29-2 ヒスイ様と昼食を
「おはようございます、皆様!」
「おはようございます、アジィ様、レンガ様」
学院に行くと、クラスはとても騒がしかった。
でも、その中心にいたのは……
「たいへんでしたね、エメラルド様」
「ご無事で、何よりですわ」
「もし、なにかお手伝いできることがあれば、お申し付けくださいね」
「微力ですが、お役に立ちたいです」
わぁ~、大変なことになってますよ。
「ほら、レンガ様。
お邪魔しては、いけないわ」
アジィ様に手を引かれて、教室の反対側あたりに移動する。
「まあ、いってしまえば侯爵家に取り入るチャンスですもの。
なんとか声をかけてほしいでしょうね。
エメラルド様も、今後のお付き合いを考えて、何人かお選びになるでしょう。
家のトラブルを利用しても縁をつくり、時には上手に借りをつくるのも、貴族のお仕事ですもの」
「はぁぁぁ……、難しいものですね。
私には、できる気がしませんよ」
「でも、レンガ様にも憶えて欲しいわ。
だって、私や、まあエメラルド様とも親しくしていただけるのなら、嫌でも巻き込んでしまうこともあるでしょうから」
なるほど、そうなんですね。
それなら。
「わかりました、がんばります!」
私がそういうと、アジィ様はそれは嬉しそうに微笑んで、
「私が、隣でお手伝いいたしますわ、レンガ様」
そういいながら、私のほうに手をそっと伸ばすアジィ様。
私も手をそっとつなぐ。
そのとき。
「おはようございます、アメジスト様、レンガ様」
かけられた声に振り向くと、ヒスイ様が満面の笑顔でそこにいた。
「アメジスト様、ずいぶんレンガ様と仲が良さそうですね?
先週の最後にレクトの魔導騎士と剣術修練場で決着をつけたあと、いったい何があったんですか?
私、人払のお手伝いで後をアメジスト様とエメラルド様におまかせしたあと、まだ何もお話を聞けていませんし。
そうだ、レンガ様。
差し支えがなければ、今日のお昼、中庭で私にお話を聞かせてください。
良いところを知っていますの。お弁当も用意してありますわ」
ヒスイ様が、息もつかずに一気に話す。
「は、はい。わかりました」
私が思わず頷くと。
「嬉しい。楽しみです!
……それから、アメジスト様。1限目の授業が終わったら、クラスの有志と少しお話させてくださいな。
否は、ないですよ。
それでは」
ヒスイ様はアジィ様に向かってそれはもう美しくにっこりと微笑むと、くるりとスカートを翻して、メリーダ様の方へと歩いていった。
アジィ様が口を挟む間がありませんでしたよ。
「なかなか、油断ならないわね」
アジィ様が、口の中で小さく仰った。
お昼に、中庭で、ヒスイ様と一緒にお弁当をいただく。
植え込みに隠れて見えないその場所は、のんびりお昼を食べるのにはうってつけだった。あそこの花もきれいですし。
結局、私は。
エビナー邸でレクトから匿ってもらっていたこと、
結局襲われて、エビナー邸で皆とレクト相手に戦ったこと、
それでエビナー邸が崩壊したので、今度はグリシーヌ家にお世話になっていること、
などをお話することになった。
なんとか、フェイ様やガゼルさんやシリル様や、『ヤキトリ』や『バター』のことは隠しましたよ!
「本当に大変でしたね、お疲れさまでした。
さあ、このサンドイッチをお食べくださいな」
前かがみになりバスケットからサンドイッチを取り出すヒスイ様。
胸元から見える谷間がセクシーです。たぶん、すごくきれいな形をしてそうです。
「あ、お茶もご用意しています。ちょっと待って下さいね」
後ろに体を捻りながら手をのばすヒスイ様。
ああ、そんな姿勢じゃ、スカートの中が見えちゃいますよ。……緑ですか。リボンにフリルとレースが、可愛いです。
「ふふ、レンガ様。
いま、なにを見てらっしゃったんですか?」
ヒスイ様にそう聞かれて、ドキッとする。
本当に! 何を見ているんでしょうね? 私って。
「ああ、あそこのお花って、キレイですよね」
ちょうど私の目線にあった花壇を見て、ヒスイ様は納得してくれたみたいだった。ホッ、助かりました。
「そういえば、朝はアメジスト様と手をつないでらっしゃいましたね。
私も、いいですか?」
ヒスイ様が私の手をとって、胸元の高さで両手で包み込む。
ヒスイ様の手は、ひんやりとしていてどこか気持ちが良かった。
「レンガ様って、ミステリアスですよね」
「そうですか?」
思っても見なかったヒスイ様の言葉に、聞き返すと。
「はい。
普段の言動なんかでも、結構そういう所あるんですよ?
でも、私は特に表情かな、なんて思います。
いつものレンガ様は、結構表情が豊かで、笑顔なんかとても魅力的だと思うんですけれど。
でも、たまにすごく表情がない時があって。
私、どうしたんだろう、って妙に不安になって。
でもしばらく見ていたら、それからまた、ほころぶように表情が出てきて。
なんだか、ホッとするんです」
ヒスイ様は、私の顔をずっと見ながら、片手を私の頬にそっと触れて。
「なんだか、その笑顔を護って差し上げたくなるような。
そして。
その笑顔をずっと見ていたいな。
なんて思ったり、するんですよね」
そう言いながら、ヒスイ様は、私に輝くような笑顔をみせてくださった。
そのまま、お互いにじっと見つめ合うこと、しばらくして。
「ああ、そろそろ教室に戻らないと、午後の授業に間に合わなくなりますね」
ヒスイ様は、残念そうに手を離すと。
「では、今日はここまでにしましょう。
また、ご一緒してくださいね!」
立ち上がって、笑顔でそう仰ってくださった。
俯きながら、
「泥棒猫に、女狐め。
聖王国の侯爵家だからと、譲るのではなかったわ。
私も、もっと攻めないと」
なんて、聞こえた気がするのは、きっと気のせいですよね?
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