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5-4 『銀月』のグラント

2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。

2021年10月02日-字句などを修正。内容に変更はありません。

 もっとなにか、噂話でも聞けないだろうか。

 南の方へと歩き、昔なんどか訪れたことのある、旧城門に近い食堂兼酒場で夕食をとる。


 旧城門より北側は古くからある旧市街、旧城門を抜けて南側は『災厄』のあと作られた新市街となり、2つの市街は高い城壁に分けられている。

 境目のこのあたりは、旧市街の中ではだいぶ騒がしい場所になり、こういう場所には住民だけではなく冒険者なども出入りするから、いろいろな話が耳に入ってくる。


 扉を開けて店に入ると、にぎやかな話し声が聞こえてきた。

 私は適当な席につき、パンとホルモン煮込みを注文してから、店置きのニュースペーパーを読みつつ、周囲の話に耳を傾ける。

 この店は、提携の情報屋から仕入れたニュースを書き出して、店に備えおいてくれている。

 そこまで精細でないとはいえ、このサービスが知る人ぞ知る人気で、ひいきの客は多い。


 ニュースペーパーを読み終えると、そのまま読んでいるフリをしながら周りの話に注意を向けてしばらく。

 いくつか気になるものもありますが。旧市街での行方不明のニュースは、まだないようですね。新市街だと……場所によっては行方不明くらいじゃニュースになりませんか。

 そんな事を考えていると、

「相席、いいかい?」

 軽い感じで声がかけられた。

 目線を上げると、黒いメガネをかけた筋肉質のお兄さんが目の前に立っている。

「いやですよ」

 断って、ニュースペーパーに目線を戻すと、お兄さんは手を伸ばしてそれを押し下げ、あらためて顔を見上げた私に、さらに声を抑えながらこう持ちかけてきた。

「つれないなぁ、いいじゃない。

 食事でもしながら、お互い情報交換といこうよ。

 『魔力持ち』のお嬢さん?」

 そのまま、勝手に私の正面の席に座ると、今度は私の顔を覗き込むようにしてくる。

「どうして、わかったんですか?」

「ああ、簡単さ。魔力検知のアイテムが反応したんだ。で、よく見たら、目線がペーパーをきちんと追ってない。

 君、神官にも魔術師にも見えないね。『なに、してるの?』」

 いきなり変わる雰囲気と同時に、鋭い威圧の気配がまるで風のように私を襲う。なかなかの迫力だ。さすがに、尋問の魔術とかは乗せてないみたいだけれど。

「いちおう冒険者で、今は調べ物中ですよ」

「奇遇だね、俺も冒険者なんだ。

 ……でも、見ない顔だね。新人さん?

 いや、それはないよね。いまのが平気みたいだし、これは逆に敬意を表したほうがいいのかな?」

 口元に笑みを浮かべているが、あまり信用してなさそうな声が返ってくる。

「最近は別の仕事が見つかったので、もっぱらそちらばかりで冒険者はご無沙汰でしたから。

 うそじゃないですよ? 信じてもらえるといいんですけれど」

「うん、信じるよ」

 うん、これは全然信じてもらえてない。


「それで、なにしてるの?」

 今度は、普通に問われた。

「ちょっと、深夜に変なのが現れたりしないか心配になっただけです」

「……ふぅん? 女の子ならそういったこと気になるのはわかるけど、さ。

 どんなふうに『変なの』なのかな?」

「ひとをくったやつですよ」

 再びお兄さんの雰囲気が変わる。忙しい人だ。

「……おやぁ、これは、これは。

 お嬢さんとは、もっと深く知り合いたいな?

 ちょっと場所を変えて、別の場所でお話しないかい?」

「不用意じゃないですか? それに、ちょっと威圧的すぎます。

 私もそういうのが得意というわけじゃないですけれど、あなたにはちょっと辛口の点数ですよ?」

 私がそう言うと、

「……やれやれ。

 わかった、参ったよ。俺はBランク冒険者パーティ『銀月』のグラント。

 俺たちは街に入り込んだ『魔物』の情報を求めている。お嬢さん、どうかお話をお伺いできませんか?」

 お兄さん、あらためグラントさんは肩をすくめるとそう言って、今度は礼儀正しく頭を下げる。

 Bランクといえば、冒険者の中でも一流だ。そういわれれば、右の二の腕に銀の腕輪をつけている。きっとパーティメンバーはどこかに銀の装備でもつけているのだろう。


 さっきの気迫に、Bランク。それなら、私も踏み込んでみましょうか。

「私はレンガです。3年ほど前は、それなりにクエストを受けていました。今はさきほど言ったとおり、あまり冒険者として活動はしていませんが。

 私が知っているのは、『悪魔』1体が旧市街に入り込んで、左街区6番通り7区画あたりで退治されたこと、くらいですかね」

「!!」

 驚愕の表情を浮かべたグラントさんは立ち上がりかけ、周りを見回しながら再び腰を下ろす。

 そして、小声で、

「ねえ、それ、本当? ……いや、裏とりはこちらでするよ。

 ……でも、それが本当なら、今日の聞き込みはすごい収穫だな!」

「グラントさんは、どんな情報をお持ちなのですか?」

「……うん。

 俺たちが知っているのは、魔物が聖都に入り込んでいるかもしれないから、何が入り込んでいるかできるだけ調査することと、まんがいち旧市街に入り込んでいないかを確認することだった」

「新市街の様子とかは、わかります?」

「魔物が関わっているかもしれない事件が、増えている気配はあるようだ。南街区が、キナ臭いみたいだね。

 だが、確実な証拠や情報はない」

「規模とか、侵入か召喚か、とかは?」

「そもそも、聖都に入り込んでるかさえ、確実なところはつかめてない。規模なんて、全然さ。

しかし、まさか魔物のなかでも『悪魔』とはね。

 それにそうか、街で召喚された可能性も、あるんだな。

 ……ううん、でも、あのあたりでそんな事ができそうな、能力も設備も考えにくいけどな……。

 よし、わかった。情報、感謝する!

 もし新しくなにかわかったら、教えてくれると嬉しいな。

 俺か仲間が、新市街東街区の『ドーメル』っていう宿屋にいる。店で俺の名前を出してくれればいい。仲間は銀の腕輪をしてるから、ひと目で分かる」

「わかりました」

「じゃ、ね!」

 そしてグラントさんは立ち上がり、手をあげて挨拶すると、店を出ていった。あまり素振りを見せないようにしているけれど、結構急いでいるな。

「ごちそうさまでした」

 そして私も、袋から銀貨を出して会計を済ますと、家路についたのだった。


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