27-4 グリシーヌ家でお話することは
「それでは、皆様中へ」
アジィ様に促されて、建物の中へと進むのは、ヒューゴ様と私。
ジャロ師とメリーダ様は、挨拶を交わして、一旦ここでお別れだ。
メリーダ様がものすごく名残惜しそうにしておられたのが、印象的だった。
やっぱり戻ろうか、なんて思っちゃいましたよ。
たくさんの騎士や兵士、そこに混じった魔術師が並ぶ廊下を通って、応接室と思われる部屋に通される。
豪華さはエビナー邸に勝るとも劣らないが、エビナー邸が重厚なら、こちらは瀟洒というかんじだろうか。
美しいシャンデリアが光を散らし、棚に並んだ瓶やグラスが輝いている。
あそこにかかっている絵も、点を集めて描いたような、明るく鮮やかなものだ。
中にいるのは、4人。
中央に座られているのが侯爵様、その隣の女性は奥様だろうか?
斜め後ろに立つのはたぶん執事さん、ワゴンの隣は給仕のメイドさんだろう。
「幾重にもお騒がせして、申し訳ありません」
そういいながら机の横にユーリ様が、ならんでミイツ様が座られる。
スウィフトさんは目礼をして、侯爵様の斜め後ろ、執事さんの反対側に立たれた。
「ようこそ、皆様。
こちらの席にお座りください」
私達は執事さんに、ヒューゴ様、私、アジィ様の順で、机の向かいになる椅子へと案内された。
「さて、ようこそグリシーヌ家へ」
侯爵様がそう仰って、全員の紹介が始まる。
侯爵様はスフェーン=グリシーヌ様。
隣はやはり奥様で、アゲット=グリシーヌ様。
執事さんはカルセドニさん、メイドさんはシトリンさん。
シトリンさんは、このお屋敷にいる間、私についてくださるそうだ。
それから、玄関からご一緒したスウィフトさんは、グリシーヌ家のお抱え魔術師らしい。
いつかアジィ様が仰っていた、優秀な魔術師さんってこの方なんでしょうか。
私のことは、ヒューゴ様とアジィ様から紹介があった。
それから、ざっくりと事情の説明が終われば。
「しかし、あの堅固なエビナー邸を完膚なきまでに破壊するなんて。
レンガ嬢は、なかなかお転婆さんね?
アジィが手を焼くわけだわ」
そんな事を言いながら侯爵夫人がコロコロと笑われた。
私が直接壊したわけじゃ、ないですよ!?
でも、『ヤキトリ』をつかったせいで『バター』が起きて今回のお屋敷崩壊になったわけですから、これはやっぱり私のせい、でしょうか。
それに、たしかにアジィ様には色々迷惑をおかけしてますから、そこは返す言葉もないです。
今もこうして、ご迷惑をかけにお邪魔しているわけですし。
恥ずかしくて、俯いた顔が熱いです。
「そんな強い力を御せるなんて、レンガ嬢は見かけ以上に芯が強いと見える。
それに、笑顔がいいね。応援したくなるな」
続いてグリシーヌ侯爵様が、ニコニコしながらそんなふうに仰って。
相変わらず、私の顔は真っ赤に違いない。こんどは、照れてしまって。
「魔力制御の練習、しておいてよかったね?」
ユーリ様が、今度はいつものにこやかな感じで声をかけてくださる。
「はい。
でも、効果あったんでしょうか?」
「無駄はなかったよ、レンガちゃん」
あまり練習も進んでいなかったように思って口にだしたら、ユーリ様にそう言われて。
周りでは、皆さんが頷いたりしてらっしゃる。
そうなんですかね?
