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14-1 お風呂で目が覚めました

 うーん……

 ムニャ、ムニャ……

 ガバ、ゴボ、ガバ、ゴボ!


 はっ!

 口の中にお湯が入ってきて、私は慌てて身体を起こす。


 うわぁ、お風呂の中で、寝ちゃってましたよ。

 湯船で1人おぼれて溺死とか、パパやママに会わせる顔がないにも、ほどがあります。

 浴槽に手をついて身体を持ち上げるが、頭も手足も、ものすごく重い。

 昨日の疲労が、全然抜けていないようだ。


 なんとか体を拭くと、髪の毛にはタオルを巻いたままで、部屋に上がってベッドに倒れ込む。

 もうすこし。

 もう少しだけ、横になっていよう。

 考えもまとまらないまま、気付いたら部屋の中が少し明るくなっている。


「クシュン!」

 くしゃみが出て、身体が冷えているのに気付く。

 いま、何時くらいなんでしょうね?

 窓の外を覗くと、空は重い雲で覆われていた。


 ああ、朝日が射してこないのは、そのせいでしたか。

 ……本当に、いま何時くらいなんでしょうか?

 時計を見ると、いつもならもう家を出ている時間だ。

 これは、いけない。

 あわてて服を着て、急いで髪を整え、パンを口に、「ひっへひまふ!」と家を出る。


「おはようございます!」

『猫のパン』についた時間は、遅れ気味で。

「……おはよう、レンガちゃん」

 マリオさんの様子が、いつもと違う気がしたけれど。

 確認する時間もなく、私は帽子とエプロンを身に着けて、配達に駆け出した。


 遅れを取り戻しつつ配達を続けていると。

「こらー!下りてらっしゃい!」

 小路地の向こう。屋根の上を見上げて、女の子が両手を振りながら大声を上げている。5歳くらいだろうか。

 猫車を押して私が近づく頃には、女の子は泣き出していた。

 急いでいるけれど、放っておくわけにもいかない。

 私は車を止めて、声をかける。

「どうしたんですか?」

 すると、女の子はこちらを見て不思議そうな表情を浮かべたけれど、私の猫車やエプロンや帽子に描かれている猫のマークを見て、安心したように教えてくれた。

「あのね。

 うちの『リン』が、

 あ、『リン』っていうのは、家で飼っている猫なんだけど、

『リン』が屋根の上に登って、下りてきてくれないの」

 なるほど。

 猫さんも屋根に登りたい気分の時はあるでしょうけれど、女の子を泣かせるのはいけません。

 上を見上げると、屋根の端でベージュ色の猫が呑気に顔を洗っていた。

「わかりました。少し待ってくださいね」

 身体はずいぶん重かったけれど、私はフワリと屋根まで跳び上がり、両手で猫を捕まえる。

 そして体を屈め、おとなしく猫が収まってくれた両腕でエプロンとスカートを押さえながら、着地した。

 遅れて、1度宙に浮かんだ帽子が再び頭の上に。

「はい、どうぞ」

 女の子に猫を手渡す。猫はもう屋根の上に未練はないのか、素直に女の子に抱かれる。

「わあ!

 おねえちゃん、すごい!すごい!」

 泣いていた女の子は笑い顔になって、私を褒めてくれる。

 その笑顔を見たら、重かった頭と身体も、いくらか軽くなったような気がした。

「これからも、リンちゃんと仲良くしてくださいね」

 私は笑顔でそう言うと片手を振り、もう片方の手で猫車を押して配達の続きへと向かった。


 そんなちょっとした出来事はいくつかあったものの。

 なんとかいつも通りの時間に配達を終えて『猫のパン』に帰ってくると。

「おかえり、レンガちゃん。

 ……なあ、ちょっといいか?」

 まだいつもとは様子が違ったままのマリオさんが、私に声をかけてきた。

「?

 はい」

 なんだろう?

 ゆっくりと不安を感じつつ、私は足を止めてマリオさんの方を向く。


「ん?

 レンガちゃん、顔色悪いんじゃないか?

 すこし休むか?」

 最初にマリオさんが切り出したのは、私の調子のことだった。

 でも、そんな話をするのに、こんな変な雰囲気になるのはおかしい。

 きっと、なにか話そうとしたのに、私の調子が悪いのに気づいて、先に気遣ってくれたんですね。

 その温かさに、わたしの胸も温かくなる。

 でも。

「大丈夫です。

 それより、なんのお話でしょうか?」

 私が先を促すと、マリオさんは、ずいぶん真剣な表情で言った。


「なあ、レンガちゃん。

 昨日の夜は、連合国からの話を、勝手に断って悪いことをした。

 ……ずっと考えていたんだが、もし、レンガちゃんが連合国にいきたいんなら、オレもできる限りの応援をするよ」

 マリオさん、私のことで一晩悩んでくれたんですね。

 私は親身になって考えてくれたことが嬉しくて、涙が出そうになった。

 でも。

「マリオさん、大丈夫です。

 私、連合国に行くつもりは、全然ありません。

 みんなと一緒に居たいので!」

 そういって、とびきりの笑顔を浮かべる。

「……そうか。

 それじゃ、これからもしっかり働いてもらうからな!」

 マリオさんも、少しの沈黙の後、笑顔になってそう答えてくれた。

「マリオさん!タネの準備ができました。

 そろそろ、窯に入れたいんですけど、来てもらえますか?」

 見計らったようなタイミングで、奥からリンクさんの声が聞こえたので。

「おう!すぐいく!」

 マリオさんは、いつもの雰囲気に戻って、パン焼き窯の前へと歩いていった。

 それで私も、着替えのために帽子とエプロンを戻しに行くのだった。


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