9-4 野営の夜
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。内容に変更はありません。
2023年1月22日-誤字修正。
まもなく目的地という頃。
私達はサファイア様の指示で休憩をとっていた。
「いまから捜し物をしても、日没までそれほど時間がないので」
至極全うな指摘だ。
本来馬で半日のはずの道程は、雨のせいで余分な時間をとられていた。まだ日は落ちていないが、まもなく暗くなるだろう。ましてや、まだ雨もやんでいない。
サファイア様は馬車を止めると、ゴーレム御者に命じて中から大きな布を持ち出した。
ゴーレム御者はそれを張り渡して、大きなテントのようなものを作る。
次に魔石を取り出して地面に置くと、たちまち乾いていく。すごい。
「シャワーの魔石の応用です」
などと、事も無げに仰りながら。
ゴーレムは馬車のトランクから、これもどこに入っていたのかというくらいの、大きな絨毯にテーブルやソファベッドと次々にとりだし、テントのなかに並べた。
「もともと1人用でごめんなさいね」
「い、いえ。
それにしても、ゴーレムってあんなにいろんなことができるんですね」
「普通なら、指示をすればその通りの作業をします。
でも、あのゴーレムは試作品です。
『学習』の機能を付与してあります」
「勉強するんですか?」
「教師にいろいろ動作を教わって習得できます。使い分けの判断は馬車にある魔石でのコントロールです。
学習速度が遅いのと、判断がまだまだ適当でないときが少なくないので、今後の課題ですね」
「新型のゴーレムなんですね。
そういえば、うちのリャナも中に呼んで良いでしょうか?」
「申し訳ないですが、絨毯に防御魔方陣が仕込んであります。中にいれない方が無難でしょうね。
それに、もしお願いできるのなら、レンガ嬢の従者には周囲の警戒をしてもらえませんか?
このゴーレムは、まだそこまで賢くはありませんからね」
公爵令嬢からの頼み事は、無下にはできない。
私はリャナに事情を話して頼むと、
「今度、特別手当ね」
リャナはそう笑って、快く引き受けてくれた。
そんなこんなで、私はサファイア様といろいろとお話しする。そのうちに、私の緊張もだんだん解けていった。
「食事、美味しかったです! うちのパンに負けないくらい!」
「『うちのパン』とはなんですか?」
「私、『猫のパン』というパン屋さんで働いてまして。
もう、とても美味しいパンなんですよ」
「名前は聞いたことがありますね。
エメラルドも口にしたことがあると聞きました」
「それなら、サファイア様も一度召し上がってみませんか?
こんど、お持ちしますね」
公爵令嬢もご存知だって。『猫のパン』で仕事をしている私としては、なんだか嬉しくなった。
食事のあとも、続いておしゃべり。
こうしていると、サファイア様も普通の女の子だと感じる。
「さて。そろそろ明日に備えて、寝ましょうか」
「はい、お休みなさい」
「その前に、汗は流しておきたいわね」
サファイア様か服を脱ぎ始めた。
昼に見たサファイア様の裸は人形のように美しいと思ったが、いろいろ話したあとのサファイア様の裸は、なんだか生々しい人間を感じて、妙にドキドキした。
「あまり見られると恥ずかしいと、いいませんでしたか?」
あまり表情を変えずにそうおっしゃるが、たしかに頬がわずかに赤いので、本当なのだろう。
「どうしてそんなところで脱ぐんですか?」
「間取りの関係だから、仕方ないでしょう?
もともと、1人用です」
「なんでしたら、私は外にいくか、馬車に入ってますよ?」
「外は雨も降っていますし、出先ですから、そこまでは気にはしません。
……ですけど、そんなに、みないで」
サファイア様のなかなか可愛らしい反応にジロジロ見ていたら、どんどん赤くなって、さいごにすこし怒られた。
これは私が悪い。
サファイア様が間仕切りの向こうに消えると、雨音に混じってシャワーの音が聞こえてくる。
シャワーの魔道具を屋外でも使えるようにするなんて、考えたこともなかったな。
そして、反対の機能を持つ水を除去する魔道具とあわせて使えば、快適なシャワー室の完成だ。
しばらくすると、すっかり汚れも水気も落としたサファイア様が、仕切りの向こうから現れた。
マジックボックスから取り出した着替えを身に着けながら、聞かれる。
「レンガ嬢も、つかうでしょう?」
「ありがたくお借りします!」
雨具を着ていたとはいえ、雨に降られた日のシャワーは喉から手が出るほどありがたい。
私もシャワーを浴びる。張った布に雨とシャワーの当たる音が響いて、布1枚で野外だということを意識する。なんだか非日常感がすごい。
石鹸をお借りして体を洗う。泡の質が、いつも家で使うものと比べてイマイチな感じがする。公爵家のものとはいえ、出先だからだろうか?
流して身体を拭いたら、もとの着てきた服をもういちど着る。正直、せっかく体を洗ったのだから、着替えが欲しかったと少し後悔。
それからサファイア様に馬車の椅子をお借りして、そこに横になることにした。
「えへへ、ふかふかしてます。
でも、私は家のベッドのほうが好きですよ、パパ、ママ。
今日も、おやすみなさい……」
小さくあくびをしてそういうと、多少狭いけれどすごく寝心地のよかったその椅子の上で、私は眠りに落ちたのだった。
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