3-2 学院長
2020年10月25日-行間や句読点などを修正。内容に変更はありません。
2021年10月02日-字句などを修正。後書きを削除。内容に変更はありません。
学院に着いて教室にはいる。今日は授業開始までまだまだ時間がある。
荷物をおいてアメジスト様の席に向かう。
「アメジスト様、おはようございます」
「おはよう、レンガ様。……あら? 今日は香水をお使いになっているの?」
「あ、それは、頂き物の入浴剤の残り香かなと思います。今日は朝お風呂を使ってきたので」
「そう。なにか御用?」
「えーと、奨学金のことですが、ありがとうございました。いまみてるんですけれど、どれも微妙に合わなくて」
「そう? ご家族がいない方宛のものとか、成績優秀者宛のものとか、使えそうかと思ったのだけど?」
「学費は、出していただいている方がいるので、大丈夫なんです。生活費もアルバイトで一応なんとかなってますし」
「もう少し余裕を持つべきじゃない?」
「アルバイトも勉強になっていると思っていますから」
「そう。……でもねぇ……」
アメジスト様の目には、どことなく心配そうな色が浮かんでいる。
「そういえば、焼きそばパンが入手できたんですけれど、おひとつどうですか?」
そういいながら、紙袋を出す。
「……あら」
少しだけ驚いた声のあと、私の顔と紙袋を何回か交互に見て、なにか納得したような表情になってから、焼きそばパンを受け取ってくれた。
良かった、断られたらどうしようかと思っちゃった。
「アルバイト、頑張ってね。でも、学院には遅れないように」
アメジスト様はそう言いながら前を向き、ゆっくりと焼きそばパンの入った袋を机においた。
「精一杯、がんばります」
そう約束して、私は自分の席に戻った。
午前の授業が終わる。
今日はエメラルド様の姿が見えず、まだ焼きそばパンを渡せていない。お休みなのだろうか?
午後にはいらっしゃるだろうか? とりあえず、自分の用事を済ませてこよう。
学院の洗濯物受付にいき、汚れた制服と手数料を渡す。
学院の制服は色々特殊な加工がされているらしく、洗うときはここに頼むのが一番だ。
引換票を受け取って、こんどは事務棟へ。アルバイト許可の更新を済ませておこう。
学院生は基本的には学業に専念することとされているが、事情によりその他の活動が許可される。
グループを作っての研究とか、所属する騎士団や神殿の活動、アルバイトなどもその1つだ。
受付をすませ順番を待っていると、気品がある老年の女性が通りかかり、私を見て声をかけてくださった。
「あら、レンガさん。どう? 学院の生活は大丈夫?」
「はい、学院長先生には、色々ご配慮ご尽力をいただき、ありがとうございます」
「いいのよ。
ん? いい匂いがするわね。今日はもしかして、授業が終わったらデートかしら?」
「いただきものの入浴剤を使っただけですよ」
からかうような声に、私も苦笑しながら返す。
「あら。隠し事は良くないわよ?
でも、あなたがデートなんてお父様が聞かれたら、どんな顔をなさったでしょうね。
私、前に立つ自信がないわ」
そう、軽い感じで仰ってから。
「……あなたのご両親のことは、残念だったわ。私もできるだけ力になるから、いつでも学院長室を訪ねてね」
包まれるような温かい声が続けられた。
「そういえば、アルバイトをしているのですって?
ご両親の遺産を管理している方に伝えれば、学費だけでなく、生活費などもいただけると思いますよ?」
「いえ、大丈夫です。
アルバイトは楽しいですし、……それに、ひとりにならなくてすみますから」
学院長先生の問いにそう答えて、微笑む。
「『猫のパン』、だったかしら。私も今度、いってみようかしらね。
……あら、随分と長話をしてしまったわ。ごめんなさいね」
向こうで事務の人がなんとも声をかけづらそうにウロウロしているのに気づき、学院長先生は事務の人にも「ごめんなさいね」といってから奥の方へと進んでいかれた。
「レンガさん、アルバイト許可の更新は問題ないです。では、この書類をお渡ししておきますね」
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取ると、ファイルにしまって、教室へと戻った。




