22-1 ランベル伯爵フェイ
「……ん?」
誰かが頭の上で動く気配に、目を覚ます。
リャナかな?
ゆっくりと目を開くと、……なんだ、これ?
「?
ああ、おはようございます、レンガ……お嬢様?」
首を下に向けて見下ろしてきたのは、見知らぬ女性。
ああ、タオルだけ巻いた彼女を、足元から見上げていたんですか。
「すいません、メイドさんに勧められて、お風呂を借りました。
すごいお風呂でした!
広さはうちのお屋敷ほどでなかったですが、設備では断然こちらです!」
思い出したのか、ぴょこぴょこ跳ねながら、興奮したように話す。
いや、人の頭の真上で跳ねないでくださいよ。いつ踏まれるか、怖いですから!
「あ、これは失礼しました。それも、こんな格好で。
ごめんなさい。
あ、でも。助けてくれて本当にありがとう!」
頭の上の女性は、今度はそう言いながら土下座をした。
ああ、もう!形の良い胸元が、すごいことになってますよ。
「とりあえず、頭を上げてください。
改めてゆっくりお話をお伺いしたいのですけれど」
私が彼女の前に座り直して、そう頼むと。
「はい、わかりました」
彼女も素直にうなずいてから座り直し、
「それより先に、お召し物を直していただきましょうね?」
どうやら話し声を聞きつけて部屋を覗いたリャナが、呆れ声でそう言ったのだった。
居間の机に座る私と女性。リャナは机の横に立って、給仕の姿勢だ。
女性はうちに置いてあったママの服に着替えている。他にサイズの合うものがなかったから仕方ないのだけれど、私は色々と複雑だ。
仕方ないのだけれど!
「あらためて、助けてもらったお礼を。
私は、フェイ=ランベル」
フェイさん?
シリル様が聞いてみるよう仰っていた『フェイ』さんは、この女性本人だったのでしょうか?
私がそんな事を考えたとき、
「このご恩は、なんとしてもお返しします!」
ゴスン。
フェイさんは、机に額をぶつける勢いで頭を下げた。
っていうか、今の鈍い音、当たってましたよね?
この女性に傷とか多かったのは、そのせいもあるんじゃないでしょうか?
「私は、レンガ=アイセです。
助けたのは、偶然の成り行きですから、お気になさらず。
でも、ご事情くらいはお伺いできますか?
いくらかは、お手伝いもできるかも知れません」
このまま放り出すわけにも、いきませんよね。
「いえ、更にそこまでしていただくことは。
ですが、ここまでお世話になったのですし、ある程度事情もお話しないわけにはいかないでしょう」
フェイさんはそういうと、考えながらポツポツと話し始めた。
「私は、この国の人間ではありません。
こっそり人を探して、聖都までやってきたのです。
我が国王様やお世話になっている方々の了解は得ていたはずなのですが、どうやらそれを気に食わなかった人が騎士団かその近くにいたようで。
それで、あの夜私は、その何者かが放った刺客の騎士に命を狙われたのです」
ふぅん。
他国の人ですか。
この行動に限るかはわかりませんが、国王の了解が必要で、かつそれを得ることができる地位なのですね。
こっそりと人探しもそうですが、襲ってきた奴らは正規の騎士団関係ですか。なかなか穏やかじゃないですよ?
「貴女が探しているのは、同じ国の方なのですか?」
「はい」
「了解を得るとおっしゃいましたが、国王様とお会いできるのですか?」
「え?
……ああ、はい。以前の功績を認めていただいて、1代ですが伯爵位をいただきましたので。
今となっては、本当に功績なのかわかりませんけれど」
フェイさんは苦い笑顔を浮かべた。
ふむ?
しかし、他国のとはいえ伯爵様とは。
「騎士団と仲がお悪いのですか?」
「そう……ですね。
誘いを断っていたので。
普通は断れないところを私だけ特例でしたから、それも印象が悪かったのかも知れません」
「それで、騎士団がこっそり襲ってきたと」
「それもあったのかも知れません」
なるほど。
騎士団に勧誘される実力をもち、
入団の義務を免除されるだけの事情がある、
そして襲ってきたのはたぶん騎士団そのもの、と。
「親しい人物に、『ガゼル』と言う名の人はいますか?」
今度は私がそう聞いてみると、フェイさんは驚いた表情で、
「親しいかどうかはわかりませんが。
ガゼル様は、いま私が探している方に関わる重要な方で……昔、殺し合った仲です」
ほほう、そうきましたか。
はい。これは、私だけでは抱え込めないやつですね。
「お嬢様、本日も学院をお休みなさいますか?」
リャナが耳打ちする。もう、そんな時間ですか。
「わかりました。ありがとう、リャナ。
私はこれから、いかなくてはいけないところがあります。
夕方には帰ってきますので、フェイ様はそれまで待っていただけませんか?」
これは……、アジィ様やメリーダ様、『研究会』の皆様に相談したほうが良さそうです。
フェイ様が少し考えていたけれど、
「わかりました。
私からも教えていただきたいことはありますが、
ひとますレンガさんの言うとおりにいたしましょう」
そう言って、再び頭を下げたのだった。
ゴスン。
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