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12-4 『ヤキトリ』

「ただいまです!」

 元気に帰宅。

 ほんとに、元気に帰宅できたことに感謝する。

 まずはママの部屋にいって魔石を起動し、リャナを呼ぶ。

「お呼びですか? 人使いの荒いお嬢様?」

 笑いながら元通りのリャナが現れたので、思わず抱きついてしまう。

 リャナにすこし頭を撫でてもらったあと、調子を聞く。

「問題なさそうよ。よかった、よかった」

 などと、リャナは他人事のように答えたけれど、やっぱり結構危ないことをしていた様子だ。

「あら? お嬢様、どこかでディナーでも召し上がられましたか?」

「お隣で晩御飯をいただいてきました」

 ヘルシーでたっぷりな料理を思い出す。

「とても美味しかったですけど、あとは、お肉かお魚があれば、最高だったんですけれど」

 ごちそうになっておいてこんなことを考えるのは失礼千万なところだが、なぜかやたらそんな気分になっていた。

「このあいだの鳥の肉を持って帰ってきてたら、今ごろ食べきれない量の鳥肉ステーキがあったのに」

 リャナが笑って、そんな冗談で返す。

「そうですね。でも、どちらかというと”あの鳥は『ヤキトリ』”……」

 あの巨鳥の炎に包まれた姿と、たぶん齧った味を思い浮かべたら、なんとなくそう思った。


 次の瞬間、

 ガクン、と。

 私は体の力が抜けて、膝から崩れ落ちる。


 失いそうになった意識を必死で保つと、

 目の前に驚き顔になったまま動きの止まったリャナと、

「!? ふえっ!」

 私の後ろ、目に映らないはずのところに、朱い服を着て髪の毛を一本にくくった、黒髪の少女の姿があった。

 少女は私の方を見ると、いきなり叫ぶ。

「も、もう、食べないでくださいぃ!」

 そんなことを言われても、訳がわかりませんよ。

 私を心配そうに見つめているリャナには申し訳ないけれど、体がピクリとも動かない。


 というか、私もリャナも、止まってますよね?


 仕方がないので、後ろの少女に集中することにする。

「いきなり『食べないでください』とは、人聞きが悪いですね。

 むしろ、あなたが勝手に私の頭の中に入ってきたんじゃないですか?

 そもそも、あなた、誰です?」

 口も動かないようなので意識だけで逆に問うと、なんと更に言葉が返ってきた。

「だって、実際噛みついてきたじゃないですか!

 私がちょっと水浴びついでにご飯食べてたら、いきなり襲ってきて!」

 ……は?

「ちょっと待ってください。

 あなた、もしかしてあのでっかい鳥さんですか?」

「鳥の姿なら、まあ、大きめでしょうか」

 ちょっとまって。まだよくわからない。

「なんで、私の頭の中にいるんです?」

「貴女に、食べられたから、だとおもいます!」

 ?

 言葉はわかるのに、意味がわかりません。

「私があなたを食べたから、あなたが私の頭の中にいるんですか?」

「はい、そう……だとおもいます」

 脳が、理解を拒む。

 とりあえず、他のことを聞いてみましょう。 

「あなた、名前はあるんですか?」

「いまつけられました。あなたに。

『ヤキトリ』って……あんまりですぅ」

 女の子は、しくしくと泣き出してしまった。

 うん、これは確かに非道いことをしてしまったみたいです。反省です。

「ごめんなさい、それはあやまりますよ。

 でも、もうどうしようもないですよね?」

 それを聞いて、少女はさめざめと激しく泣きだした。

 申し訳なさは募るが、どうしろというのか。

「人間、諦めが大事と言います。

 きっと、鳥も同じですよ。強く生きましょう!」

「……もう、食べられてますよぅ」

 私は精一杯励ますのだが、『ヤキトリ』は泣いてばかりだ。困ってしまう。

 私も泣きたくなってきた。

 それでも私が必死に慰め続けると、最後にはヤキトリも納得したようで。

「もういいです。貴女が残念なのはよくわかりました。私も女です、覚悟を決めます。

 不束者でございますが、どうぞよろしくお願いします。

 ご主人さま」

 涙を拭うと、ヤキトリは、平伏しながらそう言った。

「わかってくれたのなら、いいですよ。

 これからよろしくおねがいします。

 ……ん?今私のことを、『ご主人さま』っていいました?

 それに、残念って、なんですか?」

「はい。正しく理解できたと自負しています。

 どうやらこの身は、貴女に捕食されたことで、隷属関係になったようですから。

 なぜそうなったのか、貴女がどういった方なのかは、とても気になるところですが。

 ともあれ、なにか御用がありましたら、またお呼びください」

 ヤキトリは平伏したままそう続けると、まるで炎が燃え上がるイメージで、私の意識の中から姿を消した。


 そして、再び時は動き出す。

「どうしたの!?レンガちゃん!」

 倒れた私を抱き起こしながら、リャナが声をかけてくれる。

「あ、大丈夫です……

 なんか、女の子が出てきて、消えました……

 泣かれて、慰めたら、バカにされて……」

「良くわからないわよ?

 全然、大丈夫そうじゃないし!」

 私の体をあちこち触って、

「なんで?

 魔力不足の症状に似てるわ。

 とりあえず……飲める?」

 マナポーションを持ってきて、口元に運んでくれた。

「ん……」

 マナポーションを飲むとすこし楽になったが、ぐったりした身体は、まだ動かない。

「ありがとう、リャナ。

 だいぶ楽になりました」

「そんな様子で言われてもね……

 でも、確かにすこしは顔色も良くなったかしら」

 リャナは私を抱き上げると、ベッドまで運んでくれた。

「ひとまず、すこし寝なさい。レンガちゃん」

「リャナ、手を握ってくれますか?」

「しかたないわね。これで良い?

 甘えん坊の、レンガちゃん」

「はい。

 ……おやすみなさい」

「おやすみ、レンガちゃん」

 リャナの手の暖かさを感じながら、意識が落ちていく。


 パパ、ママ、いったい何がどうしたんでしょう?

 でも、何が起きていても、私頑張って見せますよ……

 みててください……パパ……ママ……

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