6-3 ユーリ様の網の目
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
2023年1月22日-誤字などを修正。
授業も終わって、『研究会』に顔を出すと、雨空の下の魔法実験場にはメンバーの姿はなく。
その横にある東屋の中で、シリル様とラー様が何やらお話されている。
ユーリ様の姿は、今日はないようだ。
「こんにちは、シリル様、ラー様」
「こんにちは、レンガ。活躍したそうだね?」
挨拶もそこそこに、ラー様が冷やかしてくる。
「こんにちは、レンガ。悪魔のことは、ユーリから聞いたわ」
シリル様は、そう言いながら、じっと私の顔を見る。
「? なにかついてますか?」
そう聞くと、なんでもないというように首を振って、飲み物に手を伸ばし一口された。
「あの、私が悪魔と遭遇したほかに、なにかあったりしましたか?」
「なにも、ないわよ」
シリル様が答え、ラー様が続ける。
「そうだね。『なにも、なかった』んだ。
ミズナが旧市街南街区をわざとらしく練り歩いたらしいんだけれど、これといった収穫はなかったらしい。
ここで尻尾を出したり襲ってくるようなやつだったら、簡単で良かったんだろうけどね。
結果は潜伏して、見えなくなってしまった感じだ」
どこか諦めたそのかんじに、私は何となく面白くなくて。
「それじゃ、どうやって追うんです?」
と聞くと、
「多分ユーリは、また出てくるまで追う気はないと思うわ」
とシリル様。
私は、ちょっとびっくりしながら、続けて聞く。
「誰かが被害にあったりしたら、どうするんですか!?」
「ユーリは『アレ』が、どこに潜んでどこから姿を表すかを見てから、その経路を潰すんじゃないかしら。
その間に起きる何かには、どこかの誰かがなんとかしてくれるのを期待する、くらいでしょうね」
驚いた私は、
「そんなの、無責任すぎます!!」
思った以上に大きな声を出してしまった。
「まあ、すこし落ち着くんだ、レンガ」
ラー様に静かに止められる。
一瞬静かになった東屋に、すこし強くなっていた雨の音が響く。
「べつに、『どこかの誰か』に、貴女がなってはいけないということはないわ」
手に持っていた飲み物を、またひとくち口に運び。
「ユーリがそれを期待している、くらいのこともありそうだけれどね」
それからシリル様は、あらためてじっと私の目を見て。
「ユーリの意図なんて、気にしなくていいわ。
でも、気に入らないことがあるのなら、自分でなんとかなさい」
続いて静かに、そう仰った。
「あら、ユーリ様、今日は不在なのね」
再び皆が黙ってしまい雨音に包まれていた私達に、柔らかいミイツ様の声がかけられた。
みんなで挨拶すると、ミイツ様は目の前にクッキーアソートを置いてから座る。
「よかったら、皆様もどうぞ」
「いただくわ」
「いただくよ。
それで、君のほうでは、なにかわかったかい?」
「そうね」
ミイツ様もクッキーを手に取り、3人のクッキーを割る音がする。
「先日レンガ様が悪魔と遭遇した場所、その近くでドナルドという少年が保護されているわ。
少し悪魔に齧られて、まだ意識はないようだけれども、命に別条はないみたい。
その現場を神殿騎士が発見して、悪魔は取り逃がしたけれど少年は確保。
今は神殿で治療中のようよ。
それとは別に、今朝、日輪騎士団に捜索願が出されているけど、確認されるのはまだしばらくかかるでしょうね」
思わず、ドキッとした。ミイツ様は、よくこんなギクリとする情報を持ってこられる。
「ミズナ経由で、それとなく騎士団に情報を回すか。私が行ってもいいけれど……
そうだ、レンガ。雨のなか悪いんだけど、ちょっとお使いを頼まれてくれないかな?」
それならと、ラー様が言う。
騎士団の拠点なら……多少は遠いから時間もいくらかかかるだろうけれど、まあ問題はない。
「わかりました」
引き受けて、でもその前に。いただきますと、私もひとつクッキーを頬張った。
学院を出ると傘をさして、まずは『猫のパン』に向かう。
「いらっしゃいませ!
って、あれ? レンガちゃん、まだだいぶ時間早いよね?」
お店にはいるとマリオさんは外出中で、代わりにリンクさんが出迎えてくれた。
「今は、お客様です」
私も笑ってそう答えると、季節の新商品『栗のクリームパン』を20本ほど買い込む。
ミズナ様も騎士団のお仕事でお疲れだろうし、良ければ騎士団の皆さんと一緒に召し上がっていただけると嬉しいですね。
ついでに、『猫のパン』のお客様が増えたら、もっと嬉しいんですけれど。
などと考えていたら、
「さすがに全部自分で食べる、わけないよね。
誰かに持っていくの?」
と、リンクさん。
「はい。学院の先輩にお使いを頼まれたので」
「そか。それなら……
僕の焼いたパンがいくつかあるんだけど、良かったらそれをおまけにつけようか?」
「え? いいんですか?」
「そのかわり、できれば感想なんかを教えてほしいな」
「うふふ。残念ですが、全部渡してしまうつもりだったんですけれど」
「それなら、レンガちゃんの分でもう1つおまけしておくよ」
そういって、それぞれ防水紙を中に巻いた、大きな包と小さな包を1つずつ受け取る。
「ありがとうございました!」
私がお礼をいうと、リンクさんも、
「まいどあり!」
と、笑顔で送り出してくれた。




