28-2 お茶の準備のお手伝い
2024年1月2日-誤字修正
「はぁ。エビナー邸崩壊事件のせいで、今日は学院はお休みですか」
「先程、学院から連絡があったらしいわ」
「まあ、しかたないですよね。
レクトの王様や残りの魔導騎士達はまだ聖都にいるみたいですし、もしまた私が襲われて学院に迷惑をおかけしたら、申し訳ないにもほどがあります」
「レクトはあまり冷静で思慮深い方々とは聞いていないから、短慮を起こすことは考えられるわ。
レンガ様には申し訳ないけれど、もう少しグリシーヌ家に滞在してね」
「はい。ありがとうございます」
私が微笑んで答えると、アジィ様もにっこりと笑って。
「それから、学院の休みを伝える使いが来たあと、こんどはエメラルド様から使いが来ました」
「メリーダ様から?」
「ええ。
レンガ様のことが心配だから、午後からグリシーヌ家を訪ねたいと」
「ああ、メリーダ様が来てくださるんですね。
色んな人に心配してもらえて、申し訳ないですけど、なんか幸せです」
「うふふ。
それで、エメラルド様をお迎えする準備をしなければならないのだけれど。
よろしければ、レンガ様も一緒に考えてくださらないかしら?」
メリーダ様をお迎えする準備なら、ぜひ手伝わせてもらいたいです!
「わかりました、よろこんで!」
私が笑顔で言えば、アジィ様の笑顔もワントーン上がった。
「それでは、まず場所を考えましょう」
「え?
応接室じゃ問題あるんですか?
それとも、アジィ様のお部屋とか?」
私は当然と思ってたことを聞かれて驚いたけれど、アジィ様は笑顔で、
「建物の中でも良いけれど。
庭でお茶会も悪くないと思うの。
いちど、レンガ様も御覧くださいな」
そういいながら、私の手を取って庭へと連れ出してくださった。
アジィ様に手を引かれ、侯爵邸のお庭の散策。
うしろを、執事のカルセドニさんとメイドのシトリンさんがついてくる。
かなり広い庭には、花壇が整備され、木々が植えられ、小川が流れ、小さな橋がかかり、池が置かれていた。
「ああ、今の季節って、こんなに花が綺麗だったんですね」
「うちの庭師が、丹精しているの。
お父様も花が好きだから、力の入れようはひとしおね。
正門を入ったところにある花壇なんかは、特にご自慢よ」
ああ、たしかに。
ここからでも遠目に見えますけれど、あの花壇は思わず目を引かれますね。
ん?
ここなら、あちらには木々の茂っているのも見えますし、小川のせせらぎの音もなかなかいいんじゃないでしょうか?
「あの、アジィ様。
ここにテーブルを置くのは、いかがですか?」
「良いと思うわ。
陽射しも良い感じだし、花も木も小川も、この時期は特に素敵ね!」
はい。でも、なんだか。今日の明るい陽射しよりも、アジィ様の笑顔のほうが眩しく感じます。
「では、つぎにテーブルクロスを選びましょうか」
すると、執事さんが布見本を見せてくれた。
わあ、布見本の厚さ、手のひらくらいありますよ!
アレを全部、見なくてはいけないんでしょうか? 少し、気が遠くなります。
「ふふ。
似た色を順に綴じてあるから、大体の色を選んでから、どんな模様が良いかとかを選んでね」
アジィ様のアドバイスが、有り難い。
うーん、でも、どんな色が良いですかね?
私は、パラパラと、色見本を眺めていく。
横から一緒に覗き込む、アジィ様の体温を感じて。
ちらりと視線を向けると、アジィ様の横顔。うん、綺麗です。
ああ、あの小さなピンク色の唇で、私は夜明けにキスされたんだな、なんて思わず考えてしまった。
「どうしたの、レンガ様?
手が、止まっているわ。
この色が良いの?」
へ?
あ、そうでした。テーブルクロスを選んでいたんでしたね!
慌てて、もう一度色見本に集中する。
ん? でも。
この色って、普通によくありませんか?
「あ、はい。
これ、なかなかいいと思いませんか?」
「そうね。
季節にも合うし、柄も控えめで、悪くないと思うわ。
それじゃ、これにしましょうか」
「あとは、茶器にお茶や茶菓子ね。
テイスティングに行きましょう」
私はまたアジィ様に手を引かれ、食堂へと案内された。
そこには、たくさんのティーセットとお茶の葉が並んでいた。
「どんなものがいいかしら。
レンガ様、イメージはあったりする?」
「うーん……
わたしは、ゆっくり飲めるお茶が良いですけれど。
落ち着く感じのものが良いです」
「そう。
カルセドニ、用意を」
アジィ様の指示で、執事さんが5種類ほどのお茶を淹れてくれた。
深い味のもの、花の香りがするもの、フルーツの甘味酸味が混じったもの、どれも美味しかったけれど。
「そうですね、私はこの香りのお茶が良いです」
「薔薇と菫のハーブティね。
カーン商会伝統の定番商品ですし、これにしましょうか」
ああ、こんなところにも、カーン商会。
ラー様のお店、ほんと手広いですね!
「それでは、あとはカルセドニたちに任せましょう。
おねがいしますね」
「お任せください、お嬢様。
それにしても、仲睦まじいご様子でしたね。
まるで、ご夫婦で一緒に差配されておられるようでした。
お兄様がご不在で、良かったですね」
「もう!
カルセドニったら、からかわないで」
アジィ様が少し顔を赤くして、怒っていらっしゃる。
へぇ、アジィ様ってお兄様がいらっしゃるんですね。
私は、もっとアジィ様のことも聞いてみたいな、と思ったのでした。
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