20-4 深夜の不審者
夜。
『猫のパン』の仕事も無事終わり、遅い時間の大通りを歩く。
人通りは、殆どない。
だけれど。
通りの向こう、誰か来ますね?
大通りをこちらに向かってくる、魔力の数は4。
その移動の速さと、魔法が使われたのか時々明るくなる通りの向こうは、穏やかではない。
普通なら神殿騎士の出番なんですけど。
なかなかその気配を感じられないでいると。
みえた。
マントを頭から着込んだ、怪しい人影が4つ。
どうやら、逃げるのが1つに、追うのが3つのようだ。
見る間に目の前に影が迫る。
最初の逃げていた影は、私の姿を見つけて立ち止まったようだった。
巻き込まないように、迎え撃つつもりのようですね。
夜の聖都を照らす街灯の下、交差する1つと3つの影。
そして。逃げていた1つは膝をつき、追っていた3つが周りを囲もうとしたところで。
「おや。誰かいるな」
「目撃者か」
「消せ」
話し声は、いずれも男。
3つの影のうち1つが、私の方へと歩いてくる。
「いくら聖王国の聖都とはいえ、若い娘が深夜の散歩は、感心しないな。
殺されても、文句はいえまい」
「その言い方、他所の国の人ですね。
この町でそんなことをしたら、あなたも無事ではすみませんよ?」
「長居するつもりもない、問題ない。
あの女も、死出の道連れができて、嬉しかろう!」
間合いに入ったかと思った瞬間、男が踏み込んで剣を薙ぐ。
はやい!
闇の中、目で追いきれず、前に立てるように置いた私の宝具に当たって、なんとか剣が止まる。
私は身体を魔力強化して後ろに跳ぶと、話している間に魔力を通しておいた宝具を宙に舞わせ、牽制する。
「ほほう、面白いものを使う。
それも、聖王国自慢の魔道具か?
だが!」
男の眼がマントの影から覗く。その瞳は縦に裂け、人のものではなかった。
一瞬の跳躍で、私の用意した距離はたちまち奪われる。
疾る剣をなんとか躱す。
しかしそれは、罠だった。
いつの間にか肩から伸びた、3本目の腕が。私の死角から、したたかに私を殴りつける。
一瞬気を失いかけけれど、遠く飛ばされて地に落ちた衝撃で、なんとか意識が戻った。
マントの何者かは、ゆっくり歩いてくる。
私では勝ち目がないと、宣言するように。
たしかに剣の技量も私より上、そのうえ何か得体のしれない力をもっているようです。
このままでは、私が勝つことは難しいかもしれません。
向こうを見れば、追われていた影は地に伏せていて。今にも剣がかかる瞬間だ。
だから。
「『ヤキトリ』!」
私は声を上げて喚ぶ。
目の前の世界が止まり、私の後ろに『ヤキトリ』が立つ。
「如何しましょうか、ご主人さま?」
「『宝具』を向こうの2人に4×3の3斉射。
照準と魔力の充填は任せます。
威力は抑えてください。牽制と、神殿騎士を呼ぶ道標になれば構いません。」
「目の前のものは?」
「貴女の魔力も使って、肉体強化します。宝具を撃ち終えたら、制御を手伝ってください。」
「わかりました。」
目の前の時が動き出す。
身体に力が漲るのがわかる。
私を1度倒した影が、ゆっくりと迫ってくる。でも、もう怖くはない。
宝具が4条の光を3度放ち、あちらの方で2つの影が肩を押さえ膝をつくのが見えた。
「小娘!」
目の前の男が、再び剣を振るう。
神速ともいえる速さのその剣だったけれど。
「遅いですね」
後転して再び距離を取ると、男は空を切った剣を再び構え直す。
「くっ、目立ちすぎた。引くぞ!」
向こうの方からかけられた声。
「チッ。
小娘、次に会うときを楽しみにしておくんだな。
お前を、食ってやる」
目の前の男はそういうと、ニヤリと笑って、立ち去っていった。
口の中に見えた、たくさんのギザギザした歯が、やけに印象に残った。
「大丈夫ですか?」
私は追われていた影のところへ行くと、助け起こす。
フードが外れ現れたのは、朝に見かけたきれいな金髪の編み込み髪だった。
「いけない」
腕の中の女性は意識がなく、『ヤキトリ』の力で強化した耳には神殿騎士と思われる足音が聞こえてくる。
「仕方ない、少し我慢してくださいよ?」
私は女性を腕に抱いたまま、裏路地や小路を駆け抜ける。
いくらか地の利のある旧市街だ。
どうやら、誰にも見咎められることなく、自分の家についた。
マントを脱がせ、自分のベッドに寝かせて、身体を調べる。
随分と傷が多いですね。……女性なのに。痛ましい気持ちになる。
今できたと思われる傷も大きく、多くの血が流れているけれど。
見れば古傷も多く、切り傷だけでなく火傷の跡や打撲の痣だって少なくない。
冒険者でも、ここまでの傷があるのはめずらしい。
ましてや、朝見たあの剣の持ち主が彼女なら、どんな生活をすればこんな傷を負うのか。
「よほどの事情が、あるのでしょうか」
でも、まずは応急手当だ。
「『ヤキトリ』の力をきちんと使えれば、これくらいの傷でも癒せるのかもしれませんけれど」
気付けば、『ヤキトリ』の姿はもう見えない。
身体には、魔力不足になったときのような、ものすごい倦怠感が押し寄せてくる。
でも。
なんとか持ち出した10本近くのエクスヒールポーションを、次々じゃぶじゃぶと女性にかけていく。
出血が止まったのを見届けて、私も床に倒れ込んだ。
「さて。なんとか目を覚ましてくださいよ。
明日は、私がそこで気持ちよく寝たいんです。
……パパ、ママ、どうかこの人をよろしくお願いします」
私はそのまま、目を閉じたのだった。
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