4-4 デート
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-レンガがコーラルとサファイアに会った箇所に少し表現を追加、ほか字句などを修正。
2023年1月22日-「陛下」→「女王陛下」に修正。
エメラルド様といっしょに、今度は順に階を下りつつ、市場の塔を歩く。
今歩いているところは、アクセサリーが多く並んでいる。あちらで一緒に指輪を見ている男女は、恋人だろうか?
あ、向こうの方には、本屋さんかな? 学院の図書館には及びもつかないが、なかなかの規模だ。行ってみたい。
ところが、しばらく回っていると、嫌な違和感を感じた。
なんだろう?
これは……例えるなら、隠蔽された術式を使っていて、魔力場と魔力場が干渉したときのような。
一方はエメラルド様の護衛が何かしているものだと、想像はつく。
でも、その相手になるのは、何?
一昨日の夜のこともある。まさかこんなところにと思うが、人の中に紛れ込むことに長けた悪魔がいないとも限らない、私は目を閉じて周囲に意識を集中する。
……人の動きが、おかしい。
たぶんあれが、エメラルド様の護衛と思われる方。そしてそれが……なにか譲るように?
「……あら」
私の手を引いていたエメラルド様が、抑えた驚き声を上げて立ち止まる。
とんっ!
私は、軽くエメラルド様の背中にぶつかった。
変な気配はしなかったはず?
それでも慌てて目を開けて、急いで周りを確認すると、エメラルド様の視線の向こうにいたのは1組のカップル。学院の制服を着ている。
「おや?」
むこうもエメラルド様に気づいたようで、こちらへとやってきた。
優しげな顔をした男性だが、長身でガッシリとした身体に学院の制服が、なかなか凛々しくかっこいい。
「隠れている護衛が気にしていたよ、君だったんだね。こんにちは、エメラルド嬢」
「……こんなところで会うのは奇遇ね、エメラルド。良く、元気になったわ」
菫髪の、華奢な人形を思わせる外見とはだいぶイメージの違う口調で話す女性はかなり小柄で、私よりも頭一つ以上低い。なかなかの身長差カップルだ。
エメラルド様と、お知り合いの様子だけれど……
お2人のエメラルド様のへ呼びかけに、私はぎくりと身体を固くする。これは、もしかしてこのお2人って、エメラルド様よりも偉い方?
私が内心ドキドキしながら、そっと様子をうかがっていると、
「……このようなところでお目にかかれて光栄です、殿下、姫様」
エメラルド様が目立ちすぎないように礼を取る。
「また王宮にも遊びに来てね。それじゃ、僕らはデートの途中だから」
殿下と呼ばれた男性はエメラルド様の礼を軽い感じで流しながらそう言うと、私に一瞥を向けた『姫様』をエスコートしながら去っていった。
「え!? サファイア様のほうが、歳上なんですか!?」
そのあと聞かされた、驚愕の事実。
「そうなの。王太弟殿下とうちの姫様は幼馴染でね。
子供の頃はサファイア様の方がずっと大きかったのだけれど、姫様はけっこう早く体が成熟されたから……」
微妙に言葉を選ぶエメラルド様。
ちなみに、サファイア様はルーツ公爵家のご令嬢で、お父上であるルーツ公爵はエメラルド様のエビナー侯爵家が属するグループの領袖、になるらしい。なので、エメラルド様が言うには『うちの姫様』だそうだ。
ん?
「ルーツ公爵様って、内大臣様ですか?」
「そうね。
国全体を指揮する執政官府、各地を治める10公家に対して、女王陛下の隣で聖都・王宮や王家を取り仕切るお仕事をされているわ。
お優しそうに見えて、なかなか一筋縄ではいかない方よ」
「そりゃ、そんなお仕事をされているのですから、一筋縄でいくわけはないと思いますけれど。
サファイア様は王太弟殿下のご婚約者様なのですか?」
「まだだけど、最有力と言ったところね。
執政官の近くや10公家、国外からお妃を迎えるにしても、いずれも今の均衡が崩れるもの。
それなら、王の近くでやり取りがあったほうが無難だわ」
なんだか、ため息が出るような理由だ。
「それじゃ、政略結婚なんですね」
「? いいえ。
王太弟殿下は、小さい頃からうちの姫様に夢中よ。
ただ、うちの姫様は『もっと国と王家のお役にたてるお后候補があるでしょう』って、あまり乗り気でないの。殿下が恋心をお持ちだって、気付いてないのよね。
こうなると、環境だけ整ってしまったのは、殿下にとって有り難くもあり迷惑でもあり、でしょうね。
今、殿下は、本当にうちの姫様の心を手に入れられるよう、だいぶ努力しておられるみたい」
なんだか、恋愛は難しい。
「どうしたの? 難しい顔をして。
学院でも優秀の誉れ高いレンガ様も、色恋には疎いご様子ね?」
からかうエメラルド様に、
「本当に、よくわかりません。
人間ほどよくわからないものはないって、こういうことなんでしょうかねぇ……」
ため息まじりで答えると。
「そうね、人の心は、本当にわからないものだと思うわ。
でも、だから楽しいとも、思わない?」
そういって、私の手を取ると、続けた。
「それじゃ、もう少し塔の中を周りましょう!」
そうして、2人で手をつないだまま、まだしばらくあちこちの店をめぐるのだった。
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