16-1 グレコくんと、お友達2
「……うん!
やっぱり、『猫のパン』は美味しいですね!」
朝から『猫のパン』特製のパンとスープを食べて、私はご機嫌だった。
昨晩メリアさんが
「朝も忘れずに、食べなさいよね!」
と言いながら置いていってくれたものだ。
昨日休んだおかげか、身体も軽い。
今日は張り切っていこう!
身だしなみ、良し。
食事、良し。
それじゃ、いつもの荷物を持って、
「いってきます!」
私は家を出た。
「おはようございます!」
元気に挨拶をして『猫のパン』に入っていくと。
「おう!レンガちゃん、おはよう。
元気になったか?」
いつものようにマリオさんが出迎えてくれる。
「はい、もう大丈夫です。
ご心配おかけして、すいません!」
「調子が戻ったなら、良かったよ。
ところで、実は今日レンガちゃんが休むかもしれんと思って、レンガちゃん抜きで配達のシフトを組んだんだ。
だから、悪いけれど、朝は店内をやってもらえないかな?」
なるほど。なんだか、色々めんどうをかけてしまったようで、申し訳ないです。
そういうことなら、今朝はお店で頑張ろう!
「いらっしゃいませ!」
できるだけ一番の笑顔を浮かべて、元気に挨拶。
こちらを見て笑顔を浮かべてくれるお客様が多くて、私も嬉しくなる。
「お、やった!今日は『あの娘』いるじゃん」
「へへ、今日一日、良いことありそうだな!」
焼きたてのパンを並べていると、後ろでそんな話し声。
いいですねぇ。
お店の誰かに片思い、とかでしょうか。
なんだか、憧れますね。
「すいません、『満月レモンのシフォン』、出てきますか」
「あ、今あるぶんは売り切れてしまったみたいです。少々、お待ち下さい」
そちらを見れば、商品名をかいたプレートの向こうに、品物はない。
いそいで、パン焼き窯の前に行って確認してみる。
「すいません!『満月レモンのシフォン』、どんな感じですか?」
「シフォンは、いま窯の中にはいったところだね。
お店に出せるまで、1時間は見てほしいかな」
ただいまパン焼き真っ最中のリンクさんが答えてくれた。
まだまだかかりそうだ。
お客様に報告に戻る。
「すいません、いま焼いていますが、あと1時間は掛かりそうです」
「……そうかぁ。
ありがとう、他のにするよ」
お客様はそう言うと、他のパンを眺めだした。
それからしばらく、私はやたらパンの場所や焼き上がりの時間を聞かれた。
うわー、朝の店内って、やっぱり忙しいですね。
いつも担当してくれてるメンバーには、頭が下がります。
「あのっ!」
「はいっ!」
声をかけられたので振り向けば、この間見た顔。
たしか、グレコくん……とお友達が2人。
「おはよう!
このまえ誘ってもらったから、来た!」
グレコくんが少し赤くなった顔をしながら、大きな声で挨拶してくれる。
元気なのは良いけれど、少し力み過ぎではないでしょうか。
「いらっしゃいませ!
ようこそ『猫のパン』へ。いつもご利用、ありがとうございます!」
「……えーと、」
そこで口籠るグレコくん。
うん、『パンのサービスをくれ』なんて、こんなところじゃ言えませんよね。
大丈夫、憶えてますよ!
私は口をグレコくんの耳元に近づけると、
「あとで、お店の裏まで来てくださいね」
と囁いた。
「う、うん。わかった!」
グレコくんはまだ赤い顔でそう返事をして、店を出ようとする。
「おい、馬鹿!」
お友達に腕を掴まれて、何やらゴニョゴニョ。
それから、トレイをとってパンを選び始めたようだった。
たしか、フレンチトーストとクリームコロネが好きって言ってましたけど……。
サービスを何にしようか考えながら仕事に戻ろうとしたら、何やらお店の人の注目が集まっていた。
しまった、仕事中にプライベートの話は良くないですよね。
反省していると、
「『スジ煮込みを包んだパン』、できたよ!」
奥からそう声がしたので、
「はーい!レンガ、いきます!」
これ幸いと返事をして、売り場を逃げ出したのだった。
「お疲れさまでした、またあとで!」
その後なんとか仕事も終わり。
私はグレコくんへのサービスを買って、店の裏へと回る。
そこには、もうグレコくんたちが待っていてくれた。
「この前は、ありがとうございます。
これ、本当にちょっとしたものですが」
渡した包みに入っているのは、お肉のサンドセット。
ハムサンドとカツサンドとテリヤキサンドがセットになった、若い男性に人気の商品だ。
「ありがとう!
その、思い出してたんだけど、この前僕ら名前も言ってなかったんじゃないかな。
失礼だったなと思って」
そう言いながら、グレコくんが頭を下げた。
キレイに整えられた金髪がサラリと流れる。
そういえば、たしかにちゃんと聞いてはないような。
「改めて。僕はグレコといいます。
それで、こっちは友達の……」
「ディエゴです」「ハルメンス、です」
「丁寧にありがとうございます。
レンガです」
礼には礼を。私も名前を伝える。
「えーと、今度いっ……いてぇ!」
グレコくんがなにか言いかけたとき、ディエゴくんの腕が当たって、言葉が止まる。
「あ、ゴメンな、グレコ。
あの、レンガさん。また今度来ても良いですか?」
常連になってくれるのなら、大歓迎だ。
「喜んで!お待ちしてます!
……パンのサービスは出来ませんけれど」
「ちゃんと自分たちで買いますよ。
ところで、レンガさんはいつも朝お店にいるんですか?」
「朝と夕方は、たいてい配達でいませんね。
今日は、ちょっと事情があって。
夜は、配達が終わったらお店に出ることが多いんですけれど」
「ああ、なるほど。
だから、昨日と一昨日は居なかったんだ。」
ハルメンスくんが呟く。まあ、昨日は仕入れのお手伝いでしたけどね。
「あ!
私、そろそろ学院に行かなきゃいけないので!」
それじゃあと、急いで挨拶を交わすと、走り出す。
後ろを向いてもう一度手を振ったら、転びそうになった。あぶない、あぶない。
思ったより時間が過ぎてしまった。
これは、学院までずっと走ったほうが良さそうですねぇ。
そして、今日も私は『人前で出せる最高速』で学院に向かうのであった。
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