14-3 シリル様の講義
授業が終わるころになっても、私の頭と体は重いままだ。
「くしゅん。
風邪、ひいちゃいましたかね?」
まだ雨の降る中『研究会』へと来ると、シリル様がひとり飲み物を飲んで待っていた。
「いらっしゃい」
「こんにちは、シリル様。
他の皆様は?」
「全員、仕事が多忙で、欠席よ」
なるほど。
ラー様は、以前お仕事で連合国に難題を出されたと仰っていた。もしかしたら、その難題というのは今晩あるというパーティに関係しているのかもしれない。
ミズナ様は騎士なのだし、王家主催のパーティとなれば、警備などでそれは忙しいことだろう。
ミイツ様は、……そういえば、なんのお仕事をされているのだろう?こういうときに忙しいということは、王宮に関わるお仕事っぽいけれど。
そしてユーリ様は、巫女様ならパーティにも呼ばれているに違いない。
「そうでも、ないのよ?」
ところが。
そんな事を考えていると、後ろからユーリ様の声がかかった。
「あら。よく顔を出せたわね」
「午前中に、面倒事は終わらせたもん」
「パーティは、良いの?」
「良いの、良いの。
朝から言い訳しておいたし。陛下も神官長もいるから、私くらいいなくても平気なのよー」
「そう。よかったわね」
「しっかり休んで、パーティの後に備えるのよー」
あれぇ?
そんなんで、いいんでしょうか?
頭が重いせいか、続く妙なノリのお2人の会話に、いまいちついていけない。
「貴女も休んだほうが良いわね、レンガ」
突然、シリル様が私に向かってそう言った。
「え?
でも、魔力制御の訓練が……」
「その様子では、今日いくら訓練をしても、いいことはなさそうだわ。
調子が悪いときの魔力を把握することも大事だけれど、それをするにもある程度基礎ができていないと、かえって混乱するだけね」
そう言われてしまうと、体調がいまいちなのはわかっているだけに、返す言葉もない。
「わかりました。
でも、調子が悪くて、あの鳥が暴走したりとかは、ないでしょうか?
もしその可能性があるなら、なにか封印とか……」
そこで、私がそう聞くと、
「その必要は、ないよ」
なぜか、ユーリ様が断言された。
「レンガちゃん、今もちゃんと制御できてるもの。
ヘンにちょっかい出したくないし、道具に慣れて制御できるのが遅れるのも、良くない」
「へぇ。
ユーリの託宣が出たわね。
レンガ、貴女が封印の道具を使うことは、ないわ」
託宣って、何でしょう?
でも、深く考えるには、私の頭の動きは鈍くて。
ユーリ様とシリル様がそう仰るから。私は、封印のことは考えないことにした。
「レンガちゃんには、今日は薬茶だね」
そんな話をしていると。
ユーリ様はティーセットを用意して、いつものようにお茶を淹れてくれた。
生姜の香り漂うお茶を飲むと、身体が中からポカポカとしてくる。
「まあ、お茶とかで魔力の流れなんかを整えるのは、セーフかな」
ユーリ様は悪戯っぽくそんな事を言いながら、自分とシリル様にも同じお茶を淹れる。
「ユーリ様、ありがとうございます」
身体は、温まって少し楽になった気がする。
それに、お茶で魔力の調整もできるのか。
そう思いながら、私がお礼をいうと、
「レンガ、ユーリのいうことを素直に受け取っているようでは、ダメよ」
シリル様に叱られた。
どういうこっちゃ。
「確かに、お茶に限らず、液体を摂取することで魔力に影響を与えることはできるわ。
ユーリは、それをレンガに行うことを否定はしないようね。『場合によっては積極的に進める』という含意までもしかしたらあるのかしら。
そういえば、対象を『魔力の流れ』に限定していないし、『整える』というのが『誰のために』か明言してないようだけれど。
それはさておき、今飲んだお茶には少なくとも魔力をどうこうする効能は、ほぼないわ。
薬効がないわけではないから、全く無意味なわけでもないけれど。
それをふまえて、『いまは強力な調整をする気はない』とか、『日頃から今回程度の操作は行う場合がある』という含みを持たせたうえで、『魔力調整は今回程度の範囲に限り問題ない』と許容度の認識を誤誘導する印象操作も意図したでしょう?
あとは、実際にこの程度なら問題は発生しない、ということの確認かしらね」
「そんなこと、ないよぅ」
「そうでしょうね。
今あなたのいったことはそのすべてであって、あなたが本当に考えているのはそのどれでもないのでしょう」
シリル様が滔々かつ淡々と紡ぐ言葉が、連なってまるで子守唄のようだ。
……私の、いまの動かない頭じゃ、ぜんぜん理解できませんよぅ。
言葉は右から左へと流れてしまい、せっかくのシリル様の解説もあまり頭に残らない。
でも、ユーリ様とシリル様はずいぶん気のおけない話し方をされているけれど、どういうご関係なのだろう?
そういえば、私は『研究会』のみなさんのこと、あまり知らないなぁ。
みなさんは、お互いのことをどれだけご存知なのだろう?
そして、みなさんは、私のことをどれだけご存知なのだろう?
私はそんな事を考えながら、雨音にのって聞こえるユーリ様とシリル様の声に、ただボーっと耳を傾けていた。
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