11-2 みんなで馬車に戻りましょう
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
「くしゅん」
サファイア様の寝顔を見つめて、どれほど時間が経っただろう。
リャナは周りの様子を確認してくると言って、どこかに行ってしまったけれど。
私は、サファイア様の側を離れることが出来なくて。
でも体を動かさずにじっとしていたら、寒くなって思わずくしゃみが出た。
「風邪を、ひかないようにね?」
足元から声がかかる。
良かった。安心して足から力が抜けるのがわかる。
私は、そのまま崩れるようにサファイア様の隣に座り込むと、
「おはようございます、サファイア様」
ただ、そう挨拶することしかできなかった。
「おはよう、レンガ。
またこうして貴女の笑顔が見れて嬉しいわ」
サファイア様は優しい笑顔を浮かべて挨拶を返してくれた後、身体を起こして全身を見回す。
「思ったより、大丈夫だったわね。
後ろはどうかしら。
レンガ、みてもらえない?
『人ではない』ところは、どれほどかしら?」
あのときサファイア様は、人であることを捨てる覚悟をしていたのだろう。
最初にそういったことが気になるのは、よくわかる気がした。
私は立ち上がったサファイア様の身体をくまなく確認する。
「両腕と両足の中央部分、腰のあたり、それからお腹と胸の真ん中に鱗がそこそこ固まってあるくらいでしょうか。
あとは、おかしなところは、なさそうです」
「そう。良かったわ。
それくらいなら、なんとか隠すこともできるでしょう」
そんな事を言ってから、少しの沈黙があって、
「龍の角や尻尾でも生えていたら、どうしようかと思ったわ」
サファイア様は瞳を悪戯っぽく揺らせながら、続けてそう仰ったのだった。
「それじゃ、馬車に戻りましょうか」
サファイア様の言葉に、衝撃を受ける。
馬車!そういえば、それがあった!
「無事だと良いけれど。ゴーレムも、確認しないとね?」
「あちらだと思います」
景色は変わってしまったけれど、太陽の位置で大体の方向はわかる。
「では、いきましょう」
「私が先導します、お嬢様」
私とサファイア様が立ち上がると、後ろから澄ましたリャナの声がかかったのだった。
草や木で肌を傷つけないよう慎重に歩いていくと、前の方に魔力を感じる。
きっと『魔力の塊』のような、サファイア様の馬車だろう。
近づくと、張られた幕は風で吹き飛んでしまい、ゴーレムも近くに繋いでいた馬の姿もなかったが、馬車の車体は無事残っていた。
「よかったわ」
サファイア様はそういいながら馬車に入ると、マジックボックスを開けて、服を取り出す。
「レンガは、私の服は着られそうにないわね。
せめて、これでなんとかなるかしら?」
馬車から顔をのぞかせたサファイア様が持っていたのは、雨具などで使うマント。
「あとは、包帯や……布地もないわけではないけれど、大きさが足りないわね。使ってみる?」
量からして、下着の代わりになればいいかと言った程度だ。
私は、下着の代わりに包帯や布切れを巻いた姿を想像して、……考えるのを放棄した。
「もう、マントだけでいいですよ」
溜息をつくと、裸身の上からマントだけを羽織って隠す。こんなの、誰かに見られたら、死ねる。
乗馬服に着替えて馬車から出てこられたサファイア様は、そんな私の姿を見て、同情のような後ろめたさのような、なんとも変な目をされたのであった。
「なにか食べれば、良い知恵も湧くわ」
そう仰ったサファイア様は、またマジックボックスから、飲み物と一緒に食料の入った魔法の箱を取り出す。
「「カンッ」」
2人で仲良く指で弾くと、中から温かいパスタが現れた。
温かいパスタを口に入れると、私はようやく生きて帰ってきたんだと実感することが出来た。
「結局、あの大きな鳥はどうなったんでしょう?」
「誰も、最後を確認できてないんだよね」
「そういえば、さっきの場所は思ったより魔力が少なかったわ。
あの大きな鳥は、龍に負けない神獣クラスだと思うし、私の使った龍の咆哮の残存魔力を考えると、もし一部でもあのあたりにあるのなら、鎮めたり制御をしないといけないくらいの魔力が溜まるんじゃないかしら」
音も立てず上品にパスタを食べながら、サファイア様が仰った。
「巨鳥は生きていて、逃げたのでしょうか?」
「それしかないと思うよ、レンガちゃん。
でも、私が飛ばされた先からあの場所に戻るまで、あんな大きなものが移動した様子はなかったんだよね」
「私達の攻撃は意外と効いていて、回復のためになにかの休眠状態になっているとかは、ないですかね?」
「それは、あるかもしれないわね。
それらしい魔力はなかったように思うけれど、休眠状態だから気付かなかったのかも。
馬車の無事も確認できたし、食事が終わったら、もう一度あの場所に戻りましょうか」
やっぱり、お腹になにか入れば頭の方も動き出すのだろうか?
私達はそんな事を話したあと、もういちど戦いのあった場所に戻る準備を始めたのだった。
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