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26-3 虎退治

2023年1月22日-誤字修正。

 魔導騎士を倒せると思った瞬間、中から突然姿を表した、力強く白い虎の魔獣。

 なんとか戦わずにすませたい。

 私は必死に知恵を働かせたのでしたが。


「そりゃ、おもしろくねぇな!?」

 開いた穴の向こうから、叫ぶように投げかけられた声。

 見ると、こちらに走り寄ってくる影、そこから伸びる細い何か。

 何?

 気付いた直後に、宝具は私とその影の間へと動いて。


 クィクィクィクィィいぃん……

 たくさんのなにかが当たる音、拳大の礫のようなものが周りの壁にあたって崩し、そして苦しげに吠える獣……

 ガルゥゥゥ、ウ!


 獣は開いた穴の方に向かって、一声叫ぶ。

「へっ、文句はオレを追ってきたオッサンが聞いてくれるぜ!」

 走り寄っていた影は、突然消える。いや、横に動いて姿を隠したのだろう。

 そして見えたのは、後ろを追っていたのだろう、エビナー侯爵の姿。

 危ない!

 獣が咆哮を発して、


 パアァァァァ……ンッ!

 耳を裂くような破裂音があたりを包む。

 槌を振り抜いた姿の侯爵様。

 侯爵様と獣との間には、ただ広い空間。屋敷がすっかり崩れ落ちてしまっていた。

「儂の槌に負けぬ大声とは、虎よ、なかなか威勢がいいな!」

 侯爵様がニヤリと笑う。

 あの咆哮を、槌で殴り潰したとでもいうのですか!?

 正直信じがたいですが、さすが『轟槌候』様というところですか!


 ガアァァァァァァアアア!!

 怒っているのだろうか、上を向いてひときわ大きく叫ぶ虎。

 その声は屋敷を震わせてさらに崩壊を早め、さらには屋敷を取り囲む魔力壁までをも震わせた。

 魔力壁が、消える!

「ふむ。

 ジャロ師、ここに来る気だな?

 とりあえず虎退治の舞台を作ってくれるのか」

 侯爵様はそう言い終わるや、体の周りを巡らせて槌を乱打する。


 ピシピシピシピシィ!

 侯爵様をめがけて放たれたたくさんの礫が、叩き落されて周りに散る。

「なかなか粘り強いが、儂と戦うにはまだ早かったようだな、青二才!」

 再び影に潜んだ魔導騎士に、侯爵様が嗤って仰る。

「たしかに、躾がなっておりませんな。

 先程の鼠は仕留めてまいりましたが、次はこちらを処分しましょう」

 離れた向こうで、声とともにクォーツさんが姿を表す。

 間髪入れずそちらをめがけて弾けるホウセンカ。きらめく光と影。

 まさか、いまの礫全部をペンで迎え撃ったとかですか!? 信じられない!


 そして、ズルリ、と。

 地を這って姿を表す、黒に侵されつつある魔導騎士。

「はは、はは、やってくれる。

 だが、レクトの力をこんなものだと思うなよ?

 魔導騎士は、俺達だけじゃない。 その姿を見て、絶望するんだな!」

 苦しげに、でもどこか陶酔したように、そう叫ぶ。


 叫ぶのだったけれど。

「そうだな。

 その姿を見て、絶望するといい」

 静かにかけられた声、放り出された15の……あれは、首?

「お、お前ら……。う……嘘だ!

 なにが、おきた?

 世界最強の魔導騎士が、こんなに殺られるはずはねぇ!!

 誰だ、誰がやりやがった!」

 狂乱したように叫びだす魔導騎士は、しかし一瞬後に胴と首が別れて。

「魔導騎士を世界最強と讃えられるのにやぶさかではないが。

 だが、君たちのような紛い物に『魔導騎士』を名乗られると、無性に腹が立って仕方ない。

 通行止めだと言っても、出番は終わりだと言っても、言うことを聞かないし。

 強化どころか耳が悪くなっているんじゃないかな?

 それとも、悪くなっているのは、頭か。


 ああ、侯爵閣下と屋敷の皆様、お招きされてもいませんのに、押しかけてしまい申し訳ない。

 だけど、うちにパンを届けてくれるはずのお嬢さんがなかなか顔を見せてくれないものでね。

 様子を見に来たんだ」

「ガ、ガゼル様!」

 遠く応接室のあった向きから、フェイ様の声が聞こえる。

 血にも染まらず軽く微笑って私を見たのは、ガゼルさんだった。


「こりゃ、いつまで無駄口をたたいておる!

 儂もあんなものをいつまでも拘束しておけん!

 虎を一度解放する、さっさとなんとかするがいい!!」

 フェイ様と並んだジャロ師が、短杖を戻しながら叫ぶ。

 なるほど、虎の攻撃がなかったのは、ジャロ師が止めてくださったんですね!


「フェイ君は、もう少し下がって見ていたまえ。

 侯爵閣下、差し出がましいと思いますが、お手伝いさせていただきたいっ!」

 ガゼル様が動いて、虎がそちらを向き叫ぶ。

 ああ、あの攻撃は!

 危ないと思った次の瞬間。

 閃く剣の輝き、悲鳴を上げる風。屋敷はガゼルさんを左右に避けるように砕け落ちて。

 まさか、虎の咆哮を斬ったんですか!?


