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21-1 ガゼルさんと女性2

 ぎゅっ、と。

 頭が温かく包まれる感覚で、目が覚める。


 目の前は、暗くて。

 何も見えない。


 むぎゅ!と。

 更に強く抱かれて。

 柔らかく、温かい。

 なんだか、ママに抱きしめてもらってるみたい……

 そのままもう一度寝そうになったけれど。


 ギリギリギリギリ……

 力がさらに強くなって。


 いたい!

 あわてて、身体を起こした。


 頭を抱いていたのは、昨日の朝ガゼルさんのおうちで見かけて、昨日の夜不審者に襲われているところを助けた女性。

 今は血色も良く、嬉しそうにニヤニヤしながら、私のベッドで眠っている。

 どうして、こんな血にまみれたポーションでぐしょ濡れのベッドで、気持ちよく眠れるんでしょうね?


 どうも、寝相はあまりよろしくない。

 ベッドにきちんと真っ直ぐ寝かせたはずが、いまはだいぶ斜めになって、手も足も大きく放り出している。

 ほら服も切られたりしてボロボロだから、見えちゃいけないところが色々と見えてますよ。もう。

 でも、どうやら傷も治ったようで、見たところ大丈夫そうだ。なによりである。


 私はリャナを喚び出すと、簡単に事情を話し彼女の面倒を任せて、朝の支度にはいる。


 リャナを喚ぶだけで、もうフラフラしますよ。

 昨晩はぶっつけ本番で『ヤキトリ』の力を借りて戦闘でしたからね。魔力を使いすぎましたか。

 あー、制服もぼろぼろです。これは、買い換えなくちゃダメですね。安くないんですけれど。

 しまった、マリオさんに持たせてもらった残り物のパン、もってきてないです。朝ごはん、どうしましょう?


 などと。いろいろ考えながら、とりあえずシャワーを使って出てくると。

「朝食の用意ができませんよ、お嬢様。

 ……せっかく冷蔵庫があるのに、ほとんどポーションしか入ってないじゃない。もう少し、なにか入れたら?」

 エプロンを付けたリャナに苦言を呈される。

 あのエプロン、ママのでしょうか?

 なんだか、とても嬉しくなった。


 それはさておき。

 それならまずは、いまのこのフラフラをなんとかしたい。

「マナポーションは、ありますか?」

「この前、泉に行くときにたっぷり飲んじゃったからね。もう3本しかないみたいよ?」

 リャナが渡してくれたものを、とりあえずガブ飲みしてみるけれど。

 フラつきは治まって少しマシになったと思うけれども、まだ全然調子は良くない。

「これは、買い出しにいかなきゃですね。朝ごはんも、使ったぶんのポーションも」


 そして、私は少し考える。

 足りないポーションの買い出しは、研究会に顔を出す時間を少しもらえば行けると思いますけれど。

 調子もいまいちですし、助けた女性のことも気になりますし。

 もう朝『猫のパン』のお仕事終わったら今晩お休みもらって、パンとポーションを買ってから、家に帰ってきますか。

 学院のほうは1日休んでも大丈夫でしょうし、明日急病か何かの欠席届をだしましょう。


「リャナ、今から少し出ますけれど、しばらくしたら戻ってくるので。

 それまで、あの女性のことをお願いしできませんか?」

 そして、快く引き受けてくれたリャナに見送られて、家を出た。


 まずは、『猫のパン』につくといつもの朝の配達。

 しんどいものの順調に配達は進んだのだけれど、ガゼルさんのお宅を訪ねたとき。


「君。レンガさん、だったかな?

 昨日、うちから女の人が出ていくのを、見たよね?」

 ガゼルさんが話題を振ってきた。

 なんといっても昨日助けた女性のことだ、気にならないわけがなくて聞いてみる。

「はい、見ました。

 ……彼女さん、ですか?」

「いや。全然そんなんじゃないよ。

 なんというか……2度と会うことはないと思っていた人だ」

「あの女性、どういう方なんですか?」

「うーん、勝手に盛り上がって、勝手に苦労を背負い込んだ、ものを見る目のない馬鹿といったところかな。

 だから、いろいろ自業自得なんだ。今更、私のところに来られても困ると言うか」

「……随分とひどい言い方じゃないですか、ガゼルさん」

「ああ、君から見たらそう見えるのか。困ったな。

 私に言わせれば、被害者はこちらで、酷いのはあっちの方だ。

 ……これも、誤解を招きそうだな」

「私も気持ちよく配達したいですし、もう少し詳しく聞きたいです」

 昨晩襲われていたことについても、なにかわかるかもしれませんし。


「うーん、そう言われると誤解を解いておきたいけれど……どう話しても、うまく説明できそうにないな。

 昔彼女とはあの人のことで……いや、これもダメか。

 彼女があの人のことを誤解して……いや、少し違うな。

 彼女はああ見えて強い……そうでもない、かな?」


 悩みながら言葉を紡ぐガゼルさんだったけれど。


「私も言えないことがあるんだから、仕方ない。

 もし君が私にパンを運びたくないというのなら、やめてくれても構わないよ。

 いいサービスに、パンも美味しかったけれど、仕方ないな」


 そう言われて。

「それじゃ、あの女性が誰かに襲われていたら、どうしますか?」

「おとなしくどうにかされるとも思えないけれどね。

 守ってくれる人も多いだろうし。

 もしなにかあっても、それもまた自業自得でなにかやったんじゃないかな」


 ガゼルさんは苦笑のような表情で、そんなふうに口にした。

 でも、私はなんだかそれでももっと複雑な事情がありそうな雰囲気を感じて。


「なるほど。とりあえずわかりました。

 私は、まだべつに、ガゼルさんにパンを運ぶのが嫌だとか、思っていませんよ。

 これからも『猫のパン』を、よろしくお願いします」

 そんなふうに答えた。


 私も『ヤキトリ』のこととか、言えないことは色々ありますし。

 でも、いつかガゼルさんのことをきちんとわかることができて、気持ちよくお付き合いできるようになると良いですね。

 ……それに、ガゼルさんとあの女性がどちらも幸せになってくれるといいな、と思います。


 そして、最後まで無事に配達を終わって、お店に戻る。

「どうだった?」

「配達の方は、問題ありませんよ」

「そうか。なにかあったら、報告頼む」

「はい。

 でも、すいません、今日ちょっと体調が優れないので、夜はお休みしていいですか?」

「そりゃ、いけない。

 学院は、行くのかい?」

「学院も、今日はお休みするつもりです」

「そうか。無理させちゃったかな。

 ゆっくり休みな。馬車を呼ぼうか?」

「いえ。少しお薬とか買っておきたいものがありますから」

 マリオさんとそんな遣り取りをしたあと、私はマリオさんに多めのパンを分けてもらって、お店を出たのだった。


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