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29-1 『ヤキトリ』と『バター』とお風呂をすること

「うーん!

 やっぱり。大きなお風呂は、気持ちがいいですね!」

 せっかくなので、じゃぶじゃぶ泳いでみる。

 裸でお湯の中を泳いだことはなかったから、なんだかものすごく新鮮で面白い。


「ご主人さま、はしゃがないでください。

 波とか飛沫がかかります」

「マスターは泳げるんだニャア。

 どこで練習したのかニャ?」

『ヤキトリ』は頭に朱のタオルを巻いて髪をまとめながらお湯の中、『バター』は湯船の端に座りながら片あぐらだ


 ここは、多分私の脳内。


 時間は、まだ夜明け前。

 私の身体は、ベッドで寝ている。パジャマ姿のアジィ様と一緒に。

『猫のパン』の仕事に間に合うよう目が覚めたら、アジィ様の隣では少し起きるのに早すぎて。

 それで、『ヤキトリ』と『バター』を呼んで、少し親睦を深めてみることにしたわけですが。


『バター』の問いに、私は答える。

「学院で、水泳というのがあるんですよ。

 学院の基礎を作った当時のマヨネーズ子爵が血の涙を流しながら導入を主張したという、伝統の授業で、女子は必修になっています。

 たしかに水泳は、体力もつきますし行動の幅も広がるんですよね」

 ちなみに、学院を整備した功績でマヨネーズ子爵が伯爵に叙されたというのは、学院史と王国史にも出てきます。

「マスターもそれでおぼえたのかニャ?」

「はい。

 でも、私下手くそで、すぐ水を飲んじゃうんですよ。

 顔を水につけずにすみますし、『平泳ぎ』というやつが、いちばん得意です」

「だから、泳がないでください」

「『ヤキトリ』は、よくそんなに湯に漬かっていて平気だニャ」

「胸が浮いて軽くなるから、身体が楽なんですよ。

『バター』には、わからないかも知れませんが」

「にゃにい!?

 そんな物ついていても、動くのに邪魔になるだけニャ!」

「合理的で、良いですね」


『ヤキトリ』、余裕ですね。

 私も、昔は『バター』の側だったので、憤る気持ちもわかりますよ。

 今は、どちらかと言うと『ヤキトリ』の側ですが。うふふ。


「まあ、ずっと湯に入っているかどうかはともかく、大量の湯に漬かるというのは気持ちがいいものなのニャア。

 マスターが『ありのままの姿でお湯に入って話をすることで、隠し立てなくお互いに胸襟をひらくことができる』なんて言い出したときには、ついにおかしくなったのかと思ったけどニャ」

「私は、大きなお風呂にはいるご主人さまを羨ましいと思って見てましたけれどね。

 ご主人さまと会わなかったら、食事の後に水浴をするつもりでしたし」

 ああ、『食事』は水竜、『水浴』はあの泉ですか。蒸発しないんですね?


「でも、この『私達の世界』に、お風呂の他にも色んなものをつくっていくのは、マスターの魔力制御の訓練にいいかも知れないニャア」

「そうですね。

 これは、いわば潜在魔力をイメージ化して管理することですし、作られたものを私達が利用するのはご主人さまの魔力と馴染んで調和が取れていくことになるでしょうから」

「他に、なにか作れないかニャ?」

「いきなりあれこれ作ろうとしてしまうと、負荷がかかりすぎてかえって良くないかも知れません。

 ゆっくり進めましょう」

「それも、そうだニャ。

 1日1つを目標に、積み上げてみるかニャ。

 ニャ? ご主人さま」

「わかりました。そうしてみます」

 おもうんですけれど、『ヤキトリ』も『バター』も、結構賢いですよね?


「そういえば……」

『バター』がお湯に入り直しながら、そんな事をいったあと一度言葉を止め、舌なめずりをする。

「『バター』、どうしたんですか?

 もったいぶらないでください」

 私が先を促すと、

「そういえば、ニャ。

 一昨日にマスター、魔術師から『私達のどちらかがサポートに回ることで、もう片方が力を使えるのか』って聞かれてたニャ?

 あれたぶん、それなりにならできるニャよ?」

「え!?

 できるんですか?

 それなり、ってどういうことですか?」

「私達の力を使うのと魔力制御をするのとは、綱引きのような関係になると思います。

 制御側がマスターの力もはいるぶん有利ですが、いまはあまり頼りになりませんので、全力で綱を引きあえば制御しきれなくなる恐れも十分あります。

 逆に、加減をすれば、たぶん安全に力を使えるでしょう」

「まあ、余裕を見て7割位を目安にするといいんじゃないかにゃあ?

 もちろん、その範囲で実体化だってできると思うニャ。

 実体化もするならそこにも魔力を使うから、実体化以外に使える力は、まあ5割目処かにゃあ」


『ヤキトリ』や『バター』の力の7割っていうだけで、もうかなり常識の範囲を超えると思いますよ!?

