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19-1 学院の図書館、に行く前にちょっと寄り道を

「うん、今日もいい天気です!」

 朝起きたら、まずは天気の確認。

 それから、着替えをして、食事をして。


「いってきます!」

 元気に家を出る。

 向かう先は学院の図書館。

 本の予約をしてもらったのに、いつまでも受け取りに行かないのは、良くないですよね。


 まだ朝早いので、人通りは少ない。

 でも、いつもは『猫のパン』のあとに行くから。家から学院へと直接向かう道は新鮮で。


 へぇ。あそこの家のお庭、花が綺麗ですね。あの赤い袋のような実がなっているのは、なんて言う植物なんでしょうか?

 そちらのおうちでは、洗濯物を干している。目があったから、笑顔で少し頭を下げる。

 こっちのおうち、お料理の匂いがしてきます。ちょっと香辛料の香りがしますけれど、朝から何を作ってるんでしょうね。


 そんなふうに周りを見ながら歩いていけば、いつの間にか学院についていた。


 門を潜り、図書館へと向かう。

 休日だからか、いつもはそれなりに人の多い学院も、今日は閑散としている。

 静かな中で、私の足音だけが聞こえてくるのが、なんだか楽しい。


 せっかくだから、まだ時間もありますし、いつも通らない道を歩いてみましょうか。

 途中にある分かれ道を、木立を抜けていく、通ったことのない小路へと進む。

 暫く歩くと、正面に、いくつか尖塔を持った古いレンガ造りの建物が見えてきた。

 周囲は綺麗にされているものの、あまり人が来ているような形跡はない。

 正面に回ると、はめられた綺麗なステンドグラスは、少し薄汚れているように見えた。


「こんなところになんの用かな、お嬢さん?」

 後ろから声をかけられて、びっくりする。

 振り返ると、長い銀髪を1つにまとめて垂らした、神官服の誰かが立っていた。

 目にした外見も、さっきの声も、男性とも女性ともつかない、不思議な雰囲気だ。

 全然気配に気づきませんでした。只者じゃ、なさそうですね。

「鳥の鳴き声に引かれて、こんな所まで来てしまいました」

 適当にそう返したのだけれど、

「そう?鳥なんか、鳴いていないよ?」

 言われてみれば、やけに静かだった。

 鳥の鳴き声どころか、風の音も、草木のざわめきも、聞こえない。

 ……おかしいですね?

「本当、いつの間にか鳴き止んでいたようです。

 ここ、どこでしょう?」

「ここは、聖堂だよ。

 見たところ学院生の子みたいだし、『旧聖堂』と言ったほうが、わかりやすいかな?」

 旧聖堂でしたか。聞いたことあります。

 5年ほど前に今の聖堂が建てられたので、いまは使用されていないはず。

 ちなみに、女の子の呼び声に応えて中に入ると食べられちゃうという、学院7不思議の1つの舞台ですね。


「もしかして、『呼ばれた』の?」

 そう言われて耳を澄ましてみるけれど、私には何も聞こえない。

「私には何も聞こえませんから、違うと思います」

「ふふ。

 聖堂の女の子の話、最近聞かないのは、新しい聖堂がつくられてどこかに行っちゃったのかもね?」

 ……なにかの、謎掛けでしょうか?

 残念ですけれど、私には何も思い当たるものはありません。

「その子も自由になれて、良かったんじゃないでしょうか」

「別のどこかで、また誰かを呼んでいるのかも?」

「そんな事件は、聞いたことがないです」

「これから起きるかも?」

「騎士様たちや冒険者の方たちもいますし、神殿もあります。

 聖都では、そんなに好き勝手できる隙間はないと思いますよ」

「そうかもね」

 そんなことを話す、その『誰か』の口元は、どこか微笑んでいるように見える。……それとも、嘲笑ってる?


「あれ、いつの間にかずいぶん時間がたっちゃったね。

 君は問題ないの?」

 言われて、図書館に行く予定だったことを思い出す。

「いけない、しなくちゃいけないことを、忘れていました。

 失礼します」

 私は、その場を後にする。


 少し薄気味悪い気がして、だんだん駆け足になった。


 図書館前まで走って、扉を開ける。

 図書館の中に入るけれど、司書さんも利用者らしい姿も、見当たらない。

 ジワリ、と。なんともいえない不安感が登ってきて。


 あ、いた!

 受付にいる人の姿を見て、ようやく落ち着いてくる。

 安心した私は、近づいて、声をかけた。


「すいません、先日、本の貸し出しを予約したんですけれど」

「あれ?レンガ様じゃないですか!

 お取り置きの本、お持ちしますね」

 振り向いたのは、このまえ本の貸し出しのアドバイスをしてくれたアンバーさんだった。

 アンバーさんは図書の貸し出し手続きをしながら、

「今日は調べ物はされないんですか?」

「はい。この後、予定がありますから」

「また調べ物をされるようでしたら、お手伝いしますので、お声をかけてくださいね」

 アンバーさんは、瞳をキラキラと輝かせながら、そう言ってくれた。

 本当に、本が好きなんですねぇ。

 情熱を感じます。

「今回借りる本の他に、関連書籍みたいなものはありますか?」

「あのあと少し調べましたけれど、あと10冊ちょっとはご紹介できそうです。

 でも、まずは今回の本を1度当たられるのが良いと思います」

 ああ、アンバーさんもいろいろしてくれてたんだなぁ。

『ヤキトリ』の秘密に立ち向かうのは、私ひとりのちからじゃない。

 なんだか、とても勇気づけられた。

「ありがとうございます。

 この前もとても助かりました。またよろしくお願いします」

「はい!」

 私がそうお願いすると、アンバーさんはとても嬉しそうに微笑んでくれた。


「それでは、こちらをお持ちください。

 貸し出し期限は30日です」

 そして私は、アンバーさんから貸し出し手続きを終えた本を受け取って、図書館を後に……


 ん?

 扉を開けようとしたとき。

 私は、後ろから誰かの視線を感じて、振り返る。

 アンバーさんは他の仕事に移ったのか、もう姿はない。

 目の前には、誰もいない図書館の景色が広がる。

 ……気の所為でしたかね?

 アンバーさんと話したおかげか、私はそれに図書館に入ってきたときのような不安を感じることもなく、そのまま図書館をあとにしたのだった。


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