13-1 グレコくんと、お友達
「う……ん……」
目覚めたら、いつものベッドの上。
「……たしか、頭の中にヤキトリが出てきて、私、倒れたんですよね」
左右を見ると、もうリャナの姿はない。
還ってしまったのだろう。
もう一度ヤキトリを呼んでみようかと思ったけれど、今日は学院がある。
まんがいち、また倒れたあと起き上がれなかったら大変だ。
とりあえず起き出して窓の外を見れば、まだ日は昇ってない様子。
「それなら、まずは身体を流しますか」
そういえば、最後に身体を洗ったのはヤキトリと会う前にサファイア様と野営したときじゃないですか。
……昨日の家庭教師している間、私、ニオったりしなかったですかね?
嫌な想像を、フルーツ水を飲んで忘れることにする。
服を脱ぐ。そういえば、この服も借りっぱなしだ、今度返しにいかなくちゃ。
まずはシャワー、そしてお風呂には入浴剤を入れて。
どんどん気持ちが軽くなっていく。まるで、心まで洗われているみたい。
のんびりと朝日が登る頃まで浸かったら、もう一度お水。昨日「猫のパン」に行ったとき、牛乳も買っておけばよかったと後悔する。
そして、髪と肌を整えていたときに、気付いた。
「……しまった。お風呂の後の牛乳どころか、今日の朝ごはん、なにもないですよ?」
配達の始まる前に『猫のパン』で買って、食べてしまおう。
いつもの荷物を手に取ると、
「いってきます!」
早めに家を出ることにした。
しばらく歩くと、行く先の方から声がする。
角を曲がって大通りに出たら、3人の男子がなにやら盛り上がっていた。
「だから、今度こそ間違いないって。
あの時は急いでたみたいだったから、本当はもっと早い時間に通ってるんだよ、絶対」
「それに1週間すぎて気付くって、酷くね?おまえ、やっぱり馬鹿だろ」
「グレコは、お話と現実をごっちゃにしてるんですよ。そんな都合のいい話、絶対に作り話に決まってます。そろそろ諦めたらどうですか?」
なんだろうと少し視線を向けながら、隣を通り過ぎる。
その時、グレコと呼ばれた男子と目があった。
彼は、だんだん驚いた顔になっていき、
「いた!」
私を指差して叫んだ。
失礼な。あまり褒められた行為ではないですよ?
とはいえ、どうも私を探していたようだ。
「なにか御用ですか?」
私は、足を止めて聞いてみる。
「あ、あの。あの!」
私を指差した、多分グレコというのだろう男子は、そんな事を言いながら手をバタバタと動かしてばかりだ。
「……おいおい、学院の制服、だって?」
お友達でしょうか、そんなことをつぶやいています。
学院生ですから、そりゃ着ますよ。丈夫で、肌触りもいいですし。
「ほんとうに、あの『戦乙女』の姫様に似てる……あれ?胸があるから、お姉さんの方?」
もうひとりのお友達でしょうか。
それはたぶん私のあだ名『殲滅の戦乙女』の元になった人ですね。戯曲に出てくる。お姉さんがいたんですか。私にも姉妹とか、いたらよかったのに。
「お嬢さん、先日これを落としませんでしたか?」
落ち着いたのか、グレコくんは持っていたカバンからハンカチを取り出して、私に差し出す。
ちょっとカッコをつけている感じだけれど、最初からそうだったらもう少し印象が違ったんだろうか。
「たしかに、私の物のようです。
拾っていただいたんですか?ありがとうございます」
でも、たしかに私のハンカチだったので、お礼を言って受け取った。
「よければ、ちょっとお話できませんか?」
まあ、今日は早めに家を出てきたし、少しは時間もある。
「なんでしょう?
この後仕事がありますので、少しだけでしたら」
あちらで友達ズがなにやらコソコソ。「学校じゃないの?」
それは仕事の次です。
「お仕事してるんですね。どんなお仕事なんですか?」
「パンの配達です」
「パンの配達って、『猫のパン』?あそこ、美味しいよね!」
あちらで友達ズが続けてコソコソ。「もしかして、朝会えると1日ラッキーっていう看板娘さん?」
朝は店に出てませんから、違うと思います。
「ご利用いただいたことがあるんですか?」
「うん。フレンチトーストにクリームコロネ、とても美味しかったな。
……よかったら、今度一緒にパン食べない?」
?
たしかに『猫のパン』は美味しいですけれど、どうして一緒に食べる話に?
仲の良さそうなお友達もいるようですし、別に私を誘うこともないと思うんですけれど。
「すいません、そういうのは、ちょっと……」
お店のお客様のようなので少し控えめにだが、誘いを断った。
「そ、そうですか……」
目に見えて落ち込む、グレコくん。
「でも、よかったらまた『猫のパン』に来てください。
その時、ハンカチを拾ってくださったお礼に、気持ちくらいですけどパンをサービスさせてもらいますよ」
私はそう言って、営業用のスマイルを浮かべた。
「お、お誘い、喜んで!
ぜひ、今度いかせてもらいます!」
元気を取り戻したグレコくん。
「それじゃ、わたしもうお店に行かなくてはいけませんから!」
私がそう言って歩き出すと、グレコくんとお友達2人は、手を振って見送ってくれた。
結局、『猫のパン』についたのは、いつもと変わらない時間で。
仕事は無事終わったものの、朝御飯を食べる時間は、もうなく。
私はだいぶお腹を空かせることとなった。
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