8-2 来客のある時
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
『猫のパン』で、いつもとは違うお客様をお送りしたあと。
「お疲れさまでした、また後で!」
私も挨拶をして、学院へと向かう。
学院に向かう道のあちこちに、騎士さんと従者さんの姿があった。
さらに、所々には魔術師さんとその従者さんの姿まで。
魔力持ちの絶対数は少ない。そんな貴重な魔術師が町にまで配置されていることから、警備の厳重さを感じる。
あ。むこうでは、騎士さんが従者さんに指示して、荷車の中身を確認している。
そうか、朝の配達のとき、こんなふうに何を積んでいるのか確認されたりがあったかもしれないんだ。
配達から帰ってきたみんなからはそんな話はなかったし、『猫のパン』の猫車はそこそこ有名だからたぶん問題はなかったのだろうけれど。
「どこも、たいへんなんですねぇ……」
思わずそんなことをつぶやいて、学院の門をくぐったのだった。
教室に入る。が、いつもはよく目の合うアメジスト様が、今日はどことなく心ここにあらずだ。
「おはようございます、アメジスト様」
「! ……おはよう、レンガ様。
どうか、された?」
私が挨拶をすると、アメジスト様は驚いたようにこちらを見てから、挨拶を返してくださった。
ずいぶん様子がおかしい。
「どうかされているのは、アメジスト様ではないですか?
なにかお困りごとなら、私で良ければお力になりますよ?」
いつも優しく私を気遣ってくださる、アメジスト様。なにかお返しができるなら、嬉しいな。
じっと目を見ながら聞くと。
アメジスト様が少し顔を赤らめた。そして、何かを考えていたようだったけれど、しばらくすると首を振って、
「大丈夫。今夜の夜会のことを考えていただけよ」
と仰った。
「夜会ですか。貴族の方も大変ですね」
「『羨ましい』なんて言われなくて良かったわ」
「だって、色々気を使いそうですし」
「そうね。今晩は特別な来賓もあるから、いっそうね」
ちょっと疲れた感じでそう仰ったけれど、その後はいつもの優しいほほ笑みを浮かべて、
「そういうことだから、ご心配いただかなくても大丈夫。
もしまた別に困ったことができたら、良かったらお力を貸してね」
「わかりました!
いつもいろいろお世話になってますし、私にできることなら精一杯がんばりますよ!」
私も胸を叩いて引き受けたのだった。
昼休み。
今日はエメラルド様の姿がない。お休みのようだ。
それなら、今日は食堂にでもお昼を食べに行くことにしましょうか。
……べつに、エメラルド様とお昼の約束をしていたわけでもなかったのだけれど。
なんとなく、慣れたはずの1人で食べるご飯が、少し寂しいような気がして。
私は人でごった返しているだろう食堂に向かった。
食堂についてメニューを選ぶ。今日は定番のランチセット、だ。
なんとか開いている席を見つけて座り、受け取った熱々のムニエルに特製ホワイトソースを絡ませながら食べていると。
「エメラルド様が……」
少し離れたテラス席の方から気になる名前が聞こえてきて、私は耳を澄ませた。
「エメラルド様が、今日の夜会に出席されるらしい」
「まあ、お体は大丈夫なの?」
「それは相変わらずらしいけれど。
だから、本日は学院を休んで、夜会の準備をされているという話だ」
「それでは、少しお顔を出されるだけ?」
「でも、今夜はサファイア様もいらっしゃるから……」
「エメラルド様はサファイア様の懐刀でいらっしゃるものね。
でもそれなら、今夜の夜会で、王太弟様とサファイア様を連合国に紹介されるのかしら?」
「もしそうだとすれば、今日の主宰者の執政官様も、お2人の婚約に賛成ということになりそうだけれど……」
貴族の方の情報交換みたいだ。
たしかに、テラス席のあの場所なら、普通は話し声も聞こえることはないだろう。こっそり話すのに最適だ。
そう思ってよく見てみると、そんなことをするのに向いている場所が、食堂には何箇所もあった。
この間エメラルド様とパンケーキを食べた場所も、そんな場所の1つのようだ。
なるほど、さすがにここは貴族の方も多く通う学院なんだなと、どこか感心してしまう。
そんな会話に耳を傾けた後。
……ズズズ
少し音をたててしまったけれど、セットのジュースを最後まで飲んで。
私は教室へと戻ったのだった。




