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9-2 公爵令嬢サファイア

2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。

2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。

 公爵令嬢を前に、馬上は失礼だ。

「リャナ、おりましょう。サファイア公爵令嬢様です」

「どうしてこんなところに公爵令嬢様が? 馬車の故障とか? でも、お供もあるように見ないし、おかしいわよ?」

「しりませんよ。私が聞きたいくらいです」

 リャナと言い合いながら馬を止め、膝をつこうとしたが、

「立ったままで構いません。いえ、この天気ですし、馬車の中に入りなさい」

 それを止められて、馬車の中に招き入れられる。……私だけ。

「そちらの貴女には、外で待っていてもらったほうが良さそうですから」

 サファイア様の計るようにリャナを見る目が、癇に障る。

「レンガ嬢、まずは中で話しましょう」

 仮面を外しながらサファイア様はそう言って、馬車の中へと入っていった。雨の中不思議とよく通る声が耳に残る。

 繰り返しの誘いを断るわけにもいかずサファイア様の馬車に乗り込むと、強烈な違和感を感じた。

「貴女の伴は、人ではないようですから。濡れても身体に心配はないでしょうし、王宮には及びませんがこの馬車には私の屋敷くらいの防御魔法が仕込んであります。大事にしているのなら、こんなことでなにかあってもつまらないでしょう?」

 たしかに、これは並大抵のものではない。助かったと言っていいだろう。

「これを飲みなさい、温まります」

 馬車の中に入った私に座るよう促すと、サファイア様は小さな瓶を取り出し私に勧めてくれた。

 受け取ると、温かい。

 雨の中を走ってきた私にはとてもありがたかったが、一体どういう仕組みなのだろう?

「瓶に加熱魔法がかかっています。再利用するから、落とさないように」

 そういいながら、サファイア様は椅子の端に設けられていた箱の中からもう1瓶取り出して、指の先で軽く弾くと、口に含まれた。

 なるほど、指で弾くのが、加熱魔法を作動させる鍵みたいですね。

 でも、あの箱もしかしていくらでも物が入るっていう『マジックボックス』ですか。貴重品ですよ。さすが、公爵家の馬車。

 テーブルの上にある、あの玉はなんだろう? 強い魔力を感じる。


「それで、レンガ嬢は泉の調査ですね?」

 いきなり本題である。

「はい」

「冒険者ギルドの依頼ではないでしょう?」

「確かに受けてきたわけではありませんが、よくご存知ですね」

「私が、受けましたから」

 は?

 耳がどうかしてしまったのだろうか?

「これでもCランク冒険者です。貴女の後輩ですね」

 こともなげにそういうと、また飲み物を口に含まれた。

「公爵令嬢様が冒険者って、なんの冗談ですか!?

 ご家族や王太弟殿下は、ご存知なのですか?」

「もう少し小さな声でも聞き取れますよ?

 父上やコーラル殿下は、苦い顔ですが、まあ黙認と言ったところですね」

「黙認、って。失礼ですが、もう少し常識をわきまえていただければと思います」

「本当に失礼な方ですね。

 貴女のほうが常識はずれだと思いますよ? 『殲滅の戦乙女』」


 ……なんだかものすごく恥ずかしい。


「貴女が『殲滅の戦乙女』なら、私はさしずめ『呪われた龍女』といったところでしょうか」

 サファイア様は、真顔でそんなことを仰る。

 あれ? この方って、もしかして若い男女がよくかかるという、あのイタい病気ですか?


「さて。レンガ嬢が動いたということは、巫女様は『アレ』が怪しいとお考えなのでしょうか?」

 真剣な表情のまま、サファイア様は私にそうお尋ねになった。

「いえ、ユーリ様は特に何も。私が確認をしたかったので」

「そうですか。でも、今回は外れですね」

「どうして、おわかりになるのですか?」

「私の身体が反応していますから。

 ……見てください」

 そういうと、サファイア様は上着を脱ぎ、シャツをするするとはだけていく。

 さわわ、さわわと雨の音が漏れ聞こえる中、ゆっくりと脱いでいくサファイア様は、妙に美しかった。

 ほぼ起伏のない胸、陶器のような肌、細い首筋に首元の蒼いチョーカーが映える。

 手首だけにシャツをかけ腰に垂らしたその姿は、まるで美しい人形のよう。

「そんなに見ないで。さすがに恥ずかしいわ。

 ……見せたいのは、これです」

 サファイア様がそう言って背中を向けると。そこには蒼い龍が、うごめいていた。

「……え?」

 綺麗な龍だ。クロスロード海洋国に伝わる神獣で、天に昇って雨を呼ぶとされたはず。

 でも、貴族の方は身体に落書きをする習慣でもあるんでしょうか?

 学院ではそんなことされている方は見たことないけれど。

 それにしても、まるで生きているよう。

 今にも動き出しそうな……、

 いや、実際にわずかに動いていないだろうか?

「ああ、この龍は生きていますよ?」

 私の考えを読んだかのようなタイミングで、サファイア様が仰った。

「コレは私に寄生しているのです。昔取り憑かれて、それ以来、身体が大きくなりません。

 今は、この首輪で抑えていますけれど、さていつまで持つか」

 静かにそう仰ると、再び服を身につけられた。

「……ご家族や王太弟殿下は、ご存知なのですか?」

「隠してはいますけれど、まあ知っているでしょうね。

 おかげで、ずいぶん好き放題させてもらっています」

「そんな! ……どうして私にそんなことを教えてくださるんですか?」

 驚きすぎて理解できない私は、そう聞いたけれど。

「気紛れです」

 誤魔化された。

 サファイア様の目を伺うが、そこからは何も読み取れない。

「その龍は、どうにかできないものなのですか?」

 次に私がそう聞くと、

「そのために、ここに来たのです」

 サファイア様は私の顔を見て、はっきりとそう仰った。

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