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22-3 二つ名を持つ人達

 授業が終わる。

 私はこのあと、

 マリオさんにしばらくお休みすることを伝えてから、

 家に帰って荷物をまとめて、助けた女性と一緒にエビナー家にご厄介になる予定だ。


 でもその前に。

 アジィ様もメリーダ様も、学院になら暗くなる頃まで滞在しても問題ないと許してくれた。

 私は『研究会』に昨晩のことを報告に行く。


「あら。レンガ様、いらっしゃい」

 そこにいたのは、ミイツ様お1人。他の方の姿はない。

「お疲れの様子だけど、無理はなさらないほうがいいわよ?」

 ミイツ様はそう仰りながら、私にココアを勧めてくださった。


「ありがとうございます。

 実は、ご報告がありまして」

 私は襲われている女性を助けてからのことを話す。


「なるほどね。

『ヤキトリ』さんの力を戦闘で使うなんて、ずいぶんと扱えるようになったんじゃない?

 でも、いきなり実戦なんて、レンガ様はいつも少し勇気がありすぎるんじゃないかしら」

 ミイツ様は、苦笑気味にそんなことを仰った。

「私の友人がいうには、襲ってきたのはレクトの魔導騎士ではないかと」

「それで、間違いないでしょうね。

 やっていたことからすると、工作担当の騎士かしら。

 レクトの騎士は、多芸よね」

 ふふふ。と笑うミイツ様の笑顔が、どこか怖い。

「目撃者の私と助けた女性が危ないからと、エビナー侯爵家にお招きいただくことになりました」

「そうなの。

 それじゃ、ユーリ様たちにも伝えておくわね」

「『研究会』には、これまでどおり顔を出すつもりです。

 でも、今日は練習はちょっと……」

「そうね、それでいいとおもうわ。

 そのフェイという女性も、放っておかれては色々と不安になることとかもあるでしょうし」

 ミイツ様はそう言ってから、手元のココアをひとくち口にされて。


「でも、そうすると」

 ミイツ様の手が、テーブルの下に伸びる。

「落とし物が届いているの。

 ほら、レンガ様。その戦いがあった夜に落としたんじゃない?

 気をつけなきゃ、ダメよ」

 ミイツ様は『猫のパン』のバスケットを取り出して、私に手渡してくれた。


 私は驚いた。

 良く、ミイツ様の手元に届いたものですね。

 どういう経緯でこのバスケットがミイツ様のところに着いたのか、ちょっと興味がありますけれど。


「こんなものが残っていれば、『猫のパン』も危ないもの。

 油断をすると周りにも危険が及ぶ。

 もっと注意深く、ね?」

 そう言ったミイツ様に、ゾクッとする。

 たしかに、もしかしたらあの魔導騎士に『猫のパン』が襲われ、マリオさんたちも危なかったのかもしれない。

 それを想像したら、背筋に冷たい汗が溢れた。

 すごく、反省した。


 そういえば。

 ミイツ様は傭兵を使って情報を集めることができたはず。

 少し、聞いてみよう。

「ところで、ミイツ様に『フェイ』と『ガゼル』と言う名前の人物を調べてもらうことはできますか?」

 私がそう言うと、ミイツ様はココアの入った器をテーブルに置いて。

「たくさんいると思うわよ」

 そう言って笑ったあとで、

「でも、『レクト』の『フェイ』と『ガゼル』なら、有名な人物がいるわよね」

 わよね、って。そうなんですか?

「元魔導騎士団副長の『魔公の番犬・ガゼル』はともかく、レクト救国の『英雄・フェイ』は、レンガ様も知っているでしょう?」

 そういえば!

 どこかで聞いたと思っていましたけれど。

 確かに、それなら色々と辻褄は合いそうです。


「ともあれ。

『轟槌侯』の武名高くて、内大臣ルーツ公爵だけではなく現王ガーネット陛下の信頼も厚い、あのエビナー侯爵のところにお世話になるのなら、問題ないと思うわ。

 レンガ様は、よほど日頃の行いが良いのね」

「『轟槌侯』?

 エメラルド様のお父様、エビナー侯爵様って、あの有名な『轟槌侯』様だったんですか?」

「貴女が知らないことのほうがびっくりよ、レンガ様」

 驚いて聞き返した私に、ミイツ様は苦笑を浮かべる。

「でも、『轟槌侯』様って、聖王国現代史の基本書に名前の出る人物ですよ?

 時折、異界と混ざった王都から、周りにできた”壁”を超えて現れると言われる魔物の大群。

 それに聖王国の騎士団が敗れ聖都に魔物が迫ったとき、自らの領兵を率いて撃退したどころか王都まで追撃し、魔物が現れていた壁の穴を塞いだという、あの『轟槌侯』様ですよね?」

「そうよ。

 身長ほどもある大金槌を、太鼓を叩くように振り回して、周囲に血の雨を降らせたという、あの『轟槌侯』様。

 大丈夫、いつもは温厚で気の優しい方だから」

 あ、そうなんですね。少し安心してきました。

「でも、私はあまりお近づきになりたくないけどね」

 なんですか、それ。ひどい、だいなしですよ。

 安心どころか、むしろどんどん緊張してきました。

 ……アジィ様のところにご厄介になれば、良かったですかね?


 そんなふうに悩みだした私を見て、ミイツ様は再びココアを取り上げて口にすると、またいつまのように微笑まれたのだった。

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