27-3 グリシーヌ家へ
2024年1月2日-敬称の揺れと文字が重なっていた箇所を修正
郊外のエビナー館を出て、聖都内にあるグリシーヌ邸へと向かう。
馬車には、ヒューゴ様、ジャロ師、メリーダ様、私の4人。
しばらく固まったあと再び動き出したメリーダ様は、私をアジィ様のところまで連れていくと譲らなかった。
「レンガ様を最後まできちんとエスコートしなければ、アメジスト様に笑われます」
そういいながら私の方を見るメリーダ様の目はとても心配そうで。
きっと、はじめてのお屋敷に行く私を気にかけてくださっているのだろう。
メリーダ様は、とっても優しいです。
そして、馬車の中。
「ところで、レンガ嬢の鞄から、なかなかすごい魔力を感じるのだが。
良ければ見せてもらえないだろうか?」
私の正面に座っていたヒューゴ様が、そんな事をいいだした。
うーん、元神殿騎士団長のママが使っていた宝具ですし、見せると面倒くさいことになりませんかね?
私が一瞬ためらうと、
「いや、こんなすごい魔力は、なかなかお目にかかれん。
魔術師なんぞやっておると、ここで好奇心を抑えろと言われては、道中拷問だ。
なんとか、たのむ。このとおり!」
そんな事を言いながら、なんと頭を下げられた。
宮廷魔術師長様に頭を下げられるなんて、ますますどうしたらいいか戸惑ってしまいますよ。
「なあ、レンガ嬢。ものは考えようじゃ。
事情もあるじゃろう、かわりに、悪いようにはせんと言質をもらえばどうじゃ?
ヒューゴ師も偏屈なところはあるが、悪人ではない。約束は守ってくれよう」
ジャロ師のこれは、フォローなんですかね?
「誰が、偏屈じゃ」
「心当たりが無いわけではあるまいに」
などと言い合うお2人。
それから、ジャロ師は私の方に向き直ると、今度は少し悪戯っぽい顔になって、
「というか、実は儂も見てみたいのじゃ。悪いようにはせんから、見せてくれぬか?」
などと仰った。
正直判断に悩みますけれど、関心を持たれてしまったようですし、下手に断って探られるより味方になってもらったほうが良さそうです。
それに、ジャロ師にはお世話になってますし、いい人です。少しでもお世話になったお返しをしたいとは、思っているんですよ?
「わかりました」
私はそういうと、鞄を開けて『宝具』を取り出し、魔力を通す。
「ほぅ!
これは、『宝具』か。
見事なものだ」
「レンガ嬢の魔力を糧に、意のままに動く仕組みじゃろうか。
宙を浮遊できるようじゃな。
それも、かなり速く」
「おそらく。
魔力をこの魔道具に移動することも、それを放出することもできよう。
もしかしたら、逆もできるかもわからん。
どうやら、使い手と『宝具』の間に強い繋がりが構築されるようだからな」
ヒューゴ様とジャロ師が、『宝具』を眺めながら、感嘆の声を漏らす。
見ただけで、『宝具』だとわかるんですね。
しかも、仕組みまで。私の理解なんかよりずっと深くお見通しのようで、私も勉強になります。
それに、ママの『宝具』と強く繋がるなんていわれると、なにか嬉しい気がしてきますよ。
「しかし、ここまで精緻な加工に術式は、なかなかお目にかかれん。
素材も色々と混ぜ込んで組んである。
そして容姿も飾り気がないようでいて、細部の作りなどおそろしく美しい。
さすが『宝具』。儂の手にはあまる品じゃな」
「うむ。
王宮や10公家にある『宝具』に並ぶ、見事なものだ。
レンガ嬢、これはいったいどこ……」
ジャロ師、ヒューゴ様と、更に話が続いたところで。
ヒューゴ様は言葉を止め、
「いや、詮索はよそう。
素晴らしいものを見せてもらった、感謝する。
必ず、悪いようにはせん」
「儂もじゃ。
大切なものを見せてもらったのだ、きっと魔術師として礼を返そう」
そんなふうに言われていたら、私もママが褒められたみたいで、なんだか照れ臭くなった。
「……もう、グリシーヌ家ですね。
あら?」
「なにやら、騒がしいようじゃな」
「どれ、私が聞いてみよう」
メリーダ様とジャロ師が異変に気づいて、ヒューゴ様が確認の声を上げた。
「これ!
