9-1 待ち受けていた馬車に乗る人は
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
2023年1月22日-誤字修正。
小雨が降る中、私は厚手のチュニックとロングパンツの上から雨よけのマントをかぶって、馬の後ろに二人乗りしていた。
意外と揺れる。私は手綱を取る人物の腰に手を回して、必死に掴まる。
「あはは、こわいですか? しっかりつかまってくださいね、お嬢様!」
手綱を握って馬を駆るのは、うちのメイドのリャナだ。
いつものように朝起きたら、今日は遠出の準備を整え、あとのことを任せようと喚び出したリャナに、それはいい笑顔でネチネチと叱られた。
比喩じゃなく、そのうち雷でも落ちるんじゃないかと思いましたよ。
「お嬢様は冒険者をしているときにはっちゃけた後、恥ずかしくなって引きこもったんでしょう? 今更冒険者ギルドに顔なんか出したりしたら、大騒ぎになりますよ?」
ちょっと耳が痛いところもあるような気がしますが、余計な心配だと思います。
「学院はどうするんですか? 休むのなら、きちんと連絡しておかないと、後で大変ですよ?」
朝一番に休みの届けをもって行きましたよ。
「だいたい、馬で半日って、歩くとかなりの距離ですよ?」
魔力で身体強化して走るから、大丈夫です。
「まさか、走っていこうなんて思ってませんよね? 戦う前から疲れているなんて、話になりませんよ?」
馬に乗っているだけで、疲れてきました。
「そうだ、私が馬を借りて、お嬢様をお乗せしましょう」
なんだか勢いに負けてお金を渡しましたけれど、いま気がつきましたけど、よく貸してもらえましたね?
「4日分動ける魔力を私の魔石に注ぐだけですよ。マナポーション13本くらいで足りるんじゃないですか?」
おかげで、お腹の中がタプタプですよ。
「ごめんなさい、リャナ。もう少し足を緩めて」
「え? きこえませんよ?」
ニヤニヤしながら、答えるリャナ。
「じゃないと、さっき飲んだマナポーションで、貴女の背中を汚しそ……」
駆け抜けていた景色が、速度を落とす。
「もう少しゆっくり行きましょうか、お嬢様。ご無理をされてはいけません!」
今日のリャナは、なかなか調子がいい。
本当はリャナは家においてくるつもりだったのに、いつの間にか連れて行くことになってしまった。
でも、『アレ』がいるなら、標的は『ママの仇』だ。ママの親友を自称するリャナに、思うところがないわけがない。
リャナが変に明るいのは、私を気遣ってくれているのと、リャナが自分を抑えているからなのだろう。
私も、心の底から湧き上がる暗い感情が、リャナと話していることで軽くなるのがわかる。
視野狭窄は戦いの上で危険だ。私も、気をつけないと。
「あら?」
雨の中。左右を木々に挟まれた細い道の先、行く手に馬車が1台止まっている。
あやしい。
それが普通の馬車なら、それでもそこまでは気にしないのだけれど。
「お嬢様、最近はあんな馬車が流行りなのですか?
……魔力の塊ですよ?」
リャナが警戒した声で話しかけてくる。
「すこし気をつけていきましょう」
私はそう答えて、馬のお尻に載せた鞄を開き『宝具』に魔力を注……ごうとして、慣れない馬上で四苦八苦する。
「お嬢様、落ちないでくださいね」
体を起こしたリャナが、バランスを崩しかけた私の首元を掴んで助けてくれた。
「もう少し、丁寧に扱ってくれても、いいんですよ?」
私はそう答えながら、『宝具』を操れる状態にして、馬車の様子を確認した。
すると。
私達が近づくと、馬車の扉が開いて、なかには小柄な人影が現れた。
顔は口元だけ出して金属製の仮面で隠されている。はっきり言って、怪しすぎる。
……ん? でも、あの身長に、あの髪の色は?
まさかと思う私に、声がかかる。
「レンガ=アイセ嬢でしたね。思ったとおりですが、ここで会えて良かった。
急いでいるようですが、少し話すことはできますか?」
仮面のせいか少しくぐもっているが、いつかエメラルド様といるときに聞いた声に、菫色の髪。
仮面をつけて乗馬服を着た、ルーツ公爵令嬢サファイア様がそこにいた。




