23-3 『シリル』様というひとは
「レンガ、今日は私が飲み物を淹れるわ」
授業が終わって。
留学生のリンザ様は、先生に呼ばれて職員室にいったので、私がいつものように『研究会』に顔を出すと。
私の顔を見たシリル様はそういってポットにお湯を注ぐと、それを腕に抱いて椅子に座る。
「レンガ様、お昼は大変だったみたいね。
レンガ様の甘いところも嫌いじゃないから、なんて言おうか悩んでしまうわ」
ミイツ様はいつものように微笑みながら、そんなことを仰った。
「それじゃ、血は私がもらっておこうかな。
レンガ、ちょっと痛いよ?」
ラー様はそう言って私の左手をとると、どこからか取り出したピンで指先を小さく刺した。
少しの痛みが走り、盛り上がってきた血を、小さな小箱のような魔道具で優しく受ける。
「しかし、いきなり毒を盛ってくるとは。
少し、感心しました。
本当に、遅効性のもので良かったですね」
ああ、みなさん何があったかお分かりになっているんですね。
やっぱり『研究会』の皆様はすごいなぁ。
この『研究会』に参加できて、良かったです。
私がそんな事を考えていたら。
「レンガちゃんだけが狙われたのは、重畳だったね。
さ、リルちゃんの魔法薬を飲むと、元気になるよ」
ユーリ様はそう言いながら、シリル様が注いだ薄く光る液体の入ったカップを、私の前に勧めてくださる。
私がそれを口に運ぶと、
甘い匂いが口いっぱいに広がったあと、爽やかな香りが鼻から抜けて。
私は身も心も、軽くなった。
「さて。それじゃ、レンガちゃんの報告を聞こうか」
ユーリ様は、そのまま私を促す。
「はい。
えーと、前にミイツ様にお話した女性はレクトの『英雄・フェイ』様、探していたのは、『廃公・シリル』様でした」
そう言いながら私は、そっと皆様の表情を伺う。
みんな、いつもと変わらぬ様子でお茶を飲んでらっしゃった。
ご存知だったんでしょうか。
「私とフェイ様は、いまはエビナー侯爵邸でご厄介になっています。
それで、どうやら『レクト』の工作員が『学院』に紛れ込んだみたいで……」
報告を続けていると、ユーリ様から質問があった。
「『ヤキトリ』ちゃんとは、うまくやってる?」
「はい、それはたぶん。
さっきも、毒をもられたことを教えてくれましたし」
「ふぅん?
じゃ、れんがっちは毒に気付いて、あえてそのままここに来てくれたんだ?
それじゃ、私達も期待に応えたくなるなぁ!」
それを聞いたユーリ様はニコニコの笑顔になって、そんなふうに言ってくれた。
それから今度は、シリル様の方を見て。
「リルちゃん、なにかある?」
「なにも。お好きに、どうぞ」
「会う気は?」
「そうね。
レンガが、ここに連れてくるのなら」
「それじゃ、他にフェイフェイと会ってもいいっていう人はいるかな?」
結局、
会ってもいいと仰ったのは、ユーリ様、シリル様、ラー様。
遠慮したいと仰ったのが、ミイツ様とミズナ様だった。
「2人の協力がもらえないんじゃ、フェイフェイをここに呼ぶのは難しいねぇ」
「それじゃ、他の場所で……」
「リルちゃんは、『ここに連れてくるのなら』って言ったしね。
あわせたいなら、まずはみっちゃんとみずなんを、なんとかしようね」
私の発言は、ユーリ様に軽くたしなめられた。
「ミイツとミズナにフェイさんを紹介して、協力してもらえるようになってから、また考えたらどうだい?
シリルについて協力を得たい人がいると言えば、フェイさんも考えてくれるだろう」
ラー様がそんなアドバイスをくださって、わたしはそれに従うことにした。
「あとは、魔導騎士のことだね。
適度に暴れてくれたほうが、聖王国としてはありがたいくらいだけど」
「騎士団としては、被害が出るのは困ります。
とくに、直せる物はともかく、治せない人の被害は」
「治せるのなら、いいっていうこと?」
「違います」
「ミズナちゃん、怖い。
ちゃんと確認したんだから、そんなに睨まないでよ」
「レンガ様周りには、学院内でも控えめにですが護衛を考えましょう」
「そのへんのバランスは、みっちゃんに任せるよ。
最悪、私がなんとかするから、適当にしておいて」
ユーリ様が、ミイツ様に放り投げた。
「まあ、ミイツの適当は、そう外れないしね。
でも、レクトはよく学院に留学生をねじ込めたね」
「レクト派の貴族や官僚が色々と動いて、そこに執政府やアカデミーやその他何やらの思惑が絡んだわけ。
もちろん、私もね」
ユーリ様がたいしたことでもなさそうに仰る。
でも、聖王国の外交を担う執政府の思惑が絡んだということは、けっこう重要な外交案件になっているんじゃないでしょうか?
「それじゃ、レクトの魔導騎士は、警戒しながらしばらく泳がせるかんじかな」
最後にラー様が結論をまとめて、今日の『研究会』は終了となった。
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