで。
レンガ様は、どうして『ヤキトリ』のことを私に相談してくださらなかったのですか?」
メリーダ様の口から、そんな言葉が飛び出した。
「えと、その。
誰彼構わずお話することでもないですし……」
「アメジスト様には、お話になったのに?」
メリーダ様の視線が、スッと私の顔に乗ったのがわかった。
その鋭さは、まるで切られたみたいだ。
「アメジスト様は、私に心をひらいてほしいと仰って。
一緒に悩んでくださるって」
そう言った私に、メリーダ様がため息を1つ。それにはどこか、苛立ちが籠もっている感じがした。
「それは、私も同じです。
親友の間に差異を設けるのは、不当だと思いませんか?」
ゆっくりと、でも、切々と。
メリーダ様の言葉が続いた。
え?
『親友』と思っていただいてたんですか?
思いがけないその一言に、私は頭を殴られたような衝撃を感じた。
フェイ様が昨晩自分のことしか考えてなかったと卑下しておられたけれど、これでは、まさに私のほうが独り善がりだ。
私は、私のことをそこまで思ってくれる人を、信じていなかったのだから。
「……ごめんなさい。
私、メリーダ様のこと、今まできっと本当には信じてなかったんだと思います」
私が俯いてそう言うと。
「本当です。
レンガ様は、ちょっと人の気持ちに疎いところがお有りですね。
まあ、あまり気が付きすぎても手強いライバルが増えますから、それは今のままで結構です」
そうメリーダ様にお叱りをいただいた。
ん?
ライバルって、なんだ?
一瞬疑問が心に浮かんだけれど。
「これから私にも心を開いてくださるのでしたら、今までのことは許します」
メリーダ様の話は続き、私は意識を戻して傾聴する。
するとメリーダ様は立ち上がり、私の隣まで来ると。
そっと私の手を取り、メリーダ様の胸に当てる。服の中だ。
「どうでしょう?
私の心の音が、届きますか?
偽りのない、私の気持ちが、レンガ様に伝わるでしょうか?」
私を見つめるメリーダ様の顔は熱意に火照り、私の手のひらのむこうからは薄いその胸をこえてメリーダ様の鼓動が響いてくるようだ。
「私、昨晩もその前も、隠し立てのない私の全てを、レンガ様の前で晒しました。
それでも、心の中をお見せすることはできない。
なら、どうすればその全てを、レンガ様に伝えることができるのでしょう?」
でも。
たぶん私は、メリーダ様がこうして示してくださった心に圧倒されていた。
メリーダ様の胸に直に当てられた、私の手のひらが灼けるように熱く感じる。
私の眼は、メリーダ様の瞳に捉えられて、離れられない。
メリーダ様の呼吸が、自分のもののようにわかった。
「ご主人さま、このままですとまもなく倒れて、短時間ですが意識を失いますよ?」
時の感覚がないまま、背後から声をかけられて。
ハッと気がつけば、そこには『ヤキトリ』の姿。
「あれ?
私、どうしちゃったんですか?」
「どうと問われると、返答に困ります。
別に薬を飲まされたり、魔法的な影響を受けたわけではありません。
強いていうなら、そこにいる女性の気持ちに飲まれた、と言うべきでしょうか。
ご主人さまは、魔力制御の前に感情の制御を学ばれたほうがいいかも知れません」
困ったようにいうヤキトリに、なんだか恥ずかしくて感情的に返してしまう私。
「鳥のくせに、知ったような!
べ、別に私はメリーダ様のことなんて……」
「なんとも思ってらっしゃらないのですか?」
「!……」
絶句する私。
「とても大事に思っているし、気になっているのでしょう?
ご主人さまは、本当にこういう部分が苦手なのですね。
では、こういうときにとるべき行動を、私の経験からお教えしましょう」
我に返る私。
目の前には、私と見つめ合うメリーダ様。
「メリーダ様……」
私は『ヤキトリ』に言われたとおり、そのまま顔を近づける。
戸惑ったようなメリーダ様が、『ヤキトリ』のいったように目を閉じたので、
私も目を閉じると、さらに顔を寄せて。
一瞬のふれあいのあと、顔を離す。
「メリーダ様、私も心をお見せすることはできません。
ですが、この口から出る吐息で、私の胸の内を伝えることはできたでしょうか?」
『ヤキトリ』に教えられた言葉をおもいだしながら、精一杯自分の言葉にして紡ぐ。少しでもメリーダ様の気持ちに応えられるように、と。
メリーダ様はまだ真っ赤な顔をして、しばらく私の顔を見返していらっしゃったのだけど。
「わ、わかりました。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
いまのは、これからのお約束と思っておきます」
そういって、私の唇が触れた頬を抑えながら。少し恥ずかしそうに私を許してくださった。
「お嬢様、馬車の用意が整いました」
そして、メリーダ様と私が笑顔を見交わした頃、扉を開けてクォーツさんの声がかけられて。
私達はそれぞれ準備を整えると、馬車で学院へと向かったのだった。
興味を持っていただけたり、応援をいただけるようでしたら、ぜひブックマーク・評価・感想などをいただけますと幸いです。




