7-4 『銀月』のジャック
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。内容に変更はありません。
2023年1月22日-脱字修正。
2023年12月24日-「もしかして」の表現が続いた片方を「ひょっとしたら」に修正
「おはようございます!」
元気に挨拶をしてから、『猫のパン』夜の配達。
でも朝のこともあり、暗くなった細い路地はどうしても通る気にならなくて。できるだけ大きな路地を通りながら配達を終える。
そして店に出た後、最後に会計。
「マリオさん、お金、合いました!」
「よし! レンガちゃん、お疲れさん!」
「おつかれさまです!」
無事に会計も終わって、挨拶を交わす。
「さーて、俺は今晩徹夜でパン焼きだ。
明日はいつもどおりに出てきて欲しいんだが、ちょっと来客がある。パンをたくさん納品しなきゃいけないんで、悪いけどレンガちゃん手伝いで店に残ってくれないか?」
「え? いいですけど、配達大丈夫なんですか?」
「大丈夫にするためにも、今晩頑張らないとな」
「よかったら、手伝いましょうか?」
「レンガちゃん。ただでさえもう遅いんだ、これ以上遅くなっちゃいけない。
ま、俺に任せとけ!」
そう言って、マリオさんはワハハと笑う。
「あまり、無理しないでくださいね?」
私がそう言うと、マリオさんは「大丈夫、大丈夫」と言いながら私の頭をポンポンとたたいた。
「それじゃ、失礼します!」
そして、今日の仕事も全部終わって、『猫のパン』を出て家へと帰る。
この時間になると、もう出歩く人もあまりいない。
しかし、途中の大通りを歩いていると、向こうの方に人影が見えた。
朝のことを思い出し、一気に緊張する私。
さあぁぁぁぁ……
風が吹いたな、と思ったのと同時に。
雲の影から月が覗き、人影の姿が薄く照らし出された。
どうやら、男性のようだ。灰色の髪が月明かりに浮かぶ。細いけれどしなやかさを感じる身体は、ピッタリとした暗い色の服に包まれていた。
「おや、こんばんわ、お嬢さん」
こちらに気付いた男性が声をかけてきた。
「君、もしかしてレンガさん?」
「失礼ですが、どなたですか?」
思った以上に硬くなった声でそう問うと、
「驚かせてしまったら、すまない。
俺は冒険者パーティ『銀月』のジャック。グラントの仲間といえば、わかってくれるかな?」
そう言いながら腕を持ち上げる。銀の腕輪がキラリと月明かりを反射した。
「はは、あいつずいぶん大袈裟に言うなと思ったら、たしかに美少女だ。
今なんて、薄紫の髪が月に映えるし、服がフワリと風に舞うところなんかは、本当に絵のようだったよ。
それに、気の強そうな瞳も良いね。うん。
聞いていた通りの容姿だったから、すぐに分かった」
手を持ち上げたまま軽く開いて、ゆっくりと近づいてくる。敵意はないというジェスチャーだ。
「レンガです」
やたら褒められたのが少し恥ずかしくて、私は俯きながら短く名乗る。少し頬が熱い。
「君から聞いた情報を確認しようと思って見に来たんだけれど、まさか情報をくれた本人に会えるとは思わなかった。
もしかして、君がその現場に居合わせたのかい?
魔力を持っているみたいだし、ひょっとしたら退治したのも、君?」
「神殿騎士の方と戦っていたようですよ?」
私がそうはぐらかしてみたら、
「うん。でもそれは、『神殿騎士が退治した』とイコールじゃないよな?
……と、ごめん。探るつもりはなかった。
言いたくなかったら、言わなくていい。
俺たちは、君に感謝している」
私への配慮を感じる言葉に、私もすこし正直になることにしてみた。
「そうですか。
……たしかに、退治したのは私です」
「そうか。
教えてくれて、嬉しいよ。
その時のことを詳しく聞きたいんだけど、こんな時間にこんな場所じゃさすがにマズいな。
よかったら君の都合の良いときでいいから、俺たちの泊まっている宿屋に招待させてくれないか?
君の口にあうかはわからないけど、けっこう飯もウマいんだ。
旧市街に住んでるお嬢様にはちょっと来にくいかもしれないが……いや、もし良かったら君が場所を指定してくれてもいい」
「別に、問題ありませんよ。場所は昨日聞きました。新市街の東街区ですよね? それなりに行ったことはあります。名前は確か、『ドーメル』でしたっけ?」
「そうだ、間違いない。そういうことなら、ぜひお願いするよ。時間は……いつなら大丈夫そうかな?」
「昼は学校、夜も仕事があるので、行けるかどうかわかりません。時間が取れたら早めに伺います」
「うん、充分だ。すまないな。宿屋の受付に声をかけてくれたら、わかるようにしておくよ」
そう言いながら、ジャックさんは右手を差し出してきた。
私がその手を握ると、
「よかった。握手してくれなかったら、悲しくなっていたところだ」
そう言ってジャックさんの口元がほころぶ。
「よかったら、家まで送ろうか?」
などとも言ってくれたが、それはふつうに断って、私はひとり家へと帰った。
「ただいまです~……」
今日はなんだか、とても疲れました。
とりあえず制服寝押しの準備をしながらお風呂にお湯をはると、
とぷん……
ゆっくりと体を沈める。
ぼーっと、とりとめもなく今日1日にあったことを考えていたら、
ブクブクブクブク……
いつのまにか口がお湯のなかに浸かっていた。
「あわわ」
慌てて体を戻し、
「はぁ、いくら考えてもスッキリしそうにないですね。
もう、出たとこ勝負の覚悟を決めましょうか!」
グッと手に拳を握り、そのままお風呂あがりの牛乳を飲んで。
その勢いのまま今日の学院からの課題をこなして、明日の準備を整えてからベッドにはいる。
最後。寝る前に、私とパパママの肖像画に挨拶。
パパ、ママ、なんだか周りが騒がしくなってきましたけれど、私がんばりますね。
見ててください、パパ、ママ、……
そうして私は目を閉じたのだった。
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