15-4 家に友達がやってきた
ガタ、ゴト、ガタ、ゴト、……
揺れる馬車の中。
私はアジィ様の肩に頭を乗せて、ぐったりしていた。
侯爵家の馬車に乗せてくださったアジィ様には申し訳ないですけれど、いまの体調にこの揺れは結構キツイですよ。
木立の中を滑るように進んでいたサファイア様の馬車を思い出して、改めてその異常性を痛感する。
「ごめんなさいね。揺れるでしょう?」
「歩いて帰るよりは、全然マシですよ。
もしかしたら、途中で倒れてしまっていたかもしれませんし。
アジィ様、本当に助かります」
歩いてみたら思った以上にふらついて、学院の保健室から馬車までだって何度かバランスを崩しかけた。
アジィ様に助けられたのは、間違いない。
「お嬢様、そろそろ着きます」
御者台から声が聞こえた後、しばらくして馬車が止まる。
馬車を降りれば、私の家の前だった。
「こちらは、お持ちするわね」
アメジスト様が、ミイツ様から差し入れにと頂いた手提げ箱を持って、私の後ろについてくれる。
私は、いつもの荷物が入った鞄を抱えて、家に入った。
学院で、アメジスト様が手伝うと手を伸ばしてくれたけれど、全然持てなかった。中には宝具が入っているので、なかなか重いのだ。
「散らかっていて、すいません」
少し驚いた様子で家の中を見渡すアメジスト様に、謝る。
こんなことなら、いつももっと片付けを気にしておけばよかった。
なんだか、恥ずかしい。
「いえ。勝手についてきたのに、眺め回してごめんなさい。
見慣れないものが、たくさんあったから」
たしかに、アジィ様はこういった家をあまりご覧になる機会もないだろう。
そのまま2階の自室へと上り、ベッドに横になる前に制服を脱いで寝押しの準備。
ああ、アジィ様がいたんだった。いきなり下着姿になったのは、さすがに失礼だったなぁ。
「ごめんなさい、いつもの癖で」
布団の中から、真っ赤になっていたアジィ様に謝る。
「……いえ。ちょっとびっくりしただけで、大丈夫です。
あ、これ、まだ開けていませんでしたね」
アジィ様は、机の上でミイツ様からいただいた手提げ箱を開ける。
中から、冷えたプリンが2つ出てきた。いま大流行のお菓子だ。
「よければ、アジィ様も1つ召し上がりませんか?」
そう誘えば、最初は遠慮されていたけれど、結局一緒に食べることになった。
私はベッドに体を起こし、アジィ様は机の前にあった椅子をベッド横に運んで。
添えられていたスプーンを使って、プリンを口に運ぶと、冷たい感触が口の中で溶けて、とても美味しかった。
プリンを食べたら、私はまたベッドに横になって、隣りに座ったアジィ様とお喋り。
ずっと居ていただくのも悪くて遠慮したんだけれど、アジィ様に心配で帰れないと言われて、結局言葉に甘えてしまった。
どのくらい話していただろうか。
玄関をノックする音がした。
アジィ様が向かおうとしてくれたけど、さすがにそういうわけにはいかない。
私はチュニックとパンツを着ると、アジィ様に付き添われながら玄関まで出て、扉を開けた。
「こんばんは、レンガさん」
そこには、『猫のパン』の同僚メリアさんが立っていた。
左右で高めに括った髪と、薄い色のワンピースが、もう暗くなっていた家の外に浮かび上がる。
「マリオさんに頼まれて、これを持ってきたわ。
べ、別にあなたが心配で様子を見に来たわけじゃ、ないんだからね!」
そう言いながら、手に持っていた袋を渡してくれる。
中から、いつも馴染んだパンの香りがした。
「ありがとうございます。
この香りを嗅いだら、なんだか食欲が出てきました!」
私がそう言って笑うと、メリアさんも、
「あたりまえよ!」
なんていいながら、どこか嬉しそうに笑う。
「……そちらの方は?」
私の後ろに立つアジィ様を見て、メリアさんが聞く。
「こちらは、学院のクラスメイトのアメジスト様。
アジィ様、こちらは仕事でご一緒してる、メリアさんです」
私がお互いを紹介すると、2人が「こんばんは」と挨拶を交わす。
ブルッ
あれ?なんだか、また寒気が。まだ、調子はイマイチのようだ。
「レンガさん、スープも預かってきたの。温め直したいから、キッチンをお借りできるかしら?」
メリアさんがそう言うのでキッチンに案内したら、メリアさんは目を大きく開いてびっくりしたように棒立ちになった。
「……なにこれ?
魔道具の山だわ」
「この魔石に触れると、上のこの部分が加熱します。
魔石を左右にスライドで、温度調整が出来ますよ」
気付くと、アジィ様も私の後ろからじっと見ていた。
「し、しってるわよ!
待ってなさい、美味しいスープを、出してみせるわ!」
そう言いながら、メリアさんはどことなくおぼつかない手付きでスープを温め始める。
しばらくししたら。
「ほ、ほらみなさい。
こんな魔道具、私の手にかかれば、簡単よ!」
なんだかものすごく自慢げに、温かくなったスープを、私とアジィ様に出してくれた。
「あの。
スープ、3人で分けませんか?」
「な、なんでよ?」
「だって、食事は大勢でしたほうが、楽しいじゃないですか」
私がそう言って笑ったら、メリアさんは「し、仕方ないわね」と言いながらも、テーブルについてくれた。
「私なんかが、一緒に食べていんですか?」
メリアさんが、アジィ様に聞く。
「私は気にしないわ。学院でも、こんなふうに皆さんと同じテーブルで食べることも多いもの。
私、先日レンガ様から『猫のパン』の焼きそばパンをいただいてから、他のパンも食べてみたかったの」
アジィ様はそんなふうに答えて、みんなで美味しい晩御飯となった。
「では、メリアさんは私がお送りするわ」
食事の後、もう少しだけみんなでお喋りをしてから。
何度も辞退するメリアさんだったけれど、アジィ様が馬車でおうちまで送ってくれることになった。
「こんなに遅い時間まで引き止めてしまって、すいません。
アジィ様、よろしくお願いします」
私がそういえば、メリアさんも観念したように、アジィ様に連れられて帰っていった。
シ……ン……
静かになってしまった家の中で。私はものすごく寂しくなったりしたけれど。
「うん。
アジィ様も、メリアさんも、また明日会えますからね!」
体調も、ずいぶん戻ったのを感じる。お2人のおかげだ。
今日は忘れずに学院の課題を終わらせて。
寝る前にざっとだけシャワーを使うと、これもメリアさんが届けてくれた牛乳を飲んで、ベッドに。
「パパ、ママ。お友達が、家に来てくれましたよ」
肖像画の方を見て、笑顔で報告した。
そして、さっきのにぎやかな家での夕食を思い出しながら、横になったのだった。
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