こちらは、エビナー侯爵家から来たものだ。
グリシーヌ侯爵家に用がある。
道を、開けよ」
すると、後ろに何人ものマント姿を引き連れて、30歳にならないくらいに見える1人の男性が、グリシーヌ家の門前からこちらへとやってきた。
そのとき男のマントが揺れて、その中が見える。
神官服に鎧、おそらく神殿騎士だ。
「私は、神殿騎士団副長を努めますボウモアと申します。
エビナー邸の崩壊事件について確認したいことがあり、少女を1人探しているのです。
ご存知、ありませんか?」
馬車の中まで聞こえるような大声で、そんな答えが返ってきた。
「あやつ、レンガ嬢のことを知っておるな。
流石に耳が良いと言うべきか?
あれだけ大事になれば、旧市街のトラブルにうるさい神殿騎士のやつらが出てくるかもしれんとは思っておったが。
なにを考えておる?」
ジャロ師はヒューゴ様に視線を向け、メリーダ様は私をかばうように抱いてくださった。
神殿騎士団の副長様!
もしかして、ママの知り合いの方じゃないでしょうか?
それなら、ママについても詳しく知っているかもしれません。
いちどお話してみたくは、ありますけれど!
「あの……」
私が声を上げようとしたときだった。
「探している少女とは、もしかして私のことですか?」
目前のお屋敷から出てきた、学院の制服を着た2人の影。
透き通った声が通りに響き、そこにいる全員が息を呑んだのが分る。
私も、驚いた。
この声、いつも聞くのとだいぶ印象が違いますけれど、……ユーリ様?
「騒がしい。誰の許しを得てここに来ました?」
「これは、巫女様。このようなところにおられますとは……」
「探し人は、私ではないようですね。
ボウモア、再度聞きます。
誰の許しを得てここに来ましたか?」
ボウモア様の言葉が少し止まると、ユーリ様が繰り返した。
なんだか、いつもよく見る姿なのに、ユーリ様の学院での親しみやすい感じが嘘みたいですよ。
「……巫女様にはご機嫌麗しく。
私は昨日のエビナー邸崩壊事件を調査しており……」
「2度も言葉が届かずに、機嫌が麗しいと思いますか?
答えなさい。
誰の許しを得て、ここに来ました?」
ユーリ様の声が3度響くと。
ボウモア様は、静かにユーリ様に向かって膝をつく。
「私の判断で参りました」
「では、あとは私が行いましょう。
神殿に戻りなさい」
「それは……」
「神殿にもしものことが無いよう図るのが、そなた等の役目ですね?」
ユーリ様の言葉になにか言い返したい様子だったボウモア様だが、そんなふうに続けられて。
「……わかりました、急ぎ神殿に戻りましょう。
いずれ件の少女の姿を拝見するのを、楽しみにさせていただきます」
なにかユーリ様の顔を窺うようにそんな事を言ってから、マントを着た人たちを引き連れて去っていった。
あれ、たぶん全員神殿騎士っぽかったですね。
こっそり後ろ姿を数えてみたら、全部でざっと20人はいましたよ。多すぎませんか?
「皆様、神殿の者が騒がしくして、申し訳ありません」
ユーリ様が、初めて見るような殊勝な様子で謝ったかと思ったら、
「皆様、どうぞ中へ」
もうひとりいた学院の制服姿の女性が馬車の所まで来て……って、ミイツ様じゃないですか。
ユーリ様がおられることといい、2度びっくりですよ。
門をくぐり整えられた花壇を回って玄関前に着いたら、ヒューゴ様、ジャロ師、メリーダ様、私と順に馬車を降りる。
門の前では、アジィ様が何人かのお供を連れて、私達を迎えてくれた。グリシーヌ家の魔術師さんや騎士さんでしょうか?
「アメジスト様、レンガ様をお連れいたしました。
どうか、間違いなどありませんよう。
よろしくお願いいたしますね?」
「エメラルド様、これまでありがとうございます。
後は私にお任せください。
レンガ様、グリシーヌ邸にようこそ。昨日は大変でしたね、さぞ恐ろしかったのではないですか?
これからは、私が全身全霊を捧げて、お護りいたしますわ」
メリーダ様と向かい合ったアジィ様が、笑顔で見つめ合って言葉をかわす。
なんでしょう? お2人の笑顔を見ていると、身体がすくむような気がしてきます。
「しかし。こんな恐ろしい出迎えでは、寿命が縮むな」
ヒューゴ様が息をつくと、
「全くじゃ。
……スウィフト、後を頼む」
「精一杯努めます、ジャロ師」
ジャロ師は、スラリとした青年と挨拶を交わして、そんな事を言った。
ジャロ師よりも強いくらいの魔力に、ジャロ師の短杖によく似た意匠の立派な直杖。たぶんお知り合いの魔術師さんなんでしょうね。
「それでは、皆様中へ」
そして私は、アジィ様に促されてグリシーヌ邸へと入ったのだった。
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