22-4 『廃公』というひとは
もうすぐ日が暮れようとする頃。
『研究会』でミイツ様に報告を終えた私は、メリーダ様と一緒にエビナー侯爵家の馬車に乗って『猫のパン』へ。
マリオさんにしばらくお休みすることを伝えてから、自宅に戻る。
「ただいま、帰りました」
「おかえり、レンガちゃん。
ん?お友達も一緒だったのですか。
失礼しました、お嬢様」
迎えてくれたリャナは、一緒にいるメリーダ様を見て姿勢を改めたのだけれど。
……あ。エビナー家にご厄介になるにしても、リャナがいましたよ。どうしたら良いでしょう?
「レンガ様、こちらは?」
メリーダ様が確認をされるので、
「えぇと、うちのリャナ、です」
私がなんと紹介して良いものかわからず、名前だけ伝えたら。
「なるほどね。
レンガ様はレクトの陰謀に巻き込まれたようなので、私のエビナー侯爵邸でお預かりする話になりました。
助けたという女性も同様です。
貴女は一緒にきますか、リャナさん?」
当たり前にリャナを連れて行こうとしないあたり、事情があることを察してくださったようだ。
まあ、実は妖精でメイドみたいなことしてますなんて……メリーダ様なら、伝えても良いか。
「私は身軽ですから、一人で身を隠したいと思います。
では、お嬢様が出立されるお手伝いをいたしますね。
お嬢様は、フェイ様とお話を」
リャナはそう言うと、2階へと上がっていった。
「あの『轟槌侯』様のお屋敷に伺えるのですか?
光栄です!」
おりてきたフェイ様に、私達の身の安全のためエビナー侯爵邸でお世話になることになったと伝えると、目を輝かせて嬉しそうにそう言った。
『轟槌侯』様の名は、レクトにも伝わっているらしい。
「こちらは、エビナー侯爵様のお嬢様で、エメラルド様です。
エメラルド様、こちらがお話したフェイ様です」
私がお互いを紹介すると、
「初めてお目にかかります、エメラルド様。
私はレクト魔導王国ランベル伯爵フェイと申します」
「私は聖王国エビナー侯爵の娘でエメラルドと申します。
英雄様のご高名はこの国にも届いておりますわ。
フェイ様をお招きできるこちらのほうが、光栄です」
お2人はスカートを持ち上げながら挨拶をされた。
これはたしか、カーテシーでしたっけ。来期に礼法の授業で学ぶはずの。
こんなとき、このお2人はどちらも貴族様なのだと感じますね。
「フェイ様のお姿は絵姿などで拝見したことがありますけれど、ずいぶん印象が違うのですね」
「ああ。
よく出回っているのは、私が戦っていたときのものですからね。
あの頃は髪も短くて」
「爵位を受けられれば、なかなかそのままというわけにもいきませんものね」
「髪は長く伸ばせ、と。随分いわれました。
慣れるまでは、鬱陶しくて大変でしたよ」
「男装されるとか」
「爵位を頂く前に冒険者だった頃は、男装というか、男性とそんなに変わらない格好をしていたんですけれどね。
貴族になった後も同じようにしたかったのですが、あちこちから非難轟々でした。
今思えば、私を『女』にしてしまいたかったのでしょうね」
フェイさんの表情に陰が落ちた。
どうしたのだろう?
