21-2 お薬屋さんの主1
『猫のパン』を出て。
私は大通りをゆっくりと歩いて、馴染みの薬屋へと向かう。
市場の塔に行っても良かったけれど、いまの体調にあそこの喧騒は、ちょっと疲れる。
パパやママもよく使っていたと聞いている、そのお店を目指して路地をはいると。
「あれ?ガゼルさんじゃないですか」
立派なお屋敷の裏口から出てくるところだった。
「ああ、君か。
また会ったね」
「お知り合いのおうちですか?」
「ああ、お世話になっている薬屋さんなんだよ」
そういうガゼルさんの手元からは、魔力を感じる。
もしかして、この前飲んでいた魔法薬だろうか?
それなら、ただの薬屋さんなんかじゃないでしょうけれど。
「ちょうど私もポーションをきらせてしまって、買いに行くところだったんです。
いちど、お邪魔してみようかな?」
私がそう言うと、ガゼルさんは一瞬しまったというような表情を浮かべて。
「あー、知らない人には、売ってくれないんだ。
無駄足になるんじゃないかな」
「それじゃ、仕方ないですね。
馴染みのお店に行くことにします」
「それがいいよ。
それじゃ、またね」
ガゼルさんは少しホッとしたような様子で、向こうの方へと去っていった。
その姿を見届けた私は。
「あの女性のおうち、とかじゃないでしょうけれど。
すいませんが、いちど覗かせてもらいましょうか」
そっと裏口の扉を押し開けたのだった。
「お邪魔します……」
そこは、豪華な机と椅子が中央に置かれ、壁際の棚には美しいティーセットやグラスにお酒まで置かれた広めの部屋。
「どなたですか?」
テーブルの上を片付けていたと思われる、上下のつながった服にポニーテールの少女が振り向いて、怪訝な表情を浮かべて問うてきた。
「存じ上げない方をお招きすることはできかねますし、退去いただけない場合は排除します」
私を見る目は変わらないのに、身体から溢れ出す魔力。
『ヤキトリ』には及ばないけれど、私なんかより全然多いんじゃないでしょうか?
魔力の感じも、何でしょうこの違和感。人であるのに、人じゃないような。
あわてて謝ってから出ていこう、そう考えたところで。
「私が知っているから、追い返さなくてもいいわ」
奥の扉が開いて、聞き知った声がかけられた。
この声は、シリル様?
「私のお店にようこそ、レンガ。
なにかご入用のものでも、あった?」
シリル様は並んでいた椅子の1つを私に勧めながら、座られる。
「え?
シリル様!?
シリル様の、お店なんですか?」
私はとても驚いたけれど、シリル様の勧めに従ってとりあえず腰を下ろす。
先程の少女が、黙ってお茶とお茶菓子を並べてくれた。
「突然お邪魔して、すいません。
ここは、シリル様のお薬屋さんなんですか?」
「そうね。大抵のものはあるわよ。
体力回復、魔力回復、異常回復、強化、弱化。
媚薬や毒薬なんかも、用意できるわよ?」
『研究会』でいつも聞くシリル様の口調に。
緊張のあと急に安心した私が思わず、控えめなシリル様の胸を見ながら、
「豊胸なんかも、あったりするんですか?」
なんてきいてみたら。
「ええ、身体変化系も用意できるわ。
肉体強化、四肢再生、老化、若化。
それなりの覚悟があるのならね?」
若化って!
そんなことが知れたら、シリル様を巡って争奪戦ですよ!?
「不死鳥を殺す薬だって、お望みならつくってみましょうか?」
微笑みながら、そんな恐ろしいことまで仰った。
今更『ヤキトリ』を殺す理由なんて、ありません。
……もしかして、胸の話をしたことを、怒ってます?
「あの。
私が欲しいのは、エクスヒールポーションとか、マナポーションとか、そのくらいで。
……ああ。
大怪我をして倒れてしまったときに効く回復薬とか、あったりしませんか?」
私がそう言うと、シリル様はいくつ要るか確認をして、部屋にいた少女に指示をし、何本もの薬をもってこさせた。
「これがエクスヒール、これがマナポーションね。
あと、こちらの薬を飲ませれば、どんな状態からも回復するわ」
あるんですね。
「ありがとうございます。
そうだ。代金は、どうすれば?」
「貴女が代金に見合うと思う程度、今度私のお願いを聞いてくれればいいわ」
シリル様は、ずいぶん気前のいいことを言ってくださった。
「それじゃ、お言葉に甘えます」
こうして、私は薬の買い出しを終えることができたのだった。
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