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10-4 最後の意地

2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。

2021年10月02日-字句などを修正。内容に変更はありません。


 思った以上に恐ろしい力を持っていた巨鳥にも、十分な手応えの一撃を与えることが出来た。

 あとは、サファイア様に後を託して……


 私は、そんなことを考えたのだったけれど。

 巨鳥の傷から流れ出る血が炎に変わり。

 そして生まれた炎がそのこぼれだす傷を癒しはじめたのを見て。

 私の精一杯が、巨鳥に遠く及んでいなかったことを知る。


 ……ああ、エスコート失敗しちゃったな。

 リャナ、サファイア様、みんな、……ごめんなさい。

 私の意識が真っ暗になっていく。


 けれど。

 そこに、こんどはサファイア様の静かな声が通った。


「見事です、レンガ、リャナ。

 お2人に敬意を表し、私もこの存在を賭けましょう」

 全身を鱗におおわれたサファイア様が、瞑目しながら私たちに語りかけている。


 その声に励まされて、もう一度明るさを取り戻した私の目の向こうで。

 サファイア様の上に生まれつつあったのは、不定形の水球。


 声に反応したのか、巨鳥はサファイア様に向けて羽の雨を降らせる。

 その羽は、サファイア様の龍鱗となった肌を、さらに上から包むように突き刺さっていった。

 羽が、落ちない。ということは、その先端は表面の鱗を貫通して、サファイア様の身体まで届いているのかもしれない。

 それでも、サファイア様は痛そうな素振りをすることもなく。

「私の全力を、見せましょう。

 ついでに、あなたに食べられた、同族の仇も、討ちましょうか。

 そうしたら、レンガとリャナとの3人で聖都に凱旋するのです」

 そう歌うように唇を開いて。

 すっと、サファイア様の眼が開く。

 同時に頭上の水球は蒼い龍の顔に変わり。

 そして開かれた口から放たれる閃光。


龍の咆哮(ドラゴンブレス)』っ!

 世界最強と言われるその輝きが、巨鳥の体を焼いた。


 さすがに、これで倒せないなら、もうなす術は無いですね。

 ブレスの眩しさが去って、だんだん眼が元の明るさに慣れていく。

 そこには……


「借り物の力では、及びませんでしたか。

 あれだけ偉そうに啖呵を切っておいて、私も情けない限りですね」

 サファイア様は静かにそういうと、力尽きるように膝からドサリと崩れ落ちた。

 私の目の前には、全身から再生の炎を吹き上げつつも、それでもいまだに大した痛みを感じた様子もなく迫る、巨鳥の姿。

 あ、どうやら一番近くにいる私を、先に食べるつもりみたいですね。さっきの水竜みたいに。

 頭にはそんな考えがよぎるものの、身体は全く動けないままの私に、巨鳥の顔が迫り。

 私は、衝撃と共に、咥えられて宙に浮く。

 身体のあちこちからポキリポキリと音がするけれど、もう痛くはない。


 ざんねんだなぁ。

 パパ、ママ、ごめんなさい……


 もう諦めようと思ったその時だった。

 私の眼が、なんの感情も感じない巨鳥の眼と、合った。

 その眼を見て、なんだか。なんだか、無性に腹がたって、

「あなたが私を食べるのなら、私もあなたを食べてやりますよ!

 やっぱり、おとなしく食べられるのは、止めです!」

 溢れた衝動に突き動かされるまま。

 私は、もう最期だと身体にめちゃくちゃな力をいれて暴れ、まだ今でもせめて私にできること、ちょうど私の口元に近づいた巨鳥の喉に、残る力の全てを注いで、噛みついた。


 口の中には、妙に充実した味を感じる。けれど。

 自分の身体は、今どうなっているのか、ぜんぜんわからない。

 もう目の前は、真っ暗だ。

 ただ少しだけ聞こえていた私の耳に、かすかに届いたのは。

「クェエ、エ? ……クエェェェェ!」

 それまでとは違う、巨鳥の驚いたような鳴き声。


 うん、溜飲は、少し下がったかな。

「ざまあ、みろ、です。

 こうなったら、意地でも離してやりませんよ?」


 そのまま、口を動かす。

 ムシャ、ムシャ

『猫のパン』のテリヤキチキンのほうが美味しいですね。

 でも、食べている満足感は、ありますか。


 残る片腕で、巨鳥をおさえつけ、

 歯で、肉を噛みちぎる。

 ブチン。メリ、メリ……

 筋が、もっと柔らかいとなお良いですね。


 啜り、齧り、貪る。

 どこまでも。口に入る限り。

 あの大きさだ、ボリュームに不満はない。


 私はそのまま無意識に食べ進めながら、こんどこそ意識を失っていった。

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