「ふふん、こちらに儂もおるのを、忘れておらんか?」

 言いながら虎に迫る侯爵様。咆哮を上げる余裕は、ない!

 しかし、虎は即座に身体を回すと、牙と爪にフェイントで尻尾をつかい、侯爵様と激しくせめぎあう。

 はやい!まるで分裂したように見えます!

 虎も、侯爵様の槌も!!


「ほら、余所見をしちゃ、ダメじゃないかな?」

 虎がまた身体を回した直後、それまで首のあったところに走る閃き。

 ガゼルさんが首を狩りにいったみたいだ。


 侯爵様とガゼルさんが、連携して虎を狙う。交互に、同時に。

 それをスルリスルリと躱しながら、反撃する虎。

 侯爵様とガゼルさんと虎、まるで3人で踊る円舞のようだ。


「もらった!」

「これまでだな!」

 侯爵様とガゼルさんの攻撃が、完璧なタイミングで決まる。

 これは逃げられない。倒した!

 たぶん見ていた皆がそう思ったとき。


 ゴゥ!

 一瞬でものすごい強風が虎から吹き出し、全員が吹き飛ばされる。

 私も屋敷の壁とともに崩れた床に叩きつけられ、背中に感じた激しい痛みに瞬間呼吸ができなくなって、目の前が暗く染まる。

「体毛を高速で振動させて、あの衝撃波とも言うべき風を生み出したのですね」

 脳裏に聞こえたヤキトリの声で、なんとか目を覚ます私。

「いかん!」

 必死の形相で短杖を構え、虎と向きあうジャロ師。

 きっとまた拘束したのだろう。

 でも、あの流れている汗から見て、長く持つとは思えない。


 周りを見回せば、ゆっくり起き上がる人達の姿。

 でもそれは、すぐに戦えそうにもなかった。


 だけど。それなら。

 今、あの虎さんの動きが止まっているのなら。

 私は、今のうちにもう少しお話してみたいです!

「『ヤキトリ』、私はあの虎と話しあいたい。お互いわかりあえれば、これ以上きっと無駄な争いはしなくて済みますよ。

 とにかくなんとか、ここで戦いを終わらせたいです。

 ねぇ、なにか良いアドバイスとか、ないですか?」

 私は、私の中の『ヤキトリ』にそう聞いてみた。

 すると。

「では、こういうときにとるべき行動を、私の経験からお教えしましょう」

『ヤキトリ』はそんなふうに言って……

 ええ!?

 本当ですか? 本気ですか? そんなこと、うまくいくなんて……

 でも。『ヤキトリ』とこの虎は、似たものであるらしい。

 それなら、一度試してみますか……

 私は、周りの制止の声にも耳を貸さず、虎の前に歩いていく。


 そして、目の前には、私と目を合わせる白い虎。

「どうか、私の思いが届きますように……」

 私は『ヤキトリ』に言われたとおり、そのまま顔を近づける。

 はじめは怒りで溢れていた虎の瞳も、じっと見つめながら私が迫れば、戸惑ったように揺らいで。

 私は目を見ながら、さらに顔を寄せて。

 唇を、虎の頬に落とす。

 ちゅ……


「ここです!

 魔力を全て、強化に!」

 突然脳裏に聞こえた『ヤキトリ』の叫び。

 優しく頬を吸ったはずの私の中に。

 ずるずると、虎が吸い込まれていく。


 な、なんですか!?

 私は飲み込むのを止めるのも忘れて、そのまま虎を口の奥へと吸い込んでいく。

 ただ、ズルズル、ズルズル、ズルズル、と。


 目の前にある虎の前足が、藻掻く。

 バタバタ、バタバタ、バタバタ。

 でも、それも沈むように、ゆっくりと私の中に入っていく。

 ただ、ズルズル、ズルズル、ズルズル、と。


 のたうち、反り、跳ね、虎の胴が目の前で踊る。

 顔に風が当たるのは、さっきの衝撃波のやつかな?

 よわいですけど。

 私は、飲むのをやめない。

 ただ、ズルズル、ズルズル、ズルズル、と。


 目の前にやってきた虎の後ろ足が、必死に踏み止まろうとするかのように、力を込める。

 グ、グ、グググ、グッ……

 あれ、まだ意識があるんですね。

 でも、無駄な抵抗ですよ。

 いえ、飲みごたえが出て、面白いでしょうか?

 私はまだ、虎を吸い続ける。

 ただ、ズルズル、ズルズル、ズルズル、と。


 ああ、もう尻尾ですね。

 これでごちそうさまなんて、全然物足りないです。

 口の中で暴れる尻尾、こういうのを踊り食いっていうんですかね?

 最後まで、ゆっくり味わって飲み込む。

 ただ、ズルズル、ズルズル、ズルズル、と。


 あれ?

 わたしなんで、こんなことに……

 ああ、『ヤキトリ』にハメられました!

 あの虎がもともと魔力体だから、こんな事もできるんですかね?

 私は、朱と白の魔力でぐるぐるとかき混ぜられて全くまとまらない頭と体で、そんなことを思いながら。

 そのまま意識を失っていったのだった。

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