23-1 『廃公』というひとは2
2023年12月1日-『絶対零度』関連の記述を追加
「うん。凄いですね、このベッド!」
翌朝、カーテンを開けて窓の外から射し込む日を浴びつつ、私は思わず呟いた。
私の家のベッドもなかなかのものですが、エビナー邸での寝心地は、まるで雲!
いつぞや寝かせてもらった、サファイア様の馬車のような!
あれ?
この寝台と同じくらいって、もしかしてサファイア様の馬車のほうがよほどおかしいんじゃ?
「レンガ様、お食事の用意が整っております」
「はい!」
ちょうど呼びに来てくれたメイドさんにこたえると、私は学院の制服に着替え、案内されて食堂に向かった。
「おはようございます、メリーダ様」
「おはようございます、レンガ様」
「メリーダ様、お屋敷のベッド、すごく気持ち良かったです」
「睡眠はすべての重要な基礎だからと、お父様がすごく力を入れておられるの」
挨拶の後に私がそういうと、メリーダ様は楽しそうに教えてくださった。
「おはようございます」
フェイ様が後から食堂に入ってこられたら、まずは3人で気楽に朝食をとる。
フェイ様と私の食事はたっぷりというかんじなのですけれど、メリーダ様は随分と少食なんですね。少し心配になります。
そして食事が終われば、いよいよ昨晩の話の続きだ。
とりあえず、私からも少し聞いてみよう。
「あの、少しお伺いしたいことが」
「どうぞ」
「レクトで『廃公』が倒されたのは、どのくらい前でしたっけ?」
「10年ほど前に国を手中におさめ、4年ほど好き放題の政治を行って、倒されたのは6年ほど前とされているわね」
「好き放題という表現も、微妙ですよね。
それに、倒されたというのも。
間違ってはいませんが、正確ではないと思います。
いなくなれと叫ぶ私達に、それならいなくなりましょうとその身を差し出したというのが、実際のところだったのでは?
なんというか、いまにして思えば、あまりに簡単すぎたのです」
私の問いにメリーダ様が答えてくださり、フェイ様が補足のようにそう仰った。
「簡単、と言うと?」
「『廃公』が去った後、現政権の力でレクトは大発展を遂げた。
そう言われていますが、実際には今のレクトの発展こそ『廃公』の遺産ではないかと思うようになりました。
現政権がすする旨味よりも遺産のほうが多いから、今の大発展があるのだと。
ですが、それだけの視野を持っていたはずの『廃公』が、蜂起した私達には甘すぎます。
こんな言い方もヘンですが、もっと弾圧もできたはずでした」
「『廃公』は殺戮を繰り返し、圧政を敷いたと聞きますけれど」
「あの方に逆らう多くの貴族・騎士や大商人が殺され、資産が没収されました。それは事実です。
今からみても、たしかに強引で苛烈だったといえると思いますし、いってみれば『好き放題』ともいえるかも知れません。
でも、一般にいわれているような全くの無軌道なのではなく、レクトが生まれ変わるための病巣を切り捨てたのではないか、と。
私なりに調べたのですが。
私腹を肥やし国を他国に売るような輩は消えて国は表向き一枚岩となり、粛清されたそれらが残した莫大な資産は国庫を潤し、その後の推進力になりました。
そして、私達への対応が不十分だったのも、もしかしたら私達がそれをくぐり抜けて『廃公』の前に着くように、誘導されたのでは。
全てが噛み合うように組み立てられていた。まるで、パズルのように。
今ではそんなふうに思ったりもするのです」
今度はメリーダ様が問い、フェイ様が答える。
聞けば聞くほど、学んだ『廃公』のイメージが消えて、私の知っているシリル様の姿が思い浮かぶ。
「『廃公』は、魔導騎士団を従えていた?」
「『廃公』が、肉体を魔法改造した『魔導騎士』を生み出したんです。
その最初の実験体にして、『廃公』に最も忠実だった騎士が当時の騎士団副長ガゼル様。
ちなみに、騎士団長は『廃公』その人でした」
「『廃公』は、お強かったのですか?」
「はい。
剣も並の魔導騎士以上、魔法に至っては天井知らずの魔法使いと言われていました。
箔をつけ他を威圧するために誇張されたとも言われているので真偽は不明ですが、魔法学では究極の到達点のうちの1つとされ伝説でしかありえなかった、万物や時さえ凍らせる術『絶対零度』ですら現実のものにしていたとか。
けれど、いまでもその本当の実力ははっきりわかりません。
なにせ、私達の前に現れた『廃公』は、いちども魔法を使いませんでしたから」
「なるほど。
実は生きているのではと、疑うのもわかります」
メリーダ様とフェイ様の会話は続く。
あー、でも。でも!
確かシリル様、このまえガゼル様とのお付き合いは10年ちょっとになるって仰ってましたね。
確かラー様、なにかで以前シリル様の癖を『パズルのよう』と仰っていたような。
あと確か前に私、その『絶対零度』の魔法を撃たれた記憶があります! 宝具で防げたみたいでしたけど。
どうやらこれは、ほぼ確定ですね。
シリル様って誤解を招きやすいところあるかも知れませんけれど、基本的にものすごく優しくて面倒見の良い方だと思いますし。
聞けば聞くほど、間違いなさそうです。
でも、今お2人にシリル様のことを話すわけにもいかないですよね。
せめて、ご本人に確認を取らなければ。
とりあえず、学院に行きたいです。
「あの、メリーダ様。
本日学院は、どうされますか?」
「そうね。そろそろ向かいましょうか。
フェイ様、申し訳ありませんが、戻るまでお待ち下さい」
「聖王国の誇る学院ですか。
お2人を見ると、良いところのようですね。
どうぞ、私のことはお気遣いなく」
こうして、私達は一度話を切り上げて。
メリーダ様と私は侯爵家の馬車に乗り、学院に向かったのだった。
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