7-3 ラー様がみている
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
2023年12月24日-魔石頭脳関係の説明追加
「♪フン、フ、フ~ン♪」
授業も終わって、『研究会』に顔を出すと。
ユーリ様が鼻歌を歌いながら、お茶の準備をされていた。ずいぶんとご機嫌なご様子だ。
「あら。いらっしゃい、レンガ様」
シリル様が私に気付いて声をかけてくださる。
「ああ、レンガ、いらっしゃい」
逆にラー様は、ずいぶんと疲れたご様子だ。
「ラーちゃん、苦労症なのよ~。
あれ? レンガっち、いらしゃ!」
私に気付いたユーリ様が、もう1つカップを増やしてお茶を出してくれる。
「だいじょうぶ、そんなに心配しなくても、たいして悪いことではないわ」
シリル様の発言は、多分ラー様に向けられたもの。
「……君にそう言ってもらえると、心強いよ。
でも結局、実行するのは私だからね。
……
ユーリ、ありがとう。紅茶、いただくよ」
ラー様は、気を取り直したように背筋を伸ばすと、グッと紅茶を飲み込む。
「こんにちは、ユーリ様、シリル様、ラー様。
どうかされたんですか?」
「ラーちゃんが、連合国の来襲に、怯えているのよ~?」
ユーリ様が茶化して仰る。
「今度も、相変わらずの無理難題だよ。
あそこのトップは遣り手だから、タチが悪い」
また元気の無くなりそうなラー様。
なんだろう?
ラー様お花屋さんだし、季節にない花の納品でも求められたのかな?
「こうなったら、もう開き直るしかないな。
当たって砕けろ、だ」
こんどはなんだか、空元気みたいだ。
「ラーちゃん本気で怒らせたら怖いから、ちゃんと手加減してくれるし大丈夫だって」
対照的にユーリ様が明るく仰る。
これじゃ、まるでラー様がユーリ様に弄ばれてるみたいだな、と少し呆れながら見ていた私に、
「だから、レンガちゃんも心配ないよ?」
ユーリ様が突然仰った。
「!?
なんのことですか?」
驚いた私が、少し上ずった声で答えると。
「ん? 心配事、あったでしょ?
大丈夫、そんな心配することないよ。
とりあえず、しばらくは」
なにをご存知なのかは知らないけれど、そんな事を言われても、安心できるはずがない。
とくに、最後の一言。「とりあえず」に「しばらく」って。
「ユーリがそういうのだから、本当に気にしても無駄だわ。
変に勘繰っても、疲れるだけよ?」
シリル様の発言はフォローなのだろうか?
「そういえば、リルちゃんはどうするの?」
「こんなときは、家で大人しくしているに限るわ」
「いないはずの誰かがいたら、マズいもんね!
でも、みつかっちゃったら?」
「気紛れにでも探されたら、見つかるでしょうね。
でもその時は、あなたがなんとかするんでしょう? ユーリ。
協力はするけれど、あまり手間をかけさせないでよね?」
そして、ユーリ様とシリル様の会話は、更に訳がわからなくて。
なんだか、蚊帳の外に置かれているような気がしたのだった。
「よしっ!」
そんなこんなを話していると、ラー様が気合を入れて立ち上がり、『魔法試験場』の中央に歩いていく。
「こうなったら、気分転換を兼ねて、射撃練習だ!
誰か、的を出してくれ!」
「それじゃ、私が!」
私が引き受けることにして、試験場の端に並んで置かれている板に触れる。すると板はフワリと試験場の中に浮かび上がる。
板はフワフワと漂っていたかと思うと、上下左右の四方にピタリと集結する。魔力を通した私の意思で操作できるのだ。このあたり、どことなく私の宝具に似ている。
ちなみに、試験場備え付けの魔道具に操作を任せることもできる。研究機関のアカデミーで最近開発された技術が使われているらしいけれど、どんな理屈でそんな事ができるのか、いつか聞いてみたい。
「それじゃ、いくぞ!」
ラー様が、腰にしまっていた魔道具『魔銃』を取り出す。
手のひらサイズのこの魔道具は、所持者の魔力を増幅して強力な魔力弾を撃ち出すことができる。高速連射されると、もう手も足も出ない。
……まあ、私の宝具が抜かれることはないんですけれど。
チュン
標的の板に、魔銃から発射された魔力弾が当たる。
魔力が当たった場所は変色し、命中したことがわかる。
チュン、チュン、チュン……
どんどん的を増やしていくと、ラー様が片っ端から魔力弾を命中させていく。
「やっぱり、レンガの操作は素直で気持ちいいな!」
撃つ手は的を外さないまま、ラー様が声を上げる。
「あまり、褒められてる気がしませんよ?
ほかの方は、どうなんですか?」
「うーん、
ユーリは、弄ばれている感じ。
シリルは、パズルをしている感じかな。
ミイツは、タチが悪いな。複雑な上に罠に誘導してくる。
ミズナは、あれはまるで試験だな」
そんな寸評を教えてくれた。もちろん、的を撃つ手は止まらない。
「ふぅ。こんなところかな?」
30分くらい続けただろうか?
ラー様は、スッキリした顔で撃つ手を止めた。
「だいぶ続くようになったね。おつかれさま!」
ユーリ様が労いながら紅茶を勧める。
「すごい集中力ね。呆れるわ」
シリル様は、そう言いながら小さく肩をすくめた様子だ。
「お疲れさまでした。
……あれ? 的に1箇所しか当たってないですよ?
もしかして、全部の的にワンホールショットっていうやつですか?
ほへぇ」
元の場所にしまいながら的を確認していくが、どれも変色しているのは1箇所しかない。
思わず、感嘆のため息が出た。
「それは、狙ったからね?」
ラー様はこともなげにそういうと、紅茶を口にされたのだった。