「巫女様が仰るんだ、間違いないよ」
私の心を読んだように、グリシーヌ侯爵様が仰って。
そうなら、よかったです。
私は、安心した。
「なるほど。
それでは、『ヤキトリ』と『バター』のどちらかがレンガ様のサポートに回ることで、どちらかが完全に力を使えるのですか。
つまり、どちらかが完全に姿を現すこともできる、ということかな?」
スウィフトさんの質問に、返答に困る。
「わかりません。
『ヤキトリ』や『バター』も、実際行ってみてどうなるか確実にはわからないみたいです。
いちど、試してみないと……」
「どこで試せるか、だな。
場所を探すのも、大変だろうて。
私もすぐには、思いつかん。
いずれ試すにせよ、時と所を選ばんとな」
ヒューゴ様が長いひげをしごきながら、ゆっくりと考えるように仰った。
「そういえば、神殿の方が訪ねてこられたようですね」
侯爵夫人が、お茶に口をつけながら話を変える。
「面目ございません。
今回のエビナー邸の件がレクト魔導騎士の暴走であることに、納得がいっていない者もいるようで」
ユーリ様の説明も、まあ、嘘ではないですよね。
魔導騎士が暴走したのが、私の『ヤキトリ』のせいだというわけで。
「聖都内、しかも旧市街側での大騒ぎですもの、神殿が気にするのも仕方がないですわ。
神殿にも、丁寧な説明をしてまいりましょう」
「はい」
侯爵夫人に対して、ユーリ様が静かに頷かれる。
「そういえば、レクトの国王陛下達の方は、どうなったかな?」
「午前の謁見ではひとまず知らんふりでした。
昨晩の詳細な情報が手元にないことからの、時間稼ぎですね。
あちらは。投入された魔導騎士の全滅も、ランベル伯爵の生存も、ついでに聖都の工作員が掃除されたことも、その他いろいろと、ほぼ把握できていないようです。
帯同している残存の魔導騎士は6人ですが、昨晩の詳細が判明するほど不安定になるでしょう。
暴走してもうひと暴れもありえなくはないですが、レクト国王やその周辺の性格などを考えれば、現実を直視できずに後先考えず逃げ帰ると思われます」
ミイツ様がグリシーヌ侯爵様に、流れるように説明される。
これが、カムロの情報力というやつでしょうか。
「あら。
魔導騎士などと自慢気にひけらかす割に、ずいぶん喧嘩慣れしていないのね?
中身が伴わなければ、持ち物がいくら珍しくても、迫力に欠けるわ。
今頃、執政官様がお会いになっている頃かしら。子供のお相手でお手間ね」
アゲット侯爵夫人は、にこやかに笑われた。
そうして、難しい話のあとにユーリ様とミイツ様はお帰りになり。
ヒューゴ様は今晩はこちらに泊まって、スウィフト様と屋敷の魔法防御を強化されるらしい。準備のために続いて別室に移られた。
侯爵夫妻は私達と食堂に移って、夕食を取りながら色々お話してくださった。
気さくな会話に、アジィ様も色々言葉を添えてくださって、私も次第に打ち解けられたと思います。
そして、随分夜も更け。
「それでは、お部屋に案内しますわ」
アジィ様がぜひにと申し出てくださって、私は連れられて応接室を出た。
「レンガ様、エビナー様のお屋敷は、いかがでしたか?」
廊下を歩きながら問われたので、
「そうですね。
バーベキューとかしていただいて、とても美味しかったです。
それに、皆で入った大きなお風呂も、楽しかったですね」
「……皆で? エメラルド様とも、ご一緒に?」
「はい。とても大きな、泳げそうなくらいのお風呂があって。
ありのままの姿でお話することで、隠し立てなくお互いに胸襟をひらくことができるとか」
「そう、ですか。
あの女狐め、やってくれますね。
では、私達も今からお風呂をご一緒、といいたいところですが。
残念ながらうちにはそのような大きな風呂はありません。
でも。
お風呂の後、お部屋にお邪魔しますね。
もっと色々なお話が聞きたいの。
隠し立てなくお互いに胸襟をひらく、2人きりのパジャマパーティを、いたしましょう?」
などと、微笑まれた。
なんだか、ちょっと聞き慣れない言葉があったような気がしますけれど、気のせいですよね?
アジィ様にこんな笑顔をされては、聞くにも聞けませんけれど。
お風呂から出て、用意されたパジャマを着て待っていると、しばらくしてアジィ様が私の部屋へとやってこられた。
パジャマ姿のアジィ様、なんだか色っぽいです。
「さあ、せっかく時間はあるのです、ゆっくり色々と、とりとめもなくお話しましょう。
お菓子や飲み物を用意しました。ちょっとだけ、お酒もこっそりと。
私、レンガ様のことがもっともっと知りたいわ」
そう言ってテーブルにトレイを置くと、ベッドに座って隣をポンポンと叩かれたのだった。
パパ、ママ、パジャマパーティです。
こんな状況ですけど、ワクワクしてしまいます。
どんなお話ができるか、楽しみです!
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