なにかあるのだろうかと、私が思ったとき。
「お嬢様、荷物の準備が整いました」
リャナが大きめの四角い鞄を引いてやってくる。
「あ、すいませんリャナ。
用意を全部させてしまって」
「いいえ、お嬢様はお待ちいただければ大丈夫ですよ」
「レンガ様の準備ができたのなら、私の屋敷に向かいましょう。
あまり遅い時間になるのも問題ですし」
こうして、リャナが見送るなか、私はメリーダ様とフェイさんと一緒に、エビナー邸に向かったのだった。
「どうぞ、ごゆっくりとお召し上がりください」
エビナー侯爵邸に着くと、以前お会いした執事のクォーツさんを始め何人もの使用人さんが出迎えてくれて。
私達は食堂に案内されると、遅めの夕食を取ることになった。
座っているのはメリーダ様、フェイ様、私。
クォーツさんが食事を取り仕切り、メイドのたしかラピスさんが給仕をしてくれる。
私達は、とてもおいしい食事と一緒に、しばらく世間話を楽しんだ。
食事の後のティータイム。
「それで。
フェイ様は、なぜ魔導騎士に襲われることになったのですか?」
やっと、メリーダ様が本題を切り出した。
「はは、お恥ずかしい話ですが。
英雄と喧伝されていますけれど、私は以前の自分の行いに自信がもてなくなりました。
それで、しばらく前に人探しのために国を出たのです。
でも、そのことが気に食わない誰かがいたようですね」
「その探している方というのは?」
「『廃公・シリル』閣下、その人です」
「まさか!
……生きて、いらっしゃるのですか?」
「私は、そう考えています」
フェイ様は声を潜めるように低くし。メリーダ様も声と表情を固くしている。クォーツさんは一度部屋を退出し、ラピスさんは完全に無表情だ。
でも、私は。
んん?
『シリル』様、ですか?
私、同名の方をよく知ってますよ?
その方、ガゼルさんとも古いお知り合いらしくて。
それで、ガゼルさんはレクトで以前魔導騎士団の副長をしていたみたいで。
え?
あれ?
「それは、ないのでは?
たしか『廃公』は公開処刑され、遺体はいくつにも分けられて塔に封印されたとか」
「もともとレクトは、裏表が激しくて」
「そう、なのですか。
……どうしされました、レンガ様?」
「あ、はい。
ちょっと気になったことがありまして」
だけど、私は何をどう聞いていいかわからず、頭を悩ませていると。
「ご歓談のところ、失礼いたします。
ずいぶんと夜も更けてまいりました。
お話も尽きないところと存じますが、皆様お部屋にどうぞ」
ドアがノックされ、クォーツさんがそう呼びに来て。
メリーダ様は少し考えたあと、
「そうね
でも、そのまえに。
3人で大浴場を使いましょう」
「お嬢様!?」
メリーダ様のとんでもない発言に、クォーツさんが驚きつつ難色を示したのだけれども。
「浴室で、ありのままの姿でお話することで、隠し立てなくお互いに胸襟をひらくことができるという話を。
以前お父様から聞いたことがあります。
今夜は、それがとても重要なことだと思うの」
メリーダ様は、なんだかよくわからない理屈で、無理やり押し切った。
メリーダ様と、フェイ様と、お風呂。
たしかにこの広さなら、3人でも余裕たっぷりですけれども。
泳げますよ。
私が、たぶんフェイ様も、入口近くでまだ戸惑っていると。
「お2人とも、今晩はまず難しいことを忘れて、温かいお湯に浸かって心までふやけましょう?
長い緊張は頭の働きを鈍くしますし、夜遅くに難しい話をするとやたらと極端に考えてしまうもの。
今晩ぐっすり寝て、難しい話は明日の太陽が登ってからでも遅くはないわ」
メリーダ様はそう仰って、進んで浴槽の中に進み、私達を招いてくださった。
……ああ、気を使わせてしまったみたいですね。
食事の間とか、そんなに私とフェイ様の様子は変だったのでしょうか?
たしかに私、シリル様のことを考えていたときとか、上の空だったかも知れません。
そんな事を考えた私は、フェイ様の顔を見る。
フェイ様もなにか思うところがあったようで、私の顔を見返して、頷かれた。
そして私達は、3人で楽しくお風呂に入り。
その後案内された客間のふかふかのベッドで、ゆっくりと体を伸ばしたのだった。
パパ、ママ、明日は頭を使うことも多そうです。
どうか、知恵を貸してくださいね。
肖像画を鞄に入れてくれたリャナ、ぐっじょぶですよ。
すや、すや。
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