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27-1 目覚め2

「…………、ん……」

 小さな吐息とともに、唇に小さな温かさを感じたような気がして、目を覚ます。

 目の前には、間近にメリーダ様の顔。ゆっくりと開いていく眼が、うるうるときらめいて、美しい。


「おはようございます、メリーダ様」

 とりあえず、挨拶をする。

「……おはようございます、レンガ様。

 いつからお目覚めになっていたのですか?」

 挨拶を返してくださったメリーダ様は、そのあと少し問い詰めるような目になって。


「いつといわれましても、今起きたばかりです」

「そうですか。

 ……昔の物語の中に、意外と真実や叡智といったものが沈んでいたりもするのでしょうか?」

 私がこたえると、メリーダ様はなにやら考えるような表情でそんな事をいいながら。


 ぽすん。

 私の隣、私が寝ていたベッドの上に座ると、私に向かって軽く手をひらく。

 えーと、これって、あれですよね?

 私が優しく抱擁すると、メリーダ様は少し強めに私の体を抱きしめて。

 そのまま、私の顔を見て目を閉じる。

 唇で頬に触れれば、メリーダ様は先程よりいっそう潤んだ目で私の方を見つめて。


 メリーダ様の瞳、表情、柔らかさ、香り。

 なんだか、変な気持ちになっちゃいそうです。

 昔、本とかを読んでいたらなんか書いてあったり、冒険者していた頃に酒場で小耳に挟んだような、そんなこと。

 でも、そういうことって本来、女性同士ですることじゃないですよね?

 それに、こんなに明るいのにそんなこと……

 って、朝ですよ!

 明るい日差しが窓から差し込んでる、平穏な朝ですよ!

 でも、いつの朝なんでしょう?

 そして、ここどこです?

 お屋敷は、確か崩壊したはず。日が射す窓も、あるはずがありません。


「あの、メリーダ様……」

「はい、レンガ様……」

 抱き合ったまま再び目を閉じるメリーダ様の小さな体重を感じながら、私はゴクリと唾を飲んで。

「ここ、どこでしょう?」


 メリーダ様の目が、正面から私を捉える。

 なんだか、愕然としているというか、怒っているというか、呆れていると言うか、そんな瞳が。

 諦めの色になったかと思ったら。

 メリーダ様は、小さくため息をついて。体を離して立ち上がると、

「ここは、聖都郊外にあるエビナー家の館です。

 レンガ様は昨日の魔導騎士との戦い以来、ほぼ1日寝てらっしゃいました。

 これでも私、心配しましたのよ?」


 ああ、それはずいぶん心配をかけてしまったに違いない。

「ごめんなさい、メリーダ様」

 私が謝ると、メリーダ様は仕方がないというように肩をすくめ、

「無事にお目覚めになったのでしたら、構いません。

 お体の調子は、いかがですか?」

「しっかり寝たせいか、問題ないと思います。

 よっ……と」

 私は、ベッドを降りて立ち上がる。

 気遣うように手を差し伸べてくださったメリーダ様だったけれど、私が問題なく立ち上がると、

「もう、あまり無理をなさらないで」

 眉をひそめそう仰ってから、ゆっくりと微笑んでくださったのだった。


 コンコン、コンコン、……

「はい、どうぞ」

「失礼します。

 飲み物と、軽食をお持ちしました」

 ノックの音にメリーダ様がこたえると、扉を開けてラピスさんが入ってきた。

 押してきたワゴンの上には、牛乳とサンドイッチのようだ。

「レンガ様、召し上がりますか?」

 メリーダ様に問われれれば、

「はい、いただきます。

 あまり気になっていなかったのですけれど、美味しそうなものを見たら、急にお腹が空いてきました」

 私はなにも考えずに正直に答えた。

「ああ、大変申し訳ありません。

 少々用事を忘れておりました。少し外しますが、お許しください」

 すると、ラピスさんがそう言って、先ほど開けた扉から再びスルリと外に出ていく。

「まあ。困ったラピスですね」

 メリーダ様はワゴンのあたりまで追ってそう仰ると。

 そのままワゴンの上のサンドイッチを手にとって、私の口元に運んでくださった。

「どうぞ」

 メリーダ様、なにもそこまでしていただかなくても、大丈夫ですよ?

 でも、そんなに心配をおかけしてしまったんですね。

「ありがとうございます」

 私はとても申し訳ない気持ちになりながら、子供のようにメリーダ様の手にあるサンドイッチを齧った。


 おいしいです。

 でも。

 サンドイッチを食べたら、『猫のパン』のことを思い出しました。

 皆、どうしているでしょうか?

 変な心配とか、かけていないといいんですけれど。

 ああ、早くレクトとのことが一件落着して、お仕事に戻れると良いですね。

 そのときは、またメリーダ様に『猫のパン』のパンをお持ちして、お礼の足しにでもしたいです。


 もぐもぐ、ごくん。

 私が口の中のサンドイッチを飲み込むと、今度は牛乳をそっと差し出してくださるメリーダ様。

「ありがとうございます」

 お礼を言ってコップを受け取り、ゴクリゴクリと飲み干す。

 はあ、人心地がつきました。


 コンコン、コンコン、……

 そうしていたら、またノックの音が聞こえて。

 ラピスさんかなと思ったら、ラピスさんを伴ってクォーツさんが部屋に入ってきた。

「レンガ様、おはようございます。

 お身体の方は、なにか異常はございませんか?」

 そう言いながらも、クォーツさんからは私を観察するような視線を感じる。

 心配してくださっているんですかね?

「おはようございます、クォーツさん。

 はい、体の方には、特に異常も感じません」

 私が微笑みながら腕を回したりしたら、クォーツさんは柔らかい笑顔を浮かべて、

「それは何よりでございます。

 それでは、大変申し訳ございませんが、ご用意の後応接室におこしいただきたいのです。

 旦那様はじめ皆様が、ぜひお話をお伺いしたいと仰せです」

 そんなことを伝えてくれたので。



 そして、私は応接室に向かった。

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