10-1 馬車の中で起きました
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
ざわざわ、ざわざわ
木々のざわめく音で、ゆっくりと思考が起きてくる。
なんだか、雲の上に浮かんでいる気分です……
「うぅん……」
小さく声を上げて身体を伸ば……そうとしたら、急に襲ってくる浮遊感。
「!?」
一気に頭は覚醒し、急いで上体を起こそうとしたところで、
ドスン!
お尻からなにかに激突した。思わず、涙目になる。
周りを見渡すと、そこは豪華な馬車の中。
「ああ、そうか。サファイア様に会って、馬車をお借りして寝たんでした」
思い出して、身体を動かす。
うん、おかしいところはない。
頭をかくと、そっと馬車の外を覗く。
張られた幕の隙間から日の光が入って明るくなったそこには、まだ人の動く気配はない。
サファイア様は、まだ寝ているようだ。
私は、そっと起こさいないように歩くと、幕の外へと出る。
「おはよう、レンガちゃん。早いね!」
外に顔を出すと、不寝番をしてくれていたリャナが、私に気付いて声をかけてくる。
「おはよう、リャナ。異常はない?」
「今のところは、特にね」
「泉の様子、見に行きますか?」
「お姫様に怒られるわよ?」
「それも、そうですね。
それにしても、今日はいい天気になってよかったです」
「絶好の、悪魔退治日和ね!」
「ふふ、腕がなります。
でも、サファイア様は違うんじゃないかって言ってらっしゃいましたけどね」
「あら? それにしてはレンガちゃん、なかなかいい顔してるわよ?」
「それをいうなら。
リャナだって、なかなかイイ顔、してますよ」
他愛もない会話を続けると、なんとなく浮ついていた気持ちが落ち着いてきた。
しばらく話していると、
「お姫様が起きたみたいね?」
幕の中から人の動く気配が伝わってくる。
「それじゃ、また後で」
「また、あとで」
私はリャナに言ってから、幕の中へと戻っていく。
「おはよう、レンガ嬢。はやいのね」
幕の中では、すでに乗馬服に着替えたサファイア様が、テーブルに昨日使ったようなコップと何やら似たような材質の箱を並べていた。
「おはようございます、サファイア様。
それは?」
「朝食よ。良かったら、ご一緒にと思って」
サファイア様が箱を軽く指で弾いたあと蓋を開けると、なかから湯気を立ち上らせたリゾットが現れる。
「すごいですね!」
「ありがとう」
サファイア様はどことなく嬉しそうな雰囲気を漂わせて、私にもう1つの箱を勧めてくれた。
私も箱を指で弾いてみる。
カンッ
思ったより力が入ってしまったみたいで、ちょっと大きな音が出た。ビクッとする私に、目の端に映った同じように体を震わせたサファイア様。
でも、わたしが顔を上げてそちらを向くと、サファイア様は何もなかったように飲み物を口にされた。
驚いたことを、隠しているのだろうか?
もしそうなら、なんだか可愛らしい。
思わず口元が緩みそうになるのを抑えて、私もなんの素振りも見せないサファイア様にあわせることにする。
目をまた箱の方に戻し、蓋を開けようと手を触れた。
あたたかい。これ、意外となんか感動しますね。
ゆっくりと蓋を開けると。中からところどころに緑色をのぞかせた、美味しそうなリゾットが現れた。
添えられたスプーンでひとすくいして、ゆっくりと口に運ぶ。
口に入れた温かい一匙のリゾットが、ゆっくりと喉を通り、空っぽのお腹に入っていくのがわかった。
体が中から温められるようで、幸せな気分になる。
「レンガ嬢は、本当に美味しそうにご飯を食べるのね」
気がつくと、サファイア様がこちらを見て、わずかにだが笑っていた。
「美味しいものは、みんなを笑顔にする、神様からの贈り物ですから!」
あんなに微笑んでいるサファイア様なんて、なかなか見れない良いものが見れたな。
私は、さらに幸せな気分になって、続きのリゾットを頬張った。




