30-2 ヒスイ様たちと昼食を
学院について教室に入ると。
ト、ト、ト、と。ヒスイ様が私の前にやってきて、
「おはようございます、アメジスト様、レンガ様。
あの、レンガ様。きょうのお昼、私やクラスの皆様と一緒にお弁当しませんか?
私、レンガ様のぶんも、作ってきたので!」
と、誘ってくださった。
どうしましょうか?
隣を見ると、アジィ様の姿はなくて、いつの間にか自分の席にお座りになっている。
「お願いします、レンガ様。
皆、先週末からずっと、レンガ様のことを心配してますの。
色々と、教えて下さい」
ヒスイ様はそういうと、私の手を両手で包むように持ち上げた。
ヒスイ様の手は、どこかひんやりつやつやとしていて気持ちが良い。
ああ、そういえばリンザ様と戦う前に、皆さんの力をお借りしたんでした。
それなら、きちんとお話しておかなきゃダメですね。
「わかりました。
よろこんで、いただきます!」
私がそう答えると、教室のここそこから小さな拍手や歓声が聞こえた。
いや、さすがに反応多すぎでしょう!?
ふぅ。
ひと息ついて席に座ると、隣にメリーダ様の姿がない。
どうしたんだろう?
「エメラルド様なら、今日は体調を崩されてお休みだそうです」
私の後をついてきたらしいヒスイ様が、横からそう教えてくれた。
ああ、いろいろありましたもの、疲れが出ちゃったんですかね?
私のせいでも、ありますよね?
あとで、お見舞いにいきましょうか。
「あの、レンガ様。
差し出がましいようですが、あまりエメラルド様のことはお気になさらないほうが良いと思います。
エメラルド様にとってはいつものことですし、それで周りがあまり騒いでも、喜ばれないと思います」
なるほど、たしかにそうかも知れません。
でも。
「教えてくださって、ありがとうございます。
でも、私メリーダ様のことが気になりますし、お顔も見たいので。
私の我儘ですって、許してもらいます」
そんなふうに笑えば、ヒスイ様もどこか納得顔をされたのだった。
そして、午前の授業も終わり。
「さあ、レンガ様、お召し上がりください」
隣りに座ったヒスイ様が、お弁当を勧めてくださる。
学院の庭で、たくさんの友人達と、お弁当をいただく。
これは、なかなか嬉しくて幸せな食事ですよ。
一緒に食事をするクラスメイトは、16人。
大きな輪になりながら、それぞれのお弁当を食べる。
お話しながら、あちこちが入れ替わる。
「そういえば、レンガ様はアルバイトをされている上に成績優秀ですけれど、何かコツなどあるのですか?」
「そうですね。
基本書を何度か読むと、なにがどうなってそうなるかがわかってきますから、あとは問題をときながら具体例と関連付けて、どちらも記憶に定着させる感じですかね」
「ええと、なかなか基本書を読んでも意味がわからないのですが……」
「うーん、先生が授業で細かく説明してくださいますから、事前にどこがわからないかを把握しておくと良いんじゃないでしょうか」
「なるほど、予習を頑張ってみることにします」
まあ、こういうのはアジィ様のほうがたぶんお詳しいんでしょうけれど。
でも、色んな意見はあったほうが良いですよね。
私のやり方も、参考になれば良いんですけれど。
あ、このおにぎり、美味しいです。
「レンガ様、アルバイトって、どんなことをしてらっしゃるんですか?」
「『猫のパン』というパン屋さんで、基本的に配達のお仕事をしています。
夜はお店に出たり、お店が閉まったら会計のお手伝いもしてますよ。
なので、帰宅するとだいぶ夜も遅くになっちゃいます」
「まあ。大変じゃないですか?」
「大変ですけど、楽しいです。
一緒に仕事している人たちもいい人ばかりですし、店主のマリオさんはいわば私の恩人ですし」
「私も、いちど食べてみたいですわ。
今度、行ってみようかしら」
「大歓迎ですよ!
私も個人的にサービスしますから、ぜひ来てください!」
私がそういうと、なぜか皆がしばらく顔を赤く染めたのだった。
どうしたんでしょう? 私、またなにかやっちゃいました!?
口に入れた唐揚げの味も、わからなくなっちゃいました。
「レンガ様、先日の戦い、無事に勝利されておめでとうございます。
存じておりましたけれど、お強いのですね」
「うーん、でも、だいぶ危なかったんですよね。
リンザ様に隙がなければ、私が負けていたんじゃないでしょうか」
「……そうでしたの。
アメジスト様もエメラルド様も、ずいぶんオブラートに包んでお話くださったのですね。
ね、ヒスイ様?」
「それは、レンガ様もですわよね?」
う、ヒスイ様、鋭いですね。
「簡単にお話になれないことがあるのは、わかりましたから。
レンガ様がそうお考えになるなら、私はご無理にとは申しませんわ。
……さあレンガ様、こちらもお食べくださいな」
ヒスイ様が口元におかずを運んでくださる。
あ、これ、『あーん』ですね。
そしてヒスイ様の顔が間近に迫って。
「でも。私、それでもレンガ様とご一緒したいと覚悟を決めました。
泥棒猫でも、女狐でも、その他の誰かでも。相手になってみせますわ。
ですから、いつか私にもレンガ様のいろいろをもっとお聞かせくださいね」
笑顔で、小声で、そんなことを囁かれたのだった。
……なんだか、心臓がドキドキしますよ?
ちょっと、お茶を飲んで落ち着きましょう。
そんなこんなで、楽しいお昼も進んで。
私の隣に座る人も何回か入れ替わったけれど、ってあれ?
片方はずっとヒスイ様が座っていたような気がしますよ?
「あの、レンガ様」
「何でしょうか、ヒスイ様」
「実は、今度寮生の皆で料理をしてみることにしましたの。
それで、ぜひレンガ様に味見をお願いしたいのですけれど、だめでしょうか?」
「はい……え?
あの、嫌じゃないですけれど、どうして私なんですか?」
「レンガ様は、表情が素直なので。
味見をお願いするのに良いのではという話になりました」
突然の指名に驚いて理由を聞いてみれば、なんだかちょっと情けなくなる理由でした。
まあ、貴族の方とか多いですし、そういった方はなかなか表情にも出さないのかもしれません。
……私も、そういうのを憶えたほうが良いんでしょうか?
「そうですか、わかりました。
いつお邪魔すれば良いですか?」
「明後日の朝、寮をお尋ねください。
ああ、もしよろしければ、着替えももって。
寮には大きなお風呂もありますの。
とても気持ちがいいので、ぜひご一緒しませんか?」
大きなお風呂!
確かに、あれは気持ちいいですし、楽しいですよね!
『ありのままの姿でお話することで、隠し立てなくお互いに胸襟をひらく』ことが、できますし!
「ぜひ、そのお風呂にも入りたいです!」
私がそう答えると、食事の輪のあちこちから歓声が上がり。
「はい!
では、寮の方にはお話しておきます。
楽しみですわ」
ヒスイ様はそう仰って、私の手をギュッと握りながら、嬉しそうに振るのだった。
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