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9-3 馬車で泉へ

2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。

2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。


 サファイア様の秘密を知って。

「では、泉になにがあるのですか?」

 私は、当然のように聞いてみたのだけれど。

「さあ? 巫女様はそんなに親切には教えてくれませんでしたよ」

「ユーリ様が、何か仰ったのですか?」

「有り体に言えば、そそのかされました。

 貴女に会ったのも、言ってしまえば巫女様の差し金ですね」

 そんな事を言って、サファイア様は手にとった飲み物の最後の一口を飲み、

「さて、それでは泉まで同道しましょう、レンガ嬢」

 当たり前のように、そう仰ったのだった。


「リャナ、いますか?」

「待ってました、いや、お待ちしておりました、お嬢様。

 では、どうぞこちらへお移りくださいな」

 私が馬車から顔を覗かせて声をかけると、リャナはようやく終わったかと言わんばかりにやってきて、それから丁寧に手を伸ばして私を降ろそうとする。

「あ、えーと、違うんです。

 どうも、泉までサファイア様とご一緒することになりそうで」

「……ふーん?」

 リャナの目が、何かを探るように私の顔を見る。

「ま、一緒に冒険するって、すぐに仲良くなれるから。

 こんなときだからこそ。めざせ、友達100人。ね?」

 それから、パチリとウインクするとそんな軽口をいって、そのあと、そっと優しく私の頬をなでた。


「遅れないでくださいよ!」

 馬に乗ったリャナが、そういって走り出すのと同時に。

 サファイア様が馬車の中に置かれた玉に指先で触れ、なにかの文章を書く。

 すると、御者台に座ったゴーレムが手綱を動かし、馬車は滑るように動き出した。

「ゴーレムの御者に、泉の近くまで馬車を進めるよう指示をしました」

 サファイア様は常識外れたことを、こともなげに仰る。

 この玉状のものは、いくつかの魔石を組み嵌めて作った、ゴーレム等の制御装置らしい。

 リャナの馬を先導に、サファイア様と私の乗った馬車があとに続く。

 普通は馬が馬車に合わせてゆっくりと走るものだが、リャナの馬は普通に駆け足でかけていく。

 サファイア様の馬車は恐ろしく速く、揺れないのだ。

「魔力浮上式、とでもいえばわかりやすいですか?」

 それでもよくわからない。車軸と車体に魔石を載せ、反発させることで浮かせるだけでなく、その相互作用を制御することで揺れをなくす仕組みらしい。


「貴族の方は、すごい馬車をお持ちなのですね」

 私がそんなふうに聞いたら、

「べつに、そんなことはないわ。

 この馬車は、公爵家とアカデミーの資金で作った、いわば私の実験室ですからね」

 などと、驚くような返事が返ってきた。

 なんでも、サファイア様は学院に籍を置きながら、聖王国の研究機関『アカデミー』でも研究をされていて、魔道具の製作にかけては一目置かれるほどの存在らしい。

 公爵家の資金をもとに開発した魔道具が評価されてアカデミーへの参加が特別に許され、それで使えるようになったアカデミーの知識に技術に設備に資金を上乗せして、ずいぶんと好き放題の研究をしているそうだ。

「まあ、権力を傘にきた割りに合わない金食い虫だと思われているでしょうね」

 などとサファイア様は仰るが、公爵家の資金をアカデミーの研究にまわしてくださる上に、成果まで出してくださるのなら、アカデミーも手放すことなどないに違いない。

「でも、おかげでこれを作るのが間に合いました。いつ龍に喰われてしまうかと思っていましたけれど」

 首につけた蒼のチョーカーを触りながら、そう教えてくれた。

 なるほど、サファイア様の研究の原動力は、あの龍を何とかするためだったのか。

 私も『アレ』を倒すためにユーリ様の研究会に入った。サファイア様の気持ちが、よくわかる気がした。

 私を見ていたサファイア様の顔が、わずかに微笑む。

 サファイア様って、一見無表情だけれども、よく見ると結構表情豊かですよね。

 そんな事を考えながら、私もニッコリと微笑んだのだった。




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