21-4 助けた女性がなかなか起きない間に私がしたことといえば
「ただいまです」
食料とポーションを持って、家につく。
もしもあの助けた女性がまだ寝ていたら、起こしては悪いと静かに入っていくと。
「おかえり、レンガちゃん」
私の部屋からリャナが静かに下りてきて、同じく控えめな声で迎えてくれた。
彼女は、まだ寝ているようですね。
「あの人は、どうですか?」
「寝相が悪いわね。
あと、寝顔が百面相で面白いわ」
リャナが、まず含み笑いをしつつ答える。
「でも。
うなされたり、泣いたり、怒ったりも少なくない。
いろいろ事情もありそうよ」
そう続けたリャナの顔は、心配そうに曇っていた。
「まだ起きていないのなら、とりあえず食事の用意をしておききましょうか」
「お手伝いしますよ、お嬢様。
冷蔵庫、なにいれるの?」
「これです」
「……また、ポーションばかりじゃない。
なにか他には、ないの?」
「ジャムなら、入っているじゃないですか」
「食材は?」
「ないです。
食べ物を分けてもらうことが多いんで、食材はダメにしちゃんうですよ」
「あきれた。
良い男を捕まえるには、料理がうまくなきゃ!
胃袋を捕まえるのが、近道なのよ?」
「今はそれより、あの女の人ですよ」
私がそう言うと、リャナは首を振って、
「まだまだ、お子さまね」
などと呟いたのだった。
『猫のパン』でもらったパンとかをテーブルに並べたら、私とリャナは寝ている女性の様子を見に、私の部屋へと上がる。
そこには、静かに眠る女性が、きれいに整えられたベッドで眠っていた。
「あれ?
シーツとか、大変なことになっていたと思うんですけれど?」
「なんとかしました。
まあ、大変だったよ?」
リャナがなんでもないことのようにいいながら、眼で苦労を伝えてくる。
あの血まみれポーションまみれの様を知っていれば、それはそうだろうと納得するしかない。
「ありがとう、リャナ。
いつも助けてもらってばかりですね」
そう感謝の思いを伝えたら、
「ふふ、まぁいいわ。
頼ってくれると、嬉しいもの」
なんて微笑みながら、軽く頭を抱いてくれたのだった。
私とリャナは、お腹が空いたらパンを齧りつつ、そのまま部屋で女性の様子を見守ったのだけれど。
「起きませんね」
「起きないねぇ」
「どこか、ポーションでも治らないところにダメージが残っていたんでしょうか?」
「そのわりには、寝息は安定してるんだよね。
魔法による精神封印とか?」
「うーん。あ、そうだ。
……『ヤキトリ』、何かわかります?」
すると、止まった時の中で、私の背後に現れる朱色の少女。
「これは……、いってしまえば過労と思われます。
ずいぶん長い間、心理的な負担が大きかったのではないでしょうか?」
「へぇ。わかるんですか?」
「この魔力のかんじからすれば。
私の経験によるものなので、確実とは言えませんが」
「人間の魔力でも、わかるんですね」
「人間と全く縁がなかったわけでもありませんし、生き物どうし類推の効くところがありますから」
「『ヤキトリ』は、賢いんですね!」
さすが不死鳥と言うべきでしょうか。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
どうやら、原因はわかったようです。
そうとなれば。あまり長く『ヤキトリ』と話していて、魔力が尽きては冗談にもなりません。
用件が済んだ『ヤキトリ』を早めに返して、戻った時で待っていたリャナに報告する。
「『ヤキトリ』に聞いたんですけれど、たぶん過労だろうって。
ずいぶん精神的に疲れていた様子だそうです」
「へぇ、わかるんだ」
「みたいですよ?」
リャナはちょっと驚いたようだったけれど、
「それじゃ、ゆっくり休ませてあげましょう。
どうせなら、貴女もね。せっかくの機会だし、ゆっくりお休みくださいな、レンガお嬢様」
そんなふうに、微笑って言ったのだった。
そんなことで。
私はリャナとおしゃべりしつつ、助けた女性が起きるのをのんびり待っていたのだけれど。
女性はなかなか目を覚まさず夜になったら、家のドアがノックされたのだった。
「また、調子を崩してお休みですって?
体調管理くらい、しっかりしなさいよね!」
扉を開けると、『猫のパン』の同僚メリアさんが、片手にバスケットを提げて仁王立ちしていた。
「入っていい?」
「え?
えーと……」
上にリャナもいるし、助けた女性もまだ寝ている。
なんと断ろうか困っていると、先にメリアさんに入り込まれてしまった。
「スープを温めるから、キッチンを借りるわね。
貴女は、大人しく椅子に座ってて」
椅子に座らされた私がみている前で、あれよあれよと夕食が用意されていって。
「どうぞ」
いつのまにか、私はメリアさんと向い合せで机につき、夕御飯を食べていた。
もぐもぐ、ゴクン。
うん、やっぱり『猫のパン』のパンもスープも、美味しいですね。
私がそんなことを考えていると、
ピタリ
メリアさんの手が伸びてきて、私の頬に添えられた。
「うん、熱はないようね。顔色も悪くないし。
明日は、仕事これるんでしょうね?」
私を睨みつけながら、メリアさんが言う。
でも、メリアさんこそ体調大丈夫なんでしょうね?
眼が潤んでるように見えますよ。
それに、あの女性が起きないなら、放っておくわけにもいかないので。
「すみません、念の為もう1日お休みさせてください」
私がそう言うと、メリアさんは眉を寄せて、
「そう……。
ま、無理させるわけにもいかないしね。
戻ってきたら、シャッキリするのよ!」
少し怒られてしまった。
食べさせてくれるというメリアさんの提案はさすがに遠慮したけれど、他に色々とあれこれ上げ膳据え膳してもらっているうちに、もう夜も遅くなって。
明日休むといった手前、断りにくかったんですよね。
「それじゃ、またね!」
メリアさんが伸ばした手を握って別れると、リャナに頼んであとからこっそり追ってもらう。
昨晩のこともあるし、万が一に備えて護衛をつけなければ、心配でならなかった。
「無事、送ってきたわ。
お家の場所もわかったけれど、聞きたい?」
リャナのいらないお節介を聞くのは辞退して、再び眠ってる女性を見守るが、まだまだ起きる気配はない。
「これは、仕方ないね。
レンガちゃん、いちど寝たら?」
でも、私のベッドは占領されていて、支配を宣言するかのような凱歌のイビキが豪快に響き渡っている。
リャナはパパやママのベッドを借りることを勧めてくれたが、私はどうしてもその気になれず。
仕方なく、リャナが集めてくれたクッションなんかを使って、ベッドの隣の床に仮の寝床をつくると、とりあえずそこに横になったのだった。
パパ、ママ、明日はこの女性が、どうか目を覚ましてくれますように……。
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