26-1 エビナー邸でレクトと戦うこと2
「みなさん、引いてください。
ここは、私が!」
6本腕の魔導騎士に押され、次第に崩れつつある戦場に私は着いて。
そう大声でいうと、屋敷の騎士さんや兵士さんの視線が、一瞬私に集まる。
なんだか、少し恥ずかしいですね。
「レンガ様、助かります。
『殲滅の戦乙女』が来てくださった!
これで、俺達の勝利は間違いなしだ!!
全員、一時後退!
再編成したあと、『殲滅の戦乙女』と肩を並べて奴等を駆逐する!」
ここの指揮官と思われる騎士さんの一言で、ゆっくりと後退するエビナー侯爵家の人たち。
ふぇぇえっ!?
ここでまさか、その名渾名を聞くとは。
……すごく、恥ずかしいです。顔から火が出そうですよぅ。
後退のタイミングを狙って、瞬足で追い切り崩そうとするレクトの魔導騎士。
それを私は、宝具から魔力を網の目を描くように撃って足止めする。
「おや。いつかの小娘か。
こんなところまで湧いて出て我々の邪魔をするとは、鬱陶しいにもほどがあるな。
悪いが。
……さっさと、死んでくれ!」
気づくと目の前に魔導騎士の刃。
『ヤキトリ!』
喚べば背後に現れる朱色の少女。
色を失って固まった世界には、気付かなかった方向から迫るいくつもの攻撃があった。
……これは、ちょっと良くないですね。
普通に向き合えば、速度は同じでも、攻撃の手数と技量で私が負けそうです。
「ご主人さま、いかがいたしましょうか?」
『ヤキトリ』が私に問う。
「この世界が止まる状態を、断続的に発生させることはできますか?」
「可能です。
ですが、魔力が断続的に変動します。
私が管理することは可能ですが、ご主人さまがその負荷に適応できるかは未知数です。
それに、私の力を強化と管理と会話に分けるのでしたら、どれもそれなりになってしまいます。
それでも、よろしいですか?」
「仕方ありません。
いくら速さで並んでも、対応する術が間に合わなければ、翻弄されてやられるだけです。
身も心も、早くならなければ!」
私が即答すると、『ヤキトリ』はため息をついて。
「先日は珍しく事前に確認をされたと思ったら、こんどはまたいきあたりばったりですか。
ご主人さまの勇敢さには、私では全く及びませんね」
「でも、つきあってくれるのでしょう?」
「約束しましたからね。
では、いきますよ!」
目の前の時が、動き出す。
時折止まる光景は、まるで連続した絵を順番に眺めているよう。
最初は焦りながら対処していた私も、次第にコツを飲み込んで。
おちついでゆっくり対処したほうが、断然良いですね。焦らなくても、全然間に合います。
ただ、判断に悩んで止まる時間を長くすれば、身体強化に回す魔力が減って動きが遅くなり、結局ぎりぎりになる。
落ち着いて最適の状態を保つ。そうすれば、戦況は均衡した。
「うぬ? なかなか、捉えきれんな。
ふふん、動きが妙だ。速さにブレがある。
魔法的な強化をしているのか?」
「ご主人さまが把握しやすいよう、聴覚系の時間経過を平均化しました。
キャンセルもできますが、どうしますか?」
『ヤキトリ』の言葉が割り込むと、私の動きがいくらか鈍る。
音の情報は重要ですし、会話することで攻略の糸口が見つかるかもしれません。
「助かります、ヤキトリ。
聴覚はこのままで。
動きを優先して、時間経過を早めてください。
だんだん慣れてきました、対応できると思います」
ヤキトリは指示通りしてくれた。
主観的に速さの増した魔導騎士の攻撃を、私は落ち着いて丁寧に捌いていく。
大丈夫、あわてなければ、対応できます。
「ふむ。動きが安定してきたな。
なかなか、成長が早い。
どうだ、貴様も魔導騎士の力を得てみんか?
人も虫けらのように払うことができるぞ」
「そんなの、逆に願い下げですよ」
私はそう言いながら、魔力をまとわせた宝具を振るう。
しかし、この魔導騎士には届かない。
くそう!
「あの馬鹿な女を見捨てれば、こんな無駄な被害を出さずとも済んだだろうに。
古臭いとはいえなかなか見事な屋敷だったが、これではもう住めんな!」
わ、攻撃のリズムが変わりました!
おちついて、ひとつづつ。流して、躱して。
ふぅ、なんとか凌げまし…ぃたっ!?
気付くと、太股に傷。
「ここまでかな?
1つ傷がつけば、動きは鈍る。
動きが鈍れば、さらに多くの傷がつく。
あとは、自明の理だ」
ニヤリと笑う魔導騎士。
私は笑い返す余裕も、もうない。
「ヤキトリ、宝具の魔力を一旦引きます。
とにかく、速さを。
攻撃が届く一瞬だけ、宝具に魔力を通してください」
なんとか速度を上げて、これ以上ダメージを受けるのを避ける。
「ほう、まだ余力があったか。
いや、ちがうな?
どこかを削ったか。
そんなもので、いつまで持つかな?」
目にも留まらぬ速さの戦いは、ゆっくりと推移していく。
「私はまだ続けられるが、貴様は次第に息が乱れているな。
あとそれほど続けられるものでも、なかろう。
いつまで続ける気だ?」
「それは……ここまでですよ!」
加速する時間、止まる私の身体。
一瞬でいくつもの深手を負った私は、盛大な血しぶきをあげて膝をつく。
その一瞬後に、全方向から魔力の光条を浴びた魔導騎士も、血を吹きながら床に倒れる。
「見事!
その空飛ぶ魔道具で罠をはるとは。
貴様との剣戟に夢中になって、散らばった魔道具を見失うとは、私もまだまだ未熟だったな。
してやられたよ!
しかし、私はまだ致命傷ではないぞ?
貴様の無駄死に、だな!」
身を起こそうとする魔導騎士。
でも。
「そうでも、ないですよ?」
膝を付きながら這い寄った私は、魔導騎士の上から倒れ込んで。
「『ヤキトリ!』」
再生と焼尽の炎が、私達を包む。
結局最後は、リンザ様を倒したのと同じ方法になりましたね。
でも、効果は実証済み。
これで私の役目も完了……
そう思ったときだった。
私は下から膨れ上がった何かに弾き飛ばされ、壁に激突したのだった。
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