29-3 『研究会』で『ヤキトリ』『バター』と手を合わせること
授業が終われば、『研究会』。
円卓に座るのは、ユーリ様、シリル様、ラー様、ミイツ様、ミズナ様、それから私。全員が出席だ。
そして、私の後ろには『ヤキトリ』と『バター』が直立不動で立っている。
「『オリヒメ』様のお知り合いにお会いできるとは、光栄ですニャ。
今後とも、どうぞよろしくおねがいしますニャ」
紹介された『バター』は、緊張しきった様子でそう言うと、膝を折った。
うーん、さすが神殿の祀る運命の神様、凄いんですね!
「うん、こちらこそ。
よろしく、ね?」
ユーリ様は、いつもの親しみやすい笑顔で答えてらっしゃる。
この前アジィ様のお屋敷で見たユーリ様は、だいぶよそ行きだったみたいですね。
私は、こっちのユーリ様のほうが、断然好きですよ!
私は『研究会』に来ると、今朝『ヤキトリ』や『バター』と話したことを包み隠さず報告した。
そしたら、「力は使えなくていいから、2人の顔が見たい」といわれて、『ヤキトリ』と『バター』を同時に喚んだ。
そして、皆の自己紹介を終える。イマ、ココ。
「2人揃ってその姿をとると、ほぼ力は使えないんですか?」
「1割位なら、使っても大丈夫だろうという話にはなりました」
「でも、マスターの魔力の制御をしながら、姿をつくって、更に自分の力も使うのは、だいぶめんどくさいからあまりしたくないのニャ」
「しかも、私と『バター』が足並みをそろえなくてはいけませんし。かなり効率が悪いと思います」
「それでも、そのへんの騎士や魔術師より強いんじゃないかな?
まあ、それは後で実験してみようか。
あと。どちらかが魔力制御、どちらかが実体化で分業したら、楽にならない?」
「マスターならまだしも……」
「『バター』に私の容姿を任せるなど、できません」
「お互い様だニャ」
ミズナ様とラー様の問いに、『ヤキトリ』と『バター』が答える。
「なるほど。嫌でも、不可能ではないのね。
その時使える力は?」
「……それでも、2割弱かと」
「倍近くになるじゃない。
たぶん、元が大きいだけに差も大きいでしょうね」
さすがシリル様というか。遠慮なく確認されましたね。
「それじゃ、せっかくだし一度戦うところを見せてもらいたいかな。
レンガ様、お願いできる?」
まあ、そうなりますよね。
私が微笑むミイツ様に頷くと、
「『ヤキトリ』さんと『バター』さんは、同時具現化の自己制御でお願いね。
武器は、模擬剣を使って。レンガ様の『宝具』は、起動して防御にだけ使用可、というところかな。
では、『ヤキトリ』さんから始めてください」
ミイツ様の言葉に従って用意をして、魔術試験場の中央に進んで……
「あ。
あの、私は自分の強化はできるんですか?」
「はい。
意識して私達の力を使おうとしなければ、ご主人さまの魔力だけを使った強化ができるはずです」
『ヤキトリ』が答えてくれたので。
「なるほど。
では、いきますよ!」
私は、魔力強化をして、突っ込む!
前に、『ヤキトリ』はたしか特殊能力に優れていると言っていた気がします。
それなら、接近戦を試しますよ!
エビナー邸で教えてもらった動きを思い出しながら、剣を突き、薙ぐ。
しかし『ヤキトリ』は、ひらりひらりと踊るように躱していった。
くる、くる、と。
踊る『ヤキトリ』の、指が宙に円を描けば。
炎の羽根が宙に生まれて、ヒュンヒュンと私に襲いかかる。
あちら、こちら、そちら。あらゆる方向から私を狙い、あらゆる方向から私の動きを止めようとするけれど。
どちらから羽が飛んできても、軽いクィンクィンという音を響かせながら、私の宝具にあたって落ちる。
「ああ、泉でご主人さまにお会いしたときも、そうでしたね。
でも、これならどうです?」
後ろにとんで、距離を取る『ヤキトリ』。
実戦ならすぐに追うところですけど、なにかしたいことがありそうですから、ちょっと様子を見ることにしましょう。
バッ! っと。
『ヤキトリ』が両手を天にかざすと、宙に無数の羽根が浮かぶ。
サッ! っと。
『ヤキトリ』が手を振り下ろせば、それに従うように一翼の羽根が私に降り注ぐ。
私の周りに突き立つ数多の羽根。
これって、あの泉での戦いのときにサファイア様が受けていた攻撃に似ていますね。あの、龍の鱗も貫いていたかもしれない攻撃に。
でも。
私の『宝具』は断続的に音を奏で、私に届く羽根は1枚たりともない。
「ずるいですね、その『宝具』」
「そうかもしれませんね。
じゃあ、今度はこちらからいきますよ!」
私は一気に連続攻撃を仕掛ける。
エビナー邸で見たやつだ。付け焼き刃の、モノマネですけど!
でも、そんな私の剣でも『ヤキトリ』に届くかという時。
「それでは、私もこちらに集中しますか」
宙に浮かぶ羽は消え、『ヤキトリ』の速度が上がる。
私の剣は、空を切った。
結局、基本的に私のほうが『ヤキトリ』より速いものの、『ヤキトリ』はピンポイントで加速して、私の攻撃は当たらない。
しかし、『ヤキトリ』も私に有効な攻撃ができず、ミイツ様が終了を宣言して引き分けになった。
「なるほどね。
あの速度管理は、見事だったな。
魔力の調整を素晴らしく緻密にしているんだろうね」
ラー様が『ヤキトリ』の魔力制御を褒めると、
「レンガ様も、エビナー家で剣を学ばれたようですね。
まだ少しかじっただけのようですけれど、そこまで応用できるのはたいしたものです」
ミズナ様は私の剣を褒めてくださった。
ちょっと嬉しいですけれど、これだけでエビナー家で習ったってわかるものなんですね。
そして、つぎは私と『バター』。
結局、私はバターに速度で勝てず、だんだん追い込まれて防御を崩されたところで、ミイツ様のストップがかかった。
こんどは、私の負けですね。
「レンガと差があると言っても、この状態ではこの程度なのね」
シリル様がそんなふうに評されてから、紅茶を口に運ばれた。
「お疲れ、レンガ様。
レンガ様もこちらへどうぞ。お茶に、お菓子もあるわ」
ミイツ様に呼ばれて、テーブルに戻れば。
そこには、見間違えるはずもない、『猫のパン』のお菓子が並んでいた。
わぁい!
「いただきます!」
挨拶もそこそこに、両手にお菓子を掴んで食べ始める。
そうそう、この味ですよ!
「ふふ。良かったね、レンガちゃん」
「はい!おいしいです!」
「それもそうだけど。
さっきあの程度暴れたくらいなら、魔力の乱れは全然ないみたいだね。
うん、安定してる。
心配しすぎなくて、良いからね」
ユーリ様に言われて、やっと気付いた。
そうか、私と『ヤキトリ』と『バター』がどこまで安定しているかも、確認してくださったんですね。
これなら、少しくらい無理をしても大丈夫そうです。
「でも、あんまり調子に乗っちゃ、ダメよ?」
そんな事を考えていたら、さっそく釘を刺されてしまった。
はい、きをつけます。
私は頭の中で返事をしながら、お菓子でいっぱいの口をモグモグと動かしたのだった。
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