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13-2 アジィ様と昼食を

『猫のパン』の仕事も無事終わって、学院に。

 教室に入ると、クラスメイトの視線が私に集まった気がした。

 どうしたんでしょう?

「おはよう、レンガ様」

「おはようございます、アメジスト様」

 朝、『猫のパン』でも感じたけれど、当たり前だった会話がどこか懐かしい気がして、思わずホッとしてしまう。

「レンガ様、急のお休みだったけど、大丈夫?

 なにか困ったことはないかしら?」

 ……あー、ヤキトリのこととか、困ったことはありますけれど、アメジスト様には相談できないですよねぇ。

「大丈夫です。ご心配をかけて、申し訳ありませんでした」

「そう。私では頼りないかもしれないけれど、気軽に話してくれると嬉しいわ」

 頼りないわけじゃないんですよぅ。ただ、向き不向きの問題と言うか……

 なんとも答えにくくて、笑ってその場をごまかした。

 でも、別れて自分の席に向かうときに、アメジスト様の目がすごく悲しそうだったように思えて、朝のうちはそれが頭から離れなかった。


 午前中の授業が終わる。

 今日はエメラルド様はお休みのようだ。

 お体の調子が悪いのかな?今度、お見舞いに行ってみよう。

 そんな事を考えながら、お昼を食堂で食べることにする。


 食堂は、今日も混雑していて、賑やかな喧騒に包まれていた。

 私は朝食を食べれなかったぶんを取り返そうと、チキン南蛮と親子丼を頼んで席に座る。

「前、よろしいかしら?」

 顔を上げると、アメジスト様が立っていた。

 どうしたんだろう?他に空いている席もあるから、多分私に用があるのだろうけれど。

 2人掛けの机に、向かい合って座る。

 アメジスト様も私も、なかなか食が進まないでいると。

「ねぇ。私って、信用できない?」

 突然アメジスト様が言い出した。とんでもない話だ。

「そんなこと、ないですよ!」

「でも私、レンガ様に避けられているとまでは思わないけれど、していることが空回りばかりしている気がするわ」

「そんなこと……」

「さっきも、なにか言わずにいたでしょう?言えないことかもしれないけれど、私は寂しかった」

「……」

 返す言葉がない。

「私って、頼りない?

 こう言っては偉そうに聞こえるかもしれないけれど、私結構色々なことをできると思っていたわ」

 間違いない。アメジスト様は、文武両道品行方正才色兼備、家柄も申し分のないスーパーお嬢様だ。

「レンガ様は優しく相手をしてくれるけれど、心をひらいてもらえてないと感じています。

 ……ねぇ、どこが悪いのかしら?できるだけ改めるように努力するわ」

 そういうわけではないのだ、と思うのだけれど。

 アメジスト様の心遣いには日頃から感謝しているだけに、こんなふうに思われてしまったのだと知れば、胸が痛かった。

 私は、真正面から気持ちを話してくれたアメジスト様になんとか応えたいと、できるだけ思ったままを伝えることにする。

「えーと、まずはすいません。そんなふうに伝わってしまったのなら、申し訳なくて」

 俯きがちになってしまった顔を上げ、真っ直ぐアメジスト様の目を見る。

「別に、アメジスト様を信用してないとかじゃ、ないと思うんです。

 ただ、アメジスト様はクラスの責任者としてアドバイスくださることが多いから、どうしても私も事務的になりがちというか。

 でも、私もあまり相談できる人とかいないので、アメジスト様が気にかけてくださるの、すごく嬉しかったです」

 アメジスト様は、じっと聞いてくれている。

「今朝口篭もったのも、あの、ちょっと魔術的な面倒事があるというか、結構大事なので巻き込んでご負担になっては悪いというか……」

「レンガ様、それが心を開いていただけていないということだと思います」

 一刀両断された。

「……すみません。

 あの、お話してもいいですけれど、それなりの覚悟をしていただかないといけないかも知れません。

 いいんですか?」

「問題ありません」

 アメジスト様は、迷うこともなく仰った。

「……はい。

 それでは、場所を変えませんか?」


 アメジスト様を誘って、席を移す。

 この前気付いた、食堂内にある内緒話のできる『特別な席』だ。


「では。

 端的にいうと、私は化け鳥に取り憑かれてしまったようなんです」

 そこでいったん話を切る。アメジスト様は、目で先を促した。

「父と母の仇の悪魔がいます。それを追っていたら、化け鳥と戦うことになって、どうやらそんなことに。

 まだ、具体的に何がどうなったとか、どんな問題があるのかもわかりません。

 もしかしたら、アメジスト様や、みんなに迷惑をかけてしまうかも……」

 話していて、あらためて自分の今の状態の危険性に気付き、背筋に寒気が走る。

「……なるほど」

 ため息をついて、アメジスト様は仰った。

 私、どうなっちゃうんだろう?

 そして、アメジスト様に危険だと恐れられるのが、……怖い。

「たしかに、私の手に余るお話のようです。無理に聞き出すようなことになってしまって、申し訳ないわ」

 アメジスト様は目を伏せながらそう言ったが、それから視線を上げ、私の顔を覗き込みながら手を握って、

「でも、話してくれてありがとう。

 私ではなんの力にもなれないかも知れないけれど、良かったら一緒に悩ませて。

 レンガ様がどんなに不安になったとしても、大丈夫。私が隣りにいます」

 ……!

 絶句する。

 私、化け物の鳥に取り憑かれてるかも知れないんですよ?

 そんな私と、一緒にいてくれる、そう言ってもらえるなんて……!

 目から、熱いものが溢れるのがわかった。

 アメジスト様は優しく微笑みながら手を解くと、ハンカチで涙を拭ってくれた。


「泣かないで、レンガ様。

 そう、もし魔術師が必要なら、私の伝手で優秀な方を紹介できると思います」

「ありがとうございます、アメジスト様」

 アメジスト様のいつも行き届いた気遣いに、私は涙を拭いながらそういったのだが、

「レンガ様、よかったら私のことは『アジィ』と呼んでください。

 親しい方には、そうお願いしているの」

 さらにそう言われて、また涙がこぼれてしまった。

「ほら、もう涙は収めてください。

 それに、皆の憧れのレンガ様が私の前で泣いていたとなれば、私明日から無事でいられる自信がないわ」

 アメジスト様の冗談に私が思わず笑ったら、アメジスト様はそれは真剣に頷いてくれた。



「さあ、食事を済ませて、教室に戻りましょうか。

 レンガ様がご不在で、みなさん心配していたの。

 これ以上心配をかけるわけには、いかないわ」

 その後、私もアメジスト様、いやアジィ様も、どこかつかえの取れたように食事を楽しんで、午後の授業に戻ったのだった。


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