4-3 カフェ『ナナタマ』
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
2023年2月18日-お茶の種類を増やしました。
「予約しました、レンガ=アイセです」
『ナナタマ』に着いて、予約票を出してから店員さんにそう伝えると、すぐ店内に案内された。
お店の中は、すでにいっぱいである。
どちらかと言うと女子が多いが、あちらの落ち着いた年配のご夫婦なんかも、すごくよく雰囲気に溶け込んでいて素敵だ。
「窓際じゃないのは残念だけれど、さすがにそれは望みすぎね」
エメラルド様は、「それじゃレンガ様の顔でも見ていることにするわ」、なんて冗談をいう。
初めてのお店は、内装を見るだけでも楽しいが、メニューを見るときのドキドキはもう、たまらない。
ジュース、コーヒー、お茶だって紅・緑・黒……、飲み物も種類豊富。
ケーキはショート、チーズ、タルト……、こちらも目移りしてしまう。
サンドイッチなんかの軽食もあるが、私とエメラルド様は『お腹が空いているぶん、ケーキを食べたい!』と意見が一致した。
エメラルド様はハート型をしたぶどうの載ったタルトとティラミス、私はこんなとき頼りになる「パティシェのおすすめ」だ。
「……それと、パティシェのおすすめを2つ、ですか? ……承りました」
店員さんに注文を伝えると、楽しいお喋り。
「この店の果物は、カーン商会が取り扱うものの中でも、最高のものを使っていると聞くわ」
「カーン商会といえば、私が働いているパン屋さんの小麦もカーン商会から仕入れているそうです」
「なるほど、それならあの焼きそばパンの味も納得ね。
王宮の庭園でも、多くの苗がカーン商会から納品されていると聞くし」
「そういえば、カーン商会の椿油は学院生にも人気が高いですね」
ケーキの具材のことから、話があちこちに飛ぶのも、楽しい。
「お待たせいたしました」
待望のケーキが届く。
エメラルド様と私の前に2皿ずつ。私のケーキは「ショートケーキ」と「フルーツミックス」でした。
「「おいしい!」」
ケーキにフォークを付けて口に運び、エメラルド様といっしょに歓声を上げる。
「よかったら、ひとくち交換しない?」
エメラルド様はそう言って、ハート型のぶどうが1粒ささったフォークをこちらに向ける。
ママに『あーん』してもらったときのことを思い出して少し恥ずかしかったが、顔を近づけて美味しく頂いた。
「……キャー!」少し離れた席から女の子の歓声が聞こえて振り向く。あちらも何やらずいぶん盛り 上がっている様子だ。
「いろいろな味を覚えておくと、意外なところで役に立つのよね」
私が視線を戻すと、エメラルド様はそんな事を言いながら、ゆっくりとケーキを食べすすめていく。こんなところが、エメラルド様の才媛たる源泉の一部なのだろう。
楽しいケーキとおしゃべりの時間も終わり、会計。
「これでお願いするわ」
「ギルドカードですね、少々お待ち下さい」
店員さんはカウンターの下から何やら魔道具を取り出して、その上にエメラルド様から受け取った カードをかざすと、一瞬魔道具が光る。
「お待たせしました。またのご来店を、お待ちしています」
それで会計は終わりらしい。
店員さんはエメラルド様にカードを返すと、きれいなお辞儀で私達を見送ってくれた。
「エメラルド様、ギルドカードって、どういうことですか?」
「ギルドカードは各ギルドが発行する身分証だというのはご存知よね?
カードには所持者がギルドに預けてある資金の額が記録されていて、あの魔道具を通すとカードにその残高から店に支払いがあることが記録されるのよ。
それで、後日ギルドからお店にまとめて支払いが行われる、というわけ。
私のカードは会計院発行のものだからギルドカードではないのだけど、あの方はお間違えになったのね。たしかに、どちらかというと数は少ないと思うから」
会計院は、たしか貴族などの財産管理を受託する機関、だったかな。
こちらでも、似たような決済のやり方をしているのだろう。
なるほど。エメラルド様と一緒に過ごすと、勉強になるなあ。
などと思いながら、歩き出したエメラルド様に手を引かれて、あとをついていった。