 5割だって、十分に規格外だと思います。


「あー、あとにゃ?

 マスターには少し嫌な話かもしれニャいけど、大事なこというから、しっかり聞くニャ?」

「?

 はい。しっかり聞きます」

 湯船の中で、正座する私。

「あのですね。

 マスターの力は、私達の力を合わせたより、はっきり言ってとても弱いです」

 ぐっ、言い難いことをはっきり口に出しましたね!

 なのに、その後『ヤキトリ』は少し口籠るように、

「なので……」

「『ヤキトリ』は、言いにくいかニャ?

 はっきり言ってしまえば、私と『ヤキトリ』がその気になって力を合わせれば、マスターを無視して主導権を取れると思うニャ」

「それが、具体的にどんな状況になるかはわかりませんけれど。

 あとは私と『バター』がご主人さまの体の支配権を争うことになるのか、マスターの体が消し飛んで私と『バター』が姿を取り戻せるのか」

「だからニャ?

 マスターは私達をあまり仲良くさせるべきじゃないニャ。

 もし今後私達みたいなのが増えるようニャら、分断して互いに争うように仕向けなきゃ駄目ニャ。

 少なくとも、マスターの力が私達を上回るまで」

「ご主人さまの趣味にはあわないかも知れませんが、大事なことです。

 良く、お考えください」

『ヤキトリ』と『バター』が、真剣な表情で私を見つめてくる。


 そんな!

 たしかに、そうかもしれませんけれど!

 でも、そんなの嫌ですよ!

「そんなの、嫌ですよ!

 ……なんで、私がずっと争う『ヤキトリ』と『バター』を見ていなくちゃならないんですか。

 騒がしくて、やってられませんよ、きっと。

 どうか、仲良くしててくださいよ」

「……まったく、言うと思ったニャ」

「ご主人さまが力をつけてくださったら、解決するので」

 呆れたような、『バター』と『ヤキトリ』。


 プチン。

 私の中の何かが、切れる音がした。

「ふ、ふざけないでください!

 私に食べられておいて、なにが『力をつけろ』ですか!

 偉そうにも、程があります。

 だいたい、……! ……! ……!」

 なんだか、怒りが強すぎて、言いたいことが言葉にならないし、うまく考えもまとまらなくなってきました。


 あ、そうだ。

 もう一度、食べてやりましょうかね?

 この状態でさらに食べたら、どうなるんでしょう?


 意外と美味しいかも知れません。じゅるり。


「ご、ご主人さま、落ち着いてください!」

「わ、私たちが悪かったのニャ!

 落ち着いて、まずは座るニャ!」

 ああ、いつの間にか湯船に仁王立ちでしたよ。

 私はゆっくりとお湯に入り直す。


「まったく、そんな迫力があるなら、最初から出せばいいのニャ。

 そしたら、私達の制御だってお安いものだと思うのニャ」

「というか、その状態を維持できるのなら、私達どころか多少同類が増えても、心配なさそうですね。

 でも、以前はそんなことはなかったと思います。

 もしかして、『バター』を食べることでご主人さまが成長されたんでしょうか。

 ……『成長』と言っていいのか、少しためらいますけれど」

「めでたくもあり、めでたくもなし、かニャ。

 でも、さっき言ったことは、気にかけておいてほしいニャ」

「はい。もしものことがあるのは、忘れないでくださいね」

『バター』と『ヤキトリ』は、真剣な目でそう言った。


 なんだ。

 これって、私を心配してくれたんじゃないですか。

 わざわざ言いにくいことを、悪ぶって教えてくれたんですね。

 全く、こんな不器用なところ、誰に似たんでしょう?


「2人の気持ちはわかりました。気をつけます。

 ……ありがとう」

「「わかればいいです/ニャ」」

 声を揃えて言う『ヤキトリ』と『バター』を見ていたら、思わず笑顔がこぼれた。

 はい。確かに、気持ちを受け取りましたよ、2人とも。

 これからも、よろしくおねがいしますね。



「……ん?」

 目を開けると、目の前にアジィ様の顔。

「おはよう、レンガ様。

 私は、もう少し寝顔を見ていても良かったのだけど」


 はっ!今、何時ですか?

「うふふ、でも。

 そろそろ起きないと、学院に遅れてしまうわね。

 それでは、朝食をとりに行きましょうか」

 アジィ様はそう言いつつも、そのまま目を閉じるので。

 私は、唇で軽くアジィ様の頬に触れる。

 それで、アジィ様はにっこりと微笑うと、私の手を取りベッドを下りる。


 ああ、アジィ様がああ仰るということは、今日は学院があるんですね。いそがないと。

 私も慌てて、朝の準備を始めたのだった。


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