16-4 ある晩の『猫のパン』
2023年1月22日-誤字修正。
「おはようございます!」
今日は学院で魔力制御の練習を頑張ってきたから、実はけっこう疲れていたけれど。
また心配をかけたくないので、元気に挨拶して『猫のパン』の夜のお仕事にはいる。
配達の仕事は、問題なく終わって。
お店で品出しをしていたら……
「やっほ、レンガちゃん!」
「わあっ、セーラさんじゃないですか!」
「レンガちゃんが『猫のパン』で仕事をしてるって聞いてたから、来てみたわ」
「うれしいです!
どれも自慢の美味しいパンですから、どうぞ召し上がってください!」
「レンガちゃんも、食べてるの?」
「いつも、食べてます!」
「店員さんがいつも買ってるパンなら、ぜひ試してみたいわね」
セーラさんは楽しそうにそう言うと、店内のパンを眺めだした。
「なぁ、あれって『銀月』のセーラじゃないか?」
「あの、バゥム救国の英雄冒険者の1人の?」
「ゼルロー会戦でものすごい魔法を使って、相手の軍隊を潰走させたっていう、あの?」
「吟遊詩人とかが歌ってる通りの見た目だし、弟の持ってたカードのイラストにも似ているし」
「もし本物なら、すげぇな!」
あちこちでひそひそ話が沸き上がる。
『銀月』さんって、本当に有名なんですね!
さすがBランク、というか、Bランクでもここまで有名な冒険者さんは少ないんじゃ?
いまから考えれば、凄い出会いをもらってたんですね。
今更ながら、なんだか嬉しくなった。
「こんど、また私達の宿を訪ねてね。
この前の報告も、したいし」
セーラさんはパンを買ったら、私にそう言うと、ウインクをして帰っていった。
私も、『ヤキトリ』のことを伝えないとですね。
また近いうちに訪ねよう、そう思った。
「こんばんわ、レンガさん!」
セーラさんを見送った私に、また声がかけられたので。
見てみると、グレコくんとディエゴくんとハルメンスくんの3人が立っていた。
「もう来てくれたんですか?
ありがとうございます!」
朝『また来る』といってくれたけれど、まさかこんなに早く来てくれるなんて。
『猫のパン』を気に入ってくれたみたいで、嬉しいです。
「僕、フレンチトーストとクリームコロネと焼きそばパンとメロンパン、買います!」
「はい、ありがとうございます!」
グレコくんが笑顔で言ってくれると、こちらまで笑顔になる。
「僕は、シチューに合うパンがほしいんですけれど」
「それなら、こちらのパンがおすすめです!」
ディエゴ君のリクエストに、私はカウンター横のバスケットまで案内する。
「すいません、甘いパンはどのあたりになりますか?
祖母と母と妹に持っていきたいので」
「タルトがあのあたり、シフォンとかがあのあたり、その他に焼き菓子があのあたり、ですね」
ハルメンスくんは家族思いの優しい子なんですね。
「それじゃ、レンガさん、また!」
そして、3人はそれぞれお目当てのパンを買うと、私に手を振って帰っていった。
私も手を振って見送る。
「ふぅん。
レンガはああいう男の子が、好みなんだね」
扉がしまって振る手を止めた私に、かけられた声は含み笑いが混じっていた。
えっ?
よく知った声だったけれど、この場所で聞くのは意外だったので。
すこし驚いて、振り返る。
「ラー様!
どうしてここに?」
「昨日、レンガがうちの店を訪ねてくれたじゃないか。
だから、こんどは私が訪ねてやろうと思ってさ」
こういうのは、負けず嫌いというのでしょうか?
……なにか、違うような気もしますが。
「どれも、美味しそうだね。
さて、どれをいただこうかな」
「買っていかれるんですか?」
大商会の会頭が、町のパン屋でお買い物?
私が驚いてそう聞くと、
「パン屋に来てパンを買わなかったら、どうするんだい?」
それはそうなんですけれど、そうじゃないというか。
「これをください」
「ありがとうござ……!?」
ラー様がいくつかパンを選んで持っていくと、ちょうど会計に出ていたマリオさんは絶句した。
「マリオさん、うちの食材でいつも美味しいパンを作ってくださって、ありがとう」
ラー様かそう声をかけたら、マリオさんはずいぶん恐縮してるようだった。
「これからもよろしくお願いしますね」
そう言うと、ラー様は買ったパンの包みを手にとって、店を出ていかれた。
「ふぃー、ビックリしたぜ」
店の中ではマリオさんが汗を拭っている。
「すいません、すこし前によろしくと言伝を預かってたんですけど、忘れてしまってました」
私がマリオさんに謝ると、
「レンガちゃんがラー会頭と知り合いなのも、ビックリだよ。
いやぁ、カーン商会にはいつも世話になってるんだが。
まさか、会頭がいらっしゃるなんてなぁ」
2人でしばらく驚いていると。
「ふたりとも。驚いたのはよくわかりますけど、そろそろ戻ってきてくださいね?」
リンクさんに言われて、慌てて仕事に戻った。
そんなことがありつつも、仕事を無事終えて。
「ただいまです!」
帰宅して、お風呂にはいって、牛乳を飲んで、学院の課題を済ませて、ベッドにはいる。
「パパ、ママ、今日も色々ありました。
でも、『アレ』のこと、忘れてませんよ。
もうすこし、待っていてくださいね」
そう言って、眼を閉じる。
肖像画のパパとママは、微笑んで私を見守ってくれているような気がした。
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