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17-1 新しい配達先

「ん……」

 窓から入ってくる朝日で、目が覚める。

 ごそごそとベッドから降りると、

「……ん~!」

 力いっぱい背伸び。

 一気に身体に、元気がみなぎってくる。


 寝押ししておいた制服を取り出して着替え、水にフルーツを絞って一口。

 1階に降りて髪を整え、朝食のパンを食べる。

 荷物の入ったかばんを手に、

「いってきます!」

 と家を出る。


 そんな、いつもと変わらない朝。


『猫のパン』につけば、マリオさんが待っていてくれて、私は猫印の帽子とエプロンを着込んだら、配達の猫車を押す。


「今日も、朝早くからありがとうね」

「今日のスープは、コーンスープなのね。子供が喜ぶわ」

「母さん、今日のパンはこっちを食べてみる?」

「今日も時間通りですね。では、いつもの場所に」

「レンガちゃん、いつもカワイイね!家でひとくち、食べていかない?」


 いつもの配達。いろんな人がいるけれど、みんなが笑顔をみせてくれるので、私も笑顔になる。


 それから……

「さて。今日はこちらのおうちが新規さんですか」

 旧市街では一般的な、赤レンガ造りの2階建て。

 しっかりした木で作られた扉をノッカーで叩くと、中から若い男性が現れた。


「おはようございます、『猫のパン』です。

 ガゼル様のお宅でお間違い無いでしょうか?」

「やあ、おはよう。僕が、ガゼルだよ。

 君が『猫のパン』の配達の人?」

「はい。レンガと申します。

 今回は『猫のパン』をご利用いただき、ありがとうございます!」

 第一印象が大事。ここは、一番の笑顔で!

 ニッコリと顔を向ければ、男性もニッコリと笑みを返してくれた。

 よかった、気難しい人ではないようだ。

「申し訳ないけれど、あそこの机の上に置いてくれないかな?」

 そう言われたので、家に入り机の上にバスケットを置く。

 後からガゼルさんが歩いてくる足音がして、

「おおっと……」

 躓いたのか、急にバランスを崩したようだ。

 倒れ込むように私の肩によりかかる。意外と軽くて、内心驚いた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、失礼。足がもつれてしまったようだ」

 ガゼルさんは、身体を起こして歩き出す。

 足取りはどこかふらついている。お体でも悪いのだろうか?

 壁際の戸棚の前まで行くと、扉を開ける。

 中には、再び箱。それをまた開けて、瓶を1つ取り出す。


 強い魔力!

 魔法薬、でしょうか?

 よほどの難病をお持ちかもしれません。


 ゴクリ。

 瓶の中身を一口で飲んだガゼルさんは、振り返ってこちらを見る。

 ん?なんだか、目つきが少し怖くなった気がする。


 コツ、コツ、……

 ガゼルさんが、こちらに戻ってくる。

 足取りはしっかりしていて、転びそうな様子はもうない。


 ジロジロ、と。

 舐め回すような視線を、身体に感じる。

 ちょっと、居心地が悪い。


 ぐっ!

 私の目の前まで来たガゼルさんが、私を挟み込むように、片手で机の端を掴む。

 私は、机とガゼルさんの間で、身動きがとれない。


 それでも。

「大丈夫ですか?」

 ガゼルさんの眼をじっと覗き込んで、確認する。

 目の光が揺れている。さっきの魔法薬のせいだろうか?

 いまいち、何を考えているのかわからなかった。


「……いや、重ねて失礼をしてしまったね。ごめんよ」

 そういって、ガゼルさんは少し後ろに下がり、椅子に腰掛けた。

 私は机の前から離れて、ガゼルさんと少し距離を取る。


「どうされたのですか?」

「……持病があるのさ。

 この薬を飲めば大丈夫なんだけれど、安定するまでに少し時間がかかってね」

「少し、お側に居ましょうか?」

「それには及ばない。心配をかけてしまったのなら、すまないね。

 配達は、いつもこのくらいの時間になるのかい?

 それなら、早めに薬を飲んでおくようにするよ」


 机の方を向いて立ったままのガゼルさんとの会話。

 大丈夫と言われても、心配にはなる。


 そのとき。

「……にゃあ!」

 予想外の方向から、とつぜん引っ張られるスカート!

「きゃあ!」

 完全に不意打ちで、バランスを崩す私。

 ドタン!と、床に倒れる。


「大丈夫かい!?」

「にゃあ、にゃあにゃあ!」

 私のスカートの裾に、猫が絡んでいる。

 ああ、爪はたてないでくださいよ!

 慌ててスカートを引っ張ると、ガリッと床が音を立てる。

 ホッ。あぶなかったですよ。


「こら、やめなさい」

 ガゼルさんは椅子から立ち上がって猫を拾い上げると、腕に抱く。

「ふみゃ、ウゴぅぅ……」

 猫は、喉を鳴らしながらおとなしくなったようだ。

「ごめんね、うちの猫が。

 立てるかい?」

 片手を伸ばしてくれるガゼルさん。

 少し遠慮しながら掴んだら、グッと力強く引き起こしてくれた。


「ほんとうに、いろいろとごめんよ。

 随分時間をとっちゃったんじゃないかな?」

 そう言われて、私も気付く。

 たしかに、もう次のお客様のところにいかなくちゃ。待たせてしまっては、大変だ。

「それじゃ、これからよろしくね」

 そう挨拶してくれたガゼルさんの笑顔には、もうさっきの妙な雰囲気もない。

「こちらこそ、よろしくおねがいします!」

 私も挨拶を返すと、早足で次の配達先に向かった。


『猫のパン』に戻ったあと。

「レンガちゃん、新しい配達先はどうだった?」

「はい、悪い人じゃないと思うんですけれど、ちょっと気になるところがあったので、よければしばらく私が配達に行っていいですか?」

 マリオさんにそう報告する。

「気になるところ?

 なにかあったのかい?」

「実は……」

 私は今日訪ねたときの一部始終をマリオさんに説明した。

「そうかぁ。

 なるほど、それじゃあ、しばらくはベテランのレンガちゃんを中心に配達してもらったほうが良さそうだね。

 他に配達をお願いするみんなにも、伝えておくよ。

 それに、オレも後でガゼルさんのところには、挨拶に伺っておく」

 こうして、私はしばらくガゼルさんの配達担当になったのだった